■アメリカの出版事情
というわけで、宇宙愛という名の下に、我々の
オミヤゲ屋さんにおける冒険は絶賛展開中なわけだ。
「安いな、宇宙愛」
そもそも物質かも怪しいからね。
経済的価値を求めちゃいけない。
「精神的な充足も伴ってませんが」
それは個人差というものさ。
さっそく行ってみようか。
「あ、今回初めての日本の漫画?」
ピンポン。しかもこれ、ただの漫画じゃなくて、
いわゆる漫画で学ぶ系の本なんだ。
ちなみにこれはマンガで学ぶ物理学で、
著者名からして、おそらく日本の出版物の翻訳版だろう。
「へー、あっちでも需要あるんだ」
わからん。
でもタイトル上の帯に“マンガで知る”といった
アオリ文句が入ってるから、マンガで勉強できる、
というのは、それなりに需要があるのかも。
「ちょっと意外だね」
うん、正直これは予想外だった。
よって本来なら天下のスミソニアンで、日本のマンガ学習本が!
とやりたいとこなんだが…
「今まで、散々、いろんなの見たからねえ…」
前回の訪問時には日本のアニメ、マクロスのDVDとかあったからなあ。
ちなみに、今回もマクロス、忘れた頃に登場するよ。
お次はこれ。
「これもマンガシリーズ?なんか新聞握りしめてますが」
タイトルは微積分なので、なんだこりゃと思ったら、
どうもアメリカで大人気の金融工学系の話らしい。
「金融工学?なんで航空宇宙に金融の本が?」
これは説明がいるね。
まず簡単に言ってしまえば、ランダムな市場価格、
株価や為替相場の値動きを、正規分布の乱数と見なすことで
市場の持つリスクを予測できるよ、というのが金融工学だ。
そのカギを握ってるのが微積分の最先端なのさ。
「それが?」
微積分のエライところは、未来予測に向いてることなんだ。
関数の傾きの変化から、未来の数字の動きが予測できる。
その代わり、関数が成立しない体系では微積分はできない。
よって、なんだかメチャクチャな値動きをする市場価格には
微積分が適用できず、未来予測も難しかったんだ。
「はあ」
ところが、時系列を取っ払って、
トランプを始めるときのようにゴチャゴチャにかき混ぜてしまうと、
これは正規乱数の集合と見なせる、と言い出す連中が出てきた。
正規乱数の分布は、キレイな釣鐘型のグラフとなるから、
これなら微積分可能なテクニックが数学上に存在するのさ。
よってコレを使って株価などの未来予測ができるはず、という事らしい。
「さっぱりわかりません」
だよね。私だって自力では半分も計算できないよ。
が、とにかく微積分の最先端、伊藤の定理なんかが
1980年代ごろから、金融業界に突然、乱入してきたわけだ。
「だから?」
証券屋さんに微積分の専門家がいると思うかい?
「ああ、そうか。弾道計算ね」
おお、ペロ君とは思えぬスルドイ反応だ。
そう、弾道計算は微積分の集大成で、第二次大戦から行なわれていた。
そして、この技術にもっとも熟練していたのは、
アポロ計画などの宇宙開発の連中、そして軍の弾道ミサイルや
砲弾の動きを研究していた連中だ。
「となると?」
ロケット屋さんや戦争屋さんが金融業界に大量に流れ込む事になる。
とくに冷戦の終結で職を失った軍事技術者にとって、
1990年代以降、高給がもらえる金融業界は魅力的だったのさ。
なので、この商品は、
ここは航空宇宙館だ→
よってロケットやミサイル関係者が来るかも→
そういった連中は転職を考えてるかも→
よってこの金融工学の入門が売れるかも
という流れで、置かれてるのだと思う。
「風が吹いても桶屋が儲かるとは限らんと思うけどなあ」
だよね。
「この絵柄の濃さ、日本人の本じゃないね」
うん、こっちはアメリカ人の著者らしい。
タイトルはスーパーヒーローの物理学。
「スーパーヒーローも勉強しろってこと?」
いや、これはいわゆるツッコミ本で、
右の万国共通ハカセスタイルのオッちゃんが
“スーパーヒーローは何でもできちゃうけど、
それって物理学的な検証に耐えうるのかな?”
みたいな事をおっしゃってる。
「ああ、昔、日本でも流行ったあれか」
うん、これはそのアメリカンヒーロー版。
いろんなヒーローの活動を物理学の面からツッコミ入れてる。
でも、アメコミの場合、そもそも別次元の宇宙世界とか
平気な顔して出てくるから、検証は大変だと思うぞ。
「そういうものかねえ…」
といった感じで、今回はここまで。
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