■まずは質量から違うのだ  

まず、基本中の基本を確認します。
ニュートンが17世紀に始めた力学において、必要となる基本量は三つだけです。
この三点の量から、あらゆる力学的な計算を行います。

■質量=体積×密度(基本単位:kg)

■大きさ=長さ、幅、高さ、距離、面積、体積(基本単位:m)

■時間(基本単位:秒)



これらは地球上で生活してる限り、誰がどこで計測しても必ず同じになる量です。
ただし、質量ではなく「重量」(基本単位:Kg m/ss)とした場合、
地球の遠心力の差(赤道付近で最大)、地殻構造による引力の差、
などによって場所によっては0.5%程度、1t の重量だと50s前後の差が付きますから注意。

…せっかくですから、念のため、「重量」と「質量」の違いも確認して置きましょうか。

質量は、物体の密度と体積を元に生じる固有の量。
すなわち一定の体積にどれだけ原子や分子が詰まってるかを示す量となってます。
これは物体の動かしにくさ、に直結しています。

重量は、その質量に地球の引力、下向きの力が掛かったものです。
これは単純に重さ、ですね。

1m四方で10sの、空気抵抗を無視できる程度の大きさの箱を考えましょう。
これを地球上で地面から持ち上げるには上向きに約98s m/ssの力が必要です。
(質量10s×重力加速度9.8m/ss)
ところが同じ箱を重力が1/6の月で持ち上げるなら、
わずか約16.3s m/ssの力で持ち上げられてしまいます。

これは月と地球の引力の大きさが異なるため、重量が変ったからです。
さらに無重力空間でなら、引力がありませんから、重量そのものが存在しません。
何ら力を掛けずとも、最初から空中に浮いてます。
このように物質が持つ重量は引力の条件によって大きく変化します。
無重力空間では0にまでなってしまうのです。

対して質量はどの条件でも常に同じ量、同じ数値となります。
10sの質量の物体は月でも無重力空間でも10sの質量を持ちます。
物体の大きさと中にある分子や原子の数は変わらないからです。
(厳密には温度による体積の膨張、縮小があるが質量は変わらない)

この点は質量によって生じる、動かしにくい、という特性を考えると判りやすいでしょう。
ツルツルで摩擦が無視できる床の上で、先に見た10sの箱を移動させる事を考えます。
よいしょと真横に箱を押して動かす場合、重力は垂直方向の力ですから、
水平方向の移動には影響を及ぼしません。
このため純粋に横方向に掛ける力だけが問題になります。

この結果、地球上でも月面でも、同じ大きさの力で押さないと箱は動かず、
10sの質量の物体を秒速1mで横方向に動かすのに必要な力の大きさは
1秒間に10s m/ssで、地球でも月でも、替わりません。
無重力空間では空間に浮いてる箱を押すことになりますが、
必要な力の大きさはやはり同じです。
つまり物体を横方向に動かすのに必要な力は条件によらず不変で、
これは物体の質量が不変である事を意味します。
(無重力空間では上、横の区別は無いが)

結局、両者の違いは、下向きの力、引力が掛かってるか否かで、
地球に暮らす私たちにとって、当たり前の下向きの力、引力は
広い宇宙では逆に特殊な存在なのだ、という事にもなります。



アポロの月着陸船が妙にショボイのは、引力の小さい月の上でなら、この構造で十分だからだ。
月面では重量が小さくなる、つまり下向きの力、構造を破壊しようとする力が小さい以上、
各部の補強は地球よりずっと少なくていい。
対して、この着陸船の大きさと、そこに含まれる、原子、分子の数は常に一定、
つまり体積と密度は常に一定だから、どこに居ようとその質量は変わらない。
(厳密には温度による体積の膨張、密度の低下があるが、結局、質量は変わらない)

ちなみに写真は地上訓練に使われた着陸船の実物だが、
地球上の訓練で人が載ると潰れてしまうため、補強をした上で使用したらしい。





という感じで、質量については理解していただけたでしょうか。
が、その基本的な量の一つである質量、実はこれが流体力学では変わって来ます。
理由は簡単で、固体と違って、常に同じ物体がそこにあるわけでは無いからです。

例えばパイプの中を流れる水をの運動を調べる場合、
観測点を流れる水は常に違うものになってます。
同じ水が常にそこあったら、それは流れてない、つまり運動をしてない事になります。
このため、質量と言ってもパイプの中の水のどこからどこまでの水を見ればいいのだ、
という事になって来てしまいます。
よって通常は体積の指定をあきらめて、密度だけを計測する事になります。
(質量は体積×密度で求められる数字)

すなわち流体力学では、質量の代わりに密度を使用します。

これは極めて重要な点なので、必ず覚えて置いてください。
気体や液体では温度で密度が大きく動くので、この辺りは要注意なんですが、
基礎レベルの流体力学の場合、ほぼ無視できるので、この点はあまり気にしなくて大丈夫。

そして、その他の二要素、「大きさ」と「時間」に関しては、流体力学でも
ニュートン力学と同じで、特に変わった部分はありませぬ。


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