■法則2号 運動の法則

(2014.1改定版)

さて、前回は質量を持った物質の基本性質、
動かない、かつ変化しづらいという「慣性の法則」と、
運動を計測する基本量である「運動量」について見ておきました。

今回は、次の法則、いよいよ本格的に
物体が動き出す「運動の法則/第2法則」の登場です。
これも文章で見るとあっけないものですが、
キチンと内容を見ていくと、奥の深いものとなっています。

そこから「力」と「加速度」という、いよいよニュートン力学の核心となる
新たな「量」も見ていく事にしましょう。

とりあえずは、ニュートンによる運動の法則から。

■運動の法則(第2法則)

運動量(mv)の変化は加えられた力の大きさに比例し、
力が働いた方向の直線にそって変化する

あっさりしたものです(笑)。
ただし、これらは例によって、空気も引力も無い宇宙空間における
原理原則な話なのに注意してください。
我々の生活する世界に適用するには、空気抵抗や重力の存在を考慮する必要があるのですが、
最初は単純な前提から話をしよう、といういつものお約束ですね。

この法則の内容を簡単に言ってしまえば、力は運動量を生む、という事だけです。
運動量(mv)は前回見たように、運動量=質量(m)×速度(v)で求められる“量”でしたね。

ここでニュートン力学において質量は不変だったのを思い出しましょう
となると速度=運動量/質量(一定)という式に変形すれば、物体の速度変化、
つまり加速&減速は運動量の変化だけに依存する事に気がつきます。
これは運動量を変化させる“力”は物体の速度も決定している、という事であり、
力=運動量&速度を変化させるもの、と考えてください。

とりあえず図にしてみるとこんな感じです。



図の内容を、もう少し説明しておきましょう、

上二つの内容は

●物体に蓄積される運動量は加えられた力の大きさに厳密に比例する。
2倍の力を加えれば、蓄積される運動量は2倍に増える。
当然、半分なら半分に減る。さらに、先に説明したように、これは速度に対しても同じとなる。
この時、力を加えるのは一度にやってもいいし、複数回に分けてもいい。
さらには長時間かけてゆっくりでも構わない。
(力から変換された運動量は保存され続けるから複数回でも長時間でも問題ない)

また、逆向きに加えられた力もマイナスの力として運動量に蓄積(減算)される。
ただし、力には向きがあるので、図のような単純な引き算になるのは
力の向きが、正反対方向の時のみ。
それ以外の場合は、ベクトルの合成が必要(後述)。

一番下の内容は

●運動は力で押された方向に向けて発生する。
つまり、力は方向を持ち、
加えられた力の方向と運動の方向とは1直線を成す。

ちなみに、ここから登場する力の向き、という考え方はベクトルという
力学の重要な要素なんですが、後でまとめて説明するので、
ここでは全体像を理解するのを優先して、先に進みましょう。

力が0、あるいは最初の一瞬だけ力が加わる前提だった
慣性の法則とは違って、運動の法則では加わる力が持続する、
あるいは複数回加わる、という前提に立っています。

当然、力が加わる間は加速が続き、速度が上昇します。
速度が変化する以上、「等速」直線運動が成立しなくなり、
これによって慣性の法則は破られ、運動の法則の世界に入って行くのです。

が、力が加わらなくなった後、あるいは作用する力の合計がプラスマイナス「0」
の状態になると、物体は再び慣性状態、等速直線運動か静止に戻ります。
実際の運動は、この慣性の法則と、
運動の法則が入り混じりながら展開するわけですね。




鉄砲の弾丸が、例の無重力で真空の単純空間で撃ち出されたなら、
これは慣性の法則に従います。
この場合、運動量は最初に得た火薬の爆発によるものが全てで、
以後は永遠不滅に一定に維持されたまま、等速直線運動でオシマイとなるわけです。

ちなみに地球上でなら、押しのけた空気に運動量が乗り移る、つまり奪われ続ける結果、
ひたすら減速して行きますから、運動量は最初が最大で、以後は減るばかりとなります。
(ただし厳密にはこれも仕事とエネルギーと熱量で考える必要がある)

通常の飛行機やら自動車ではそれじゃ役に立たないので、
複数回にわたって、そして持続的に加速が行なえるように力を発生させるエンジンを搭載しています。
この結果、力は最初だけでなく、複数回、さらには持続して加わるため、
運動量は次々に蓄積されて行き、さまざまな複雑な運動へと発展して行く事になるのです。




もう一つ、慣性の法則と運動の法則との重要な違いがあります。
それは曲がる、という点です。
力が加わった運動量の変化は基本的に速度の増減を意味しますが、
もう一つ、単純に曲がる、という運動も含まれます。

直線運動でない、曲がるという運動は、それだけで
等速「直線運動」が大前提の慣性の法則を破るからです。
そもそも、運動中に外部から力が加わらない限り、曲がる、とういう
運動は生じないので、これは慣性の法則には従いません。

なので、例え等速で運動していても、曲がる運動、
回転運動は慣性の法則ではなく、運動法則の支配下にあります。
そして、曲がってる間中、力が加わり続けます。
人工衛星なら地球の重力が、旋回中の飛行機なら主翼の揚力が、
自動車ならタイヤの摩擦力が、それぞれ直進を妨げる力なのです。

運動の法則と慣性の法則の差は、
物体に力が加わるかどうか、という点につきるわけです。


ちなみに、人間の感覚は力(加速)を感知できても、
実は運動そのものを感知することはできません。
なので、等速直線運動状態の空間の中では、それが停止してるのか、
等速直線運動中なのかを識別できません。

なんだそれ?というと、目隠しした状態で、飛行機や列車に乗るとします。
この時、発進、停止ではプラス、またはマイナス方向の力(加速)がかかるので、
自分の進む方向がわかりますが、定速運動に入ってしまうと、
どちらに進んでいるのか、それどころか
運動してるのかすらわからないはずです。
前回も見たように、静止状態、定速直線運動はともに加わる力が「0」
のため視覚などの判断材料がないと、認識できないのです。

ついでに、人間は力の種類も識別できません。
地球上で人間が感知できるレベルの力というと、
運動の力、磁力、重力がありますが、これらの識別は不可能です。

なので高い運動の力が加わる戦闘機のパイロットは飛行中、
自分にいま加わってる力が重力なのか、運動のGなのか識別できません。
そして、日常生活で長時間にわたり重力のような大きな力を
他から受けることはまずありませんから、
人間は強い力を重力と見なしがちです。

この結果、旋回運動中に機体にかかるGと重力の識別が出来なくなり、
機体の上下の向きを認識できず、地面の方向を見失う
いわゆる空間失調となって、墜落事故に繋がる事になります。

さらに、運動の力と重力を人間は識別できない、
というところからアインシュタインの最終兵器、
一般相対性理論が産まれるのですが、
「一般」の方はさすがに難解で、私にはようわかりません(涙)。



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