■たしかにロケットではある

さて、お次はこれまた宇宙とは関係ないどころか、
対戦車ロケット弾じゃないの、という感じの品々。
まあ、ロケットではあるんですが…

ただし、よく見ると貴重な展示がいくつかあります。



まず手前は大戦中のドイツ航空ロケット弾、R4M。

大戦末期に登場したもので、対空用と対戦車用がありました。
展示のものは弾頭部が膨らんだ成形炸薬(HEAT)弾付きの対戦車用です。
ドイツの有名じゃないほうの(笑)対戦車ロケット砲、
ラキーテン パンツァー ブルクスェ54(Raketen panzer büchse 54)、
いわゆるパンツァー シュレック( Panzerschreck)用弾頭の転用だそうな。

衝撃波レンズ状の凹型に配置した弾頭内部の火薬を爆発させることで、
その衝撃波を一点に集中させ、
そこで生じる高熱高速流による圧力を利用して
戦車の装甲を撃ちぬくのが成形炸薬弾頭となります。

つまり、高速で硬い弾頭をぶつけて撃ち抜く運動エネルギー弾と異なり、
弾の運動エネルギーは全く利用せず、弾頭の科学反応(熱エネルギー)を利用して
装甲をぶち抜く兵器です。
ちなみに、あっさり展示されてますが、このロケット弾、私は初めて見ました。

でその奥、なにかの薬莢かと思ったら、これは日本の特攻兵器、
桜花のロケットノズルだとか。
赤字の数字は日本軍によるものか、鹵獲したアメリカ軍によるものかは不明。

で、その奥はアメリカ海軍が使用した7.2インチ成形炸薬ロケット T-37。
ちなみに左が弾頭です。
海軍が成形炸薬のロケットを何に使うんだと思ったら、
上陸作戦の時に対潜水艦ロケットランチャーにこれをセットして発射、
土嚢や鋼板で防護された陣地を破壊したんだとか。
T-37はノルマンディー上陸作戦前後から使用されたとの事。
えらく平らな頭部になってるのは、成形炸薬弾は目標に密着しないと
その効果が薄くなるためでしょう。
が、そうなると起爆信管はどういった構造になってたんでしょうかね、これ。

最後、上の壁に貼り付けられてるのは
先に見た誘導対地ミサイル、Hs293の下に取り付けられていた
ドイツのK-1ロケットの燃焼室だそうな。



お次はこれ。
アメリカのバズーカ ロケット砲に見えますが、
先にちらっと紹介したドイツの対戦車ロケット砲、
ラキーテン パンツァー ブルクスェ 54、通称パンツァー シュレックです。
貴重なものなんですが、航空宇宙博物館の展示としてはどうなんでしょ(笑)。

ちなみパンツァーが戦車なのは良いとして、
ブルクスェ 筒状のもの、シュレックは衝撃、驚きという意味だそうで、
同じ兵器なのに、この差はなんなんでしょうね(笑)。

これは鹵獲したアメリカのバズーカロケット砲を
参考にドイツで開発された対戦車砲です。

その手前に置かれてるロケット弾のうち、
左がオリジナルのアメリカ製2.36インチ(60mm)ロケット、
右がこのドイツのもので、一回り大きい88mmロケットとなっています。
これの弾頭部だけを利用したのが、最初に見た
航空用ロケット弾R4Mとなるわけです。

これで成形炸薬弾頭のロケット弾を打ち出すわけですが、
発射されるロケットの側に推力があるため、
その力のやり取り、作用、反作用はロケット弾の中で完結してしまいます。
この結果、砲身の内部で火薬を爆発させて、その力を受け止める
火砲と違い、発射時の反動がありません。
ここら辺りは、同じ無反動でも、砲身内で火薬を爆発させる
無反動砲とは根本的に原理が異なるので注意が要ります。

とりあえず、歩兵が一人でも撃てると言う、理想的な
対戦車兵器ですから、第二次大戦中に、
この手の兵器は各国で採用される事になりました。

ただしロケットの噴流を後ろに逃がさないとなりませんから、
発射時に盛大な煙が周囲に立ってしまう上、
射程距離もさほど長くないので、発射時に工夫しないと、
すぐに見つかって、敵から滅多撃ちにされる、という欠点がありましたが…。



