■最後の最後
さて、いきなり時代が戻りますが、こちらは例のフォード閣下の狂気の1500万台、
1913年製T型フォードのツーリングカー。
ただし、これは特別仕様車だったりします。
といっても外見では判らないもので、まずランプが電燈に代わってます。
さらに従来はエンジンを始動するのに
エンジン前のクランク棒をエイヤっと回していたのに、
現在と同じような電気式のスターター モーターが積まれ、
運転席に座ったまま始動ができるようになっています。
これらは購入者の希望で取り付けられた、との事ですが、
フォードが後付部品として売っていたのか、
街の改造業者が取り付けたものかは判りませぬ。
電動スターターがT型に搭載され始めるのは、1911年以降なんですが、
実はそれまでは大型の発電機もバッテリーも積んでませんから、
ヘッドライトも電気ではなく、ケロシンやアセチレンのランプで、
おそらく停車してそれに点火していたはずです。
そのくせ、ほとんど視界の確保には役に立たなかったでしょうね。
こういった電気製品の数々は
1910年代後半から標準装備になって行ったようです。
こちらはさらに年季が入ってる感じの車ですが、実は電気自動車だったりします。
下に置かれた鏡に写ってるのはモーターで、
変速機も何もなく、単純にチェーンで後輪を駆動してるだけなのがわかります。
これは1904年製のコロンビア社のエレクトリック ラナバウトで、
ラナバウト(Runabout)も小型の二人乗り軽量馬車を指す名詞です。
ちなみにこれはアメリカで初めて1000台を超える販売台数を記録した
電気自動車だそうで、価格は750ドル前後だったと言いますから、
フォードT型登場前としてはかなり安い部類に入るものでした。
(実はT型も登場直後は意外に高く、1909年型だと850ドル近くする)
電気自動車は1920年ごろまで、短距離の移動用として、
都市部で意外に人気があったそうで、
単純な構造で安価なこと、ギアがないので操作が簡単な事で
女性が運転する事も多かったそうな。
ただし、フォードの量産型狂気によって(笑)価格のメリットが消えると、
長距離は走れない、速度もあまり出ない、というデメリットが大きくなり、
やがて消えてしまったらしいです。
展示の車は、1932年まで使われていた、とされますから、
実に28年も使用された事になります。
…基本的にアメリカ人、もの持ちいいのか?
最後はこれ。
実は前々回の蒸気機関コーナーの片隅に、
こっそり展示されていたのですが、
オットーの初期型ガソリンエンジンですね。
オットーは現在の自動車エンジン、
4サイクルエンジンの原理を開発した人ですが、
展示のものはその前に開発していた
大気圧利用型ガソリンエンジンの1867年型となります。
つまり残念ながら4サイクルエンジンとは別物です。
この後で、彼は4サイクルエンジンの開発に成功、
その特許を取得しているのです。
それでも貴重な展示だと思うので、こちらで紹介しておきます。
ちなみに大気圧利用型ガソリンエンジン(Atmospheric
gas engine)は
やや乱暴に言ってしまえば、ロンドンの科学博物館で見た
ニューカメンの大気圧機関の蒸気膨張を
ガソリンの爆発膨張で置き換えたものです。
ニューカメンの大気圧機関では、
まず膨張した水蒸気でピストンを持ち上げ、
その状態で筒(シリンダー)を冷やすと、
水蒸気が水に戻って体積が激減するので、
大気圧によってピストンが押し下げられる、
その後、再度蒸気を注入…
という上下運動の繰り返しで仕事をしてました。
この水蒸気の膨張の変わりに
ガソリンの爆発膨張を使っているのがこのエンジンです。
ガソリンを爆発させてピストンを上に押し上げ、
その後に排気を行なって圧力を抜き、
さらに燃料のガソリンを吹き込んで筒内を冷却、
重力と大気圧で、これを押し下げたようです。
この時、ピストンの下降でガソリン混合気の圧縮が
行なわれたかはよくわかりませぬ。
そこまでやっていたなら現在のエンジンの原型と言えるんですが…。
ただし、こういった重力&大気圧利用型のガソリンエンジンは
オットー以外の人も開発していたので、彼の独創ではなく、
あくまでこれを吸気、圧縮、爆発、排気の4つの行程にわける
エンジンに進化させたのが、オットーの功績となります。
はい、といった感じで今回はここまで。
おまけも一回お休みでございます。
BACK