■ラストスパートへ



さて、宇宙の館の見学は前回で終了したので、
再び航空ハンガーに戻って、落穂ひろいをやってしまいましょう。

といっても、ある意味、ここのメイン展示の一つ、
航空エンジンコーナーを丸ごと残しちゃってるんですが…。

その前に、これもロケットだろうに、と思うんですが、
なぜか航空ハンガーに展示されてる航空兵器たちを。



まずはマイティマウス ロケット弾。
ただしスミソニアンでの分類はミサイルになってました。
ロケット弾とミサイルの厳密な定義はわかりませんが、
全長1.1mと意外に大型だからでしょうかね。
(厳密にはRocketは撥ね上げる、という意味の言葉で推進装置を指し、
対してMissileは投射物を指して、推進装置を問わないので、
ロケットだろうがジェットだろうがレシプロだろうがありで、それどこか
推進装置が無くても、飛んでゆくなら弾丸だろうが石ころだろうがMissile)

そもそもは海軍による開発なんですが、空軍でも採用され、
対空核ミサイルが実用化される以前、
ソ連の戦略爆撃機を迎撃するため使用しました。
F-86D、F-89といった当時の全天候型迎撃機の主武装となってます。

無誘導ですから、最低でも10発以上をセットにしてぶっ放し、
ロケット弾幕(?)に包み込むようにして目標の爆撃機を破壊します。
とりあえず、1発でもあたれば、当時のソ連の爆撃機なら、
確実に撃墜できたとされています。
個人的には、どうかな、それと思ったりもしますが(笑)。

ただし、真っ直ぐ飛ばない(涙)という悲しい特性があったので、
放物線状に撃ち出し敵の上から落下させて当てる、という特殊な射撃が必要でした。
このため、マイティマウスの発射は機体に積まれた
火器管制装置(FCS)のコンピュータによる計算に基づいて行われます。
この結果、パイロットは言われたとおりの位置に機体を持ってゆくだけで、
後は引き金すら引かせてもらえず、勝手に発射されてしまうようになってました。
(手動でも操作は可能だったが、よほど至近距離でないと当たらないだろう)

ちなみに強力なネズミ、というその名はアニメ(カートゥン)のキャラからの命名です。
1942年から作られていた劇場用短編アニメで、内容的には
ネズミがスーパーマンになりました、おしまい、という理解で十分な作品でした(笑)。
小さくても破壊力はバッチリ、という意味で、その名が採用されたのでしょう。

ちなみに同作品は1950年代にテレビアニメとなり、日本でも放送されたため、
こちらの方が有名ですが、オリジナルは劇場用短編アニメで
このミサイルの命名もそちらから取られてます。



お次は世界でおなじみ赤外線誘導の空対空ミサイル、AIM-9サイドワインダー。
1956年に配備が開始された60年以上現役の長寿兵器です。
展示のものは表記がありませんでしたが、
おそらくベトナム戦争世代のE型でしょう。

敵機のエンジンおよび電子機器から発せられる赤外線で目標を捕らえ、
そこから飛行方向を計算して自律的に飛んでゆく短距離用誘導ミサイルです。
その動作原理は最初から変わらないものの、探知、追尾制度は
この60年間で格段に上昇しています。

以前はあらゆる赤外線源、太陽、あるいは太陽を反射してる水面、
さらには雪山、それどころか雲にすら
ロックオンしてしまい、あらぬ方に飛んでゆく、という事があったとされますが、
(ボイドの執筆した空中戦教本でこれらに注意せよと書かれてる。
これは初期のB型での話だが、E型あたりまでは似たようなものだったらしい)
近年の機種ではかなり精度があがってるようです。

ただし、フレアと呼ばれる盛大に赤外線を発する装置を敵機が
放出すると、そっちにロックオンしてしまうのは完全には防げないらしいです。
やった事がないので、断言はしませんが(笑)。

ちなみに、よく誤解されますが、これは誘導ミサイルであり、
単純に目標を追いかけるミサイルではありません。

赤外線探知機で自分と目標の位置関係を把握し、
確実に衝突できる未来位置を予測して、
先回りするように最短距離でそこまで飛んで行きます。
後ろからぴったり付いてくるのではないんですね。



こちらは、いわゆるサイドワインダースキー、
ソ連によるサイドワインダーのコピーと言っていいK-13赤外線誘導ミサイル。
例によってNATOがつけたコードネームだとAtoll、アトールです。
ただし、こうやって並べて見ると、両者は意外に形状が異なるのもわかりますね。

ちなみにこのコピーは史上最速クラスでして(笑)、
1958年、ようやく実用化したサイドワインダーをアメリカは
当時中国と紛争状態にあった台湾空軍に供与、
実射試験を兼ねて実戦投入させます。

で、1958年9月24日(現地時間かアメリカ時間か不明)に早速、
中国共産党軍のMig-17と空中戦に入り、これを見事サイドワインダーで撃墜…
したとされるのですが(笑)、どうも不発のものがあり、
これがMig-17のケツに刺さったまま、基地まで持ち帰られてしまいます。

でもって、これを回収した中国軍は、アイヤーとばかりに、
まだ比較的関係が良好だったソ連に引き渡してしまうのうです。
この結果、ソ連でコピーされて作られたのが、このK-13となります。
まさに速攻ですね(笑)。

ちなみに、こっちはこっちで未だに現役らしく、
なんとも息の長いオリジナルとコピー、という関係になってます。



輪切りになってるので判りにくいですが、
アメリカが第二次大戦中に採用した5インチ HVARロケット弾。

ただし、これまたスミソニアンではミサイル扱いでした。
まあ全長で1.7mありますからね。
ちなみにHVARはHigh Velocity Aircraft Rocket、
高速航空ロケットの略称です。

太平洋戦線だとF4Uコルセアの主翼につけられた
レール状の発射装置でお馴染みのものですが、
最終的には朝鮮戦争にも投入されています。

このカットモデルだと、先端の黄色い部分だけが炸薬で、
その後の黒い部分は全てロケット装置。
こんだけデカくても、搭載できる炸薬は意外に小さいのです(3.5kg前後)。
もっともその代わり最大で5000mは飛ばせた、とされますから、
運動エネルギーと合わせたその威力は恐るべし、という感じでしょうか。

ちなみに、展示のものは通常弾頭ですが、徹甲弾頭のものもあり、
ノルマンディー上陸戦後のヨーロッパ戦線ではP-47やP-38に搭載されて、
戦車や陣地攻撃に投入されています。

こうして見ると、ドイツもアメリカも大戦後期は
完全にロケット戦争になっていたわけで、
極東の島国のノンキさが痛感させられ…。


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