右側の筒状のものは、宣伝工作用ロケットで、
ロケット内部に小さな宣伝用のビラを大量に詰め込み、
敵地域の上空で落下中にフタが開くと、中のビラがばら撒かれる、といものらしいです。

展示のものはベトナム戦争中に、北ベトナム側が使用したもの。
中のビラにはアメリカ本土での反戦デモの写真や、
Yanks Come Home Go home
という、私の英語力では何が言いたいのかよくわからん、
詩文のようなものが書かれたビラが入ってました。
(Yanksはアメリカ兵を指すスラング)

ちなみにこの手の宣伝ロケットは第二次大戦の前哨戦となった
スペイン内戦から登場していたそうな。

余談ながら、日本軍もロケットではなく航空機からこの手のビラ撒きはやっており、
大戦中のフィリピンでも、抗日ゲリラ相手にずいぶんばら撒いたとか。
でもって、戦後、当時の抗日ゲリラの人にNHKがインビューしたところ
「あれは、ありがたかったね。なにせ戦場ではトイレットペーパーがなかったから」
と答えてるのを見た事があり、その宣伝の成果がよく理解できました(笑)。



これはソ連の携行型地対空誘導ミサイル、9K32 strela2。
西側のNATO呼称だとSA-7ですね。
ただし展示のものは予備パーツを寄せ集めて造ったものだそうで、
一部の装置が失われてるそうです。

アメリカが1960年代に開発した歩兵用携帯対空ミサイルFIM-43 レッドアイに
対抗してソ連が開発を開始した、といわれるもので、両者とも赤外線追尾型の
対低空用誘導ミサイルとなっています。
ちなみにアメリカのFIM-43は試作から配備まで9年近くかかってしまったため、
最終的に1968年ごろ、米ソ同時に配備が始まる、という結果になってます。

歩兵部隊が自衛用に持ち歩く対空兵器ですが、
機関銃などと違い、赤外線誘導の上、射程距離は4000m、
さらに高度3000m近くまで有効だったため、有効な対空兵器となると考えられたようです。
ただし、赤外線追尾のため、攻撃を受ける前、敵が正面を向いてると使えない、
という欠点があったりするのですが。

さらに兵器データの資料と統計で知られるIHS ジェーンズ社の資料によると、
この9K32はイスラエルとエジプトの消耗戦争中、1969年に初めて実戦に投入され、
イスラエルのA-4スカイホーク撃墜の成果があるもの、
1970年までに99発が使用されながら、命中したのは36発と見られているそうな。
そもそも速度不足で戦闘巡航中のジェット機には追いつけない上、
当たっても大きな損害を与える事はできず、
ほとんどの機体が無事基地に帰還してしまったのだとか。

その後、ヨム・キプール戦争(第四次中東戦争)に投入されるものの、
結果は相変わらずで、さらに唯一追いつけたA-4スカイホークが、
ジェット排気口を少し延長して命中してもエンジンに損害が出ない改造を行なったため、
撃墜成果はほぼ0と見られているようです。
微妙な兵器ですね(笑)…

この戦争では、ソ連からアラブ諸国に供与された対空ミサイルで
イスラエル空軍は大損害を受けるのですが、
その対空ミサイルの中には、この9K32は含まれてなかった感じです。

ただし、低速のヘリコプター相手には有効なようで、
2010年代になっても、中東の紛争地帯で使われています。
が、シリア内戦で各勢力が公開してる映像を見る限り、命中後もヘリコプターは、
長時間飛んでたりするのが多いので、
やはり破壊力は疑問つきのような印象があります。
(複数の携行対空ミサイルが使用されてるので、
発射時の映像がないとミサイルの特定は不可能なので要注意)

はい、という感じで宇宙とロケット軍事編はこれにて終了。
次回は再びボーイング航空ハンガーに戻って、
各種取りこぼしを全て片付け、いよいよウドヴァー・ハジー編に
ほぼ決着がつく…はず…。

という感じで、今回はここまで、
オマケもちょっとお休みです。


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