■そして力だ 力はエネルギーなんですよ、虎仮面さん


通常のニュートン力学と異なる
流体力学の重要な要素はもう一つありまして、それが力の定義です。

ニュートン力学では力を

質量×加速度=力(ma=F)

と定義します。単位はkg m/ss ですね。
物体に「力」が加わって、その運動に変化があった場合、
その変化の量を示すのが加速度(a)です。
なので「力」は物体の質量と加速度の積となります。
当然、慣性運動中、そして完全静止中はなんら運動的な変化がありませんから、
加速度はゼロ、従って力も全く掛かってないゼロになります。

ただし加速度という用語がそもそも変でして、別に加速だけを計るわけでは無く、
物体の運動のあらゆる変化量を示す数値です。
加速はもちろん、減速も加速度を伴いますし、
直線運動から曲がる場合なども運動の方向が変れば
速度に変化がなくても加速度を伴います。
本来なら変化度、移動度、といった概念なのです。

でもって流体力学では、単純な「力」は存在しません。
なんで?というと、流体力学では「力」は全て「圧力」になるからです。
この結果、例え静止状態、さらには慣性運動中にあっても、
そこには常に力が発生してる、という前提になって来ます。
通常のニュートン力学では考えられなかった状態ですから、この点も要注意です。



例えば、プールの水を考えてみましょう。
重力が掛かってるので、下向きに力が加わっている、
つまり床に大きな水圧がかかってるのは当然で、
この辺りは通常の物体と変わりません。

ところがプールではそれ以外にも、横の壁に対して大きな力が掛かってます。
これが圧力です。このため、プールの壁は頑丈に造らないと崩壊します。
さらに言えば、水中に物体を置くとあらゆる方向から水圧が加わります。
潜水艦などが圧潰する場合、上からの水圧だけではなく、
全方向からの圧力でグシャリと潰されるのです。
つまり、ただ静止した水がそこにあるだけで、力が生じている事になります。
単なる静止状態、すなわち慣性状態ですからニュートン力学では
力の発生なんて考えられなかった状態なのに、です。

この点は空気でも同じことが言えます。
風船やタイヤのチューブを考えてみましょう。
両者とも内部から壁部に向け外向きの圧力が掛かってる事で、
常に膨らんだ状態を維持しています。
これまた静止状態、すなわち慣性状態にあっても、常に力が生じている事になります。
これが流体力学の特徴で、「力」ではなく「圧力」のため、
単に流体が存在するだけで、そこに常に力が生じているのです。

となると、先に見た、

エネルギー 力   運動(仕事)

の関係はどうなってしまうのか。
この点を確認するため、エネルギーと力の単位(次元)を見てみましょう。

圧力は面積辺りにかかる力の大きさですから、以下の式で求める事ができます。

圧力=力÷面積(ρ=F/S)
(密度の記号はρ(ロー))

ここで圧力の単位(次元)を求めてみましょう。
Pa(パスカル)なんていう馬鹿みたいな単位は無視して、
キチンと各単位を使って上の式を計算すると、

kg m/ss(圧力)÷mm(面積)=kg/mss(キログラム メートル 秒秒)

となります。
では流体のエネルギーの単位(次元)はどうなっているのか。
ここでもJ(ジュール)とかいうマヌケな単位は無視して、キチンと計算で求めます。
ニュートン力学では位置エネルギーを

力×距離(FL)、

という式、運動エネルギーは

質量×速度×速度(mvv)
(光速以外は1/2mvvとなるが、ここでは、ただ単位を求めるだけなので1/2は外す)

という式でで求めました。

両者は代入によって変形した同じ式ですから、
どちらを使っても問題ないので、ここでは運動エネルギーの形で計算しましょう。
ただし流体力学では「質量」は「密度」に取って代わられるので、
運動エネルギーの式は以下のようになります。
この結果、エネルギーの単位も変わってくる、というのに注意してください。


密度(ρ)×速度(V)×速度(V)=流体の運動エネルギー

この式から単位(次元)を計算すると、

kg/mmm(密度)×m/s(速度)×m/s(速度)=kg/mss(キログラム メートル 秒秒)


はい、上で求めた圧力と全く同じ単位、すなわち次元になりました。
よって両者は本質的に同じものだ、という事を意味します。

すなわち流体力学ではエネルギーはそのまま力になります。

この「力」と「エネルギー」が同じものになってしまう、といのは
ニュートン力学をキチンと理解してる人にとっては狂ってる(笑)としか
言いようがない事態なんですが、これこそが流体力学のキモなので覚えて置いてください。
実際、水圧などを考えれば、ただ水が存在するだけで力が生じる、
流体はあるだけで力を伴う、というのは理解できるはずです。

ちなみに世の中の流体力学解説の8割は、なぜかこれをまともに説明してませんから、要注意です。
この点を理解してないと、ベルヌーイの定理が理解できませんから、
なんで飛行機が空を飛ぶのか、永久に理解できない事になるんですけどね。

でもって、これを

エネルギー 力   運動(仕事)

の変換で考えると、

圧力(エネルギー)   運動(仕事)

という形になって、エネルギーから力への変換が存在しなくなってしまいます。
実際はエネルギーと圧力が一体となってしまってるので、
圧力エネルギーとでもいうべき、新しい量を定義するべきだと思うんですが、
物理学者の皆さんは特にこれを問題にしてませんから、ここでも同じように扱います。
なんで?と私なんかは思うんですけど、世の中がそうなんだから仕方ない。

このため流体力学においては、エネルギーの保存法則は力の保存、という形で示されます。
これが有名なベルヌーイの定理となるのですが、この点は次回に解説します。


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