■メイソンの広報

さて、アメリカは宣伝の国だ。

「はあ」

この国において他人に伝える、というのはとても重要な技術になってる。
それが巧くできれば、自分の意見に大くの賛同が得られ、
その結果、自分の欲求が遂げられる可能性は高くなるからね。

「ですかね」

当然、怪しい宗教的秘密結社風の互助会においても
それは例外ではない。
なので、やや秘密主義の傾向があるフリーメイソンリーですら、
広報は重要な役割を持っていたのさ。

「さいですか」

そんな今回のお題がこれだ。



「どちらも下の真ん中にシンボルマークが入ってるから、フリーメイソンリーのポスター?」

だね。まず左は、
“石工を愛する事が大好きなの”
と後ろの女性が言ってるらしい1908年製作のポスター。

「前のコテを持った男性の発言ではなくて?」

そうなると主旨がまるでちがっちゃうから、後ろの女性だろうさ。
当然、この場合の石工(MASON)はフリーメイソンの事だ。

「この女性の髪型もすごいね。
火星で台風に会って、鳥の巣に使えそうだからそのまま帰って来ました的な」

1908年当時の流行かねえ。
流行を追っかけるだけの人間を後の時代から見ると、
どれだけカッコ悪いか、のいい例かもしれないな。
この時代のアメリカの農家の女性の写真もたくさん残ってるが、
そちらの質素であっさりした髪型と服装の女性は今見ても美しいぞ。

ついでに写真もデザインも何もかも、いかにもシロウトっぽいので、
恐らくフリーメイソンの中でも、
多少、そういった知識があった人間の製作じゃないかなあ。

「で、何が言いたいの、これ?
フリーメイソンに入れば女性にモテモテっていう
バンドを始める高校生みたいな発想?」

にも見えるが、下には
“だって彼らは余計な事を話さないから”
という文章がある。

「どういう意味?」

これ、目的語が無いんでよくわからないが、
Tell だから、情報を伝える、人に知らせる、といったニュアンスで、
フリーメイソンの人間は余計な事を言わない、
秘密を漏らさない、といった意味じゃないかなあ。

「それが?」

口が堅いから女にモテるフリーメイソンに入りましょう、という意味なのか、
あんたもフリーメイソンなら余計な事を話すなよ、
と既存の会員に釘を刺してるのか、どちらかじゃないかね。

「つまり?」

よくわからん、という事だ。
人に自分の言いたい事をきちんと伝えなきゃいけない
広報活動としては失格じゃないかねえ、これ。



お次は右側。
これは判りやすい、というか判りやすすぎるだろう。

「このオッチャン、アメリカを擬人化したアンクル トム?」

そうだね。

「前に見た、陸軍のお前が欲しいポスターのパクリ?」

と、私も思ったが、これ1908年製作とされてるんだよ。
これがホントなら第一次大戦前だから、実はこっちが先なんだ。

それどころか、この手の構図の全てのポスターの元祖とされる、
二日目に見た、第一次大戦のイギリスの志願兵募集のポスターより古いぞ。




「ああ、これね」

で、このポスターは開戦後の1914年ごろの製作なんだ。
となると、当然、上のフリーメイソンの方が古い。




で、従来は上のイギリスのポスターをアメリカがパクッたのが
このポスターだとされて来たのが普通なんだが、
ここの説明が本当なら、それより先にフリーメイソンリーが
この構図のポスターを作っていた事になる。

「へー。そりゃちょっとスゴイ話だな」

もしかすると、我々の時代に忘れ去られてるだけで、
当時こういったポーズが流行ってた、という可能性もあるね。

「で、このフリーメイソンリーのポスターは何の募集?」



いや、これは募集じゃなくて、下の宣伝文句にあるように、大統領選挙用のポスターだ。
“全ての不満を終わりにしよう フリーメイソンの大統領を選出せよ!”
で、トムおじさんの後ろには巨大なコンパスと直角定規と来たもんだ。

「…露骨な政治介入?」

この時代の総人口に対する会員の比率はそれなりのもので、
実際、彼らの影響はあったろう。

「オレタチがアメリカを牛耳るぜ、といったところ?」

いや、そもそもこのポスターはいろいろオカシイんだ(笑)。

まず繰り返し書いてるように、アメリカの歴代43人の大統領のうち、
1/3、実に14人がフリーメイソンだった。
(現在のオバマ大統領は44代目だが、例の奥さんが美人のクリーブランドが、
1回落選してから再度当選したため22代、24代と2回カウントされ、1人少ない)

だいたい、このポスターの1908年の段階までに
既に9人ものフリーメイソン大統領が誕生してたんだよ。

さらに1908年の選挙、という事は現役だったのは
セオドア・“テディ”・ルーズベルト大統領で、
彼はバリバリのフリーメイソンだぜ。

つまり、この段階で政治に不満があるなら、
それはフリーメイソンの大統領の責任であり(笑)、
彼らが責任は他にある、ってな言い方をするのは筋違いだ。

ただしやはり政治的な影響力はあったのか、このポスターの影響か、
この時、当選を果たしたタフト大統領もフリーメイソンだった。

この時代、どうも共和党に強い影響力を持っていたようで、
セオドア・ル−ズベルト、タフト、ハーディングといった
20世紀初頭の共和党の大統領は軒並みフリーメイソンだ。

これが大恐慌後のフリーメンソン大統領だと、
フランクリン・ルーズベルトから次のトルーマン大統領と、
全て民主党の大統領になってしまうので、
この間に何かあったのかね?

「オレに聞かれてもな」


まあいいか。
とりあえず、今回はここまで。

次回はモール地区では最後のスミソニアン巨大施設、
インディアン博物館に突入だよ。


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