■死してなお将軍
さて、今回は軍人さんのお墓の国際的汎用性についてだ。
「はい?」
軍人さんにとって上下関係は絶対であり、
上司になってしまえば、部下に黒猫を白猫と呼ばせるくらいチョロイ、
と言っていいほど絶対的な立場に立つことができる。
そして退役後の天下り先も出世するほど選び放題になるわけだ。
「はあ、さいで」
よって、大佐だ将軍だ、となった人にとっては地位こそ全てであり、
場合によっては、本人の人格と一体化してしまうのさ。
ヘタをすると山田太郎という個人である以前に、
陸軍少将である、という部分が人格内で誇大化してしまう。
エライんだよ、これがオレだよ、とね。
「だからなに?」
が、どんなエライ立場でも死んだらリセットだ。
退役時にもリセットされるんだが、軍の場合、
退役時の地位と肩書きがその後も有効な場合が多く、
まあ、死なない限りは大丈夫となってる。
(実際、シュワーツコフの自伝に退役して民間人になった元下士官が
それでも彼にサーをつけて呼びかけ、
シュワーツコフも尊大な態度で臨む描写がある)
だが、さすがにそれでも死んだらオシマイ、全てはリセットとなるわけだ。
が、連中の場合、死んだくらいでオレのエラさが無くなってたまるか、
という既得権に対する貧乏根性は抜きがたいものがある。
そういった連中ほど、軍人になりたがるし、実際、出世しちゃうしね。
「結論はまだ?」
その結果が軍人さんのお墓なのさ。
「何を言ってるのかわかりません」
古くからのお墓が見れる場所、関西だと高野山や
東京だと谷中の墓地とかを歩いてご覧。
戦前の軍人さんのお墓の多くに大佐だ少将だ、
さらには従五位だ(つまり華族)といった生前のオレのエラさ自慢が溢れてる。
死んだくらいでこのオレ様と対等になれると思うなよ、
というステキなメッセージだね。
「日本の職業軍人さんなんてそんなもんでしょ」
と、私も思ってた。
が、違うんだ、この死してなおエライんだぜ現象は、
意外にもインターナショナルに普遍的な現象だったんだよ。
こんな感じに。
「いや、わかりません」
この旅行記の中でも何度か触れたように、星印は将星、
軍の支配階級である将軍クラスである事を意味するんだ。
このお墓にも星が一個ついてるでしょ。
これは准将で、将軍としては一番下っ端だけど、
それでも佐官や尉官からみれば雲の上の人なのさ。
よって、死してなお墓石にその階級を刻み付けてるわけだ。
「死んだ後まで上司です、とか言われてもなあ」
が、そういった将軍さまは意外に多いんだよ。
こんな感じに。
「…ああ、お墓はお星様で一杯だ」
まさにそんな感じだ。
四つ星は平時の軍人が就ける最高位で
この辺りは海軍の縄張りなのか、手前も左奥も提督だった人だ。
ちなみに空軍や陸軍なら四つ星は大将となる。
ついでに、亡くなった年にも注目。
手前の墓石には1960年となっており、
徐々にアーリントンが手狭になりつつあった時代に
これだけの大きな墓石をドーンと建てちゃってるので、
当時の将軍連中が、エライ人専用にこの辺りを確保していた可能性が高い。
「そこまでしたいものなんだ」
したいものなんだろうなあ。
やった事ないからよくわからんが、将軍の地位は蜜の味なんだろう。
「これは?」
これはちょっと変り種。
地位は大佐でボイドと変わりないのに、こんなお墓まで建てちゃうんだから、
まあ墓の主は俗物と考えてほぼ間違いないだろう。
が、注目はその名前の上のマーク。
「お城?」
そう、これは陸軍の建築部隊、実は民間の公共事業なんかもやってしまう
陸軍工兵団(
U.S. Army Corps of
Engineers)のマークだ。
この人、よほど自分の所属部隊に愛着があったのかもしれん。
「工兵団てのが専門にあるんだ」
あるんだよ。
ついでに意外に知られて無いが、この連中、化石の発掘なんかもやるため、
軍のくせに、とんでもない貴重な恐竜の化石のコレクションとかも持ってるんだ。
「そうなの?」
そうなのさ。
そのうちの一体、もっとも完全な形で発見されたティラノサウルス化石の一つ、
ワンケル(Wankel)はスミソニアンの自然史博物館に
陸軍工兵団から50年期限で貸し出されてるんだぜ。
「…そんなの見たっけ?」
見るわけ無いさ、今回の旅行の後に貸し出しが決定したんだもの。
ハハハハハ。
「またそのパターン?」
ちなみに、ウドヴァー・ハジーセンターでは
これまた私が行った後にヘルダイヴァーのレストアが終了、
展示が始まっているぞ。
ウホホホホホホ。
「…ご愁傷様」
ハハハハ、というわけで、今回はここまでだチキショーメ。
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