■死してなお目だちたい

さて、アーリントン墓地のさまざまなお墓を通じて、
人々の生と死、愛と誠を追及してきたシリーズもこれで最後だ。

「そんな話、やった記憶がありませんが」

今回は人に認められたい、注目されたいという欲求がお題だよ。
人類の基本欲求の一つに
自分の価値を周囲から認められたい、というものがある。

学問の分野で立派な功績を残したい、ノーベル賞がもらいたい、
マンガや歌を大ヒットさせたい、
あるいはサッカー選手になってワールドカップに優勝したい、とかだね。
いずれも周囲に自分の価値を認めさせたい、
という点で同じベクトルの欲求だ。

「だから?」

が、人によっては、これがとにかく目立ちたい、人から注目されたい
という形の欲求になる事がある。
この場合、理由は何であれ、人から注目されればいいんだ。

芸能人やアイドルになりたい、世間で話題になりたい、
なんてのはその目立ちたい願望の最たるものだろう。
とにかく人から注目される、という事だけで周囲に対して
自己の優越を証明できた、と考えちゃう人だね。

さらに、これがゆがむと、犯罪を行なって世間から注目されよう、
その相手、犠牲者は誰でもいい、
という最悪の選択が行なわれる事になる。

「さいですか」

が、そういったとにかく目立ちたい人たちの願望は、
これまたかなり根強いものらしく、
死してなお目立ちたい、という人は少なくないんだ。
軍人さんも、それは例外ではないんだよ。

「…はあ。で、結論は?」



その結果、こういったお墓が登場する事になるわけだ。
ちなみに、これもアメリカに限った話ではなく、
日本でも高野山とかに行くと、我が目を疑うようなお墓はいくらでもある。

「これ、何かの記念碑じゃないの?」

いや、これも軍人さん個人のお墓なんだよ。

「金かかってるなあ」

目立ちたい願望の人にとっては、
そのために金を使うのは最高の快楽だからね。

「つーか、この彫像、誰?」

知らん。
ローマ風の衣装の美少年で、
つくらせた本人は自分のつもりかもしれん。

「なんだかよくわからんなあ…」

まあ、とにかく目立ちたい、という人たちの心理は、
周囲からすると単に滑稽なだけだったりもするからね。



「…お墓?」

お墓なんだ、しかも一個人の。

「重くないの?」

そこら辺りは本人、もう死んでるから大丈夫だろう。
上の天使さんも、あ、皆さん気にしないで、
というポーズを取ってるしな。

余談ながらアメリカを代表する将軍の一人、
第一次大戦でアメリカ陸軍を率いて後に陸軍参謀総長にまでなった
パーシングのお墓がこの辺りにあったはずなんだが発見に失敗してる。

「将軍たちのお墓、あんなに派手なのに」

いや、パーシングのお墓は普通にボイドと同じような小さな白い石なんだ。
墓石で虚勢を張るような連中は、だいたい小物だよ。

「ああ、なるほどね…」



「…これは?」

やや芸術的な一発ネタに走った例。
除幕式で、幕が開けられた瞬間をそのまま彫刻しちゃったらしい。
遠くから見ると、なにか布のようなものがかかってる、
と思わせて、実はそれも墓石の一部なんだ。

「なんの意味が?」

知らん。
まあ、目立ちたかったんだろう、と言うほか無い。



「…屋根つき?」

屋根つきだね。

「なんで?」

死ぬほどどころか、死してなお雨がキライだったんじゃないかなあ…

「…なんで?」

さあねえ…。
しかもこれ、見ようによってはローマ風の神殿に死後の自分を祭ってるわけで、
己が神である、神格化の遠まわしの表現と見れなくは無い。
こうなると、偶像ではないと言っても、キリスト教への挑戦じゃないのか、これ。

「いろいろあるねえ…」



「……玉?」

玉だろうなあ。

「なんで?」

そりゃペロ君、軍隊で玉と言えば、19世紀以前の銃弾、あるいは砲弾、
またはボールベアリングの玉か浮遊機雷に決まってるだろう。

「ぜんぜん特定できてないじゃん」

まあ、とりあえずこれも…

「目立ちたかっただけ?」

だろうなあ。
という感じで、今回はここまで。
いよいよ次回、この連載も最終回…のはずだ。


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