■レツゴー芸術
さて、では国立美術館西館の東翼の展示を見に行きますよ。
こちらは比較的近代、18世紀後半から19世紀、20世紀の絵がメインで、
印象派にピカソ、ゴッホ、さらに日本じゃイマイチ人気の無いけど、
私が大好きアンドリュー・ワイエスを始めとする
光のリアリズム系アメリカ人画家の皆さんの作品が並んでます。
まあ教科書に載ってるような有名な作品はほとんどこっちにある、
と考えていいので、時間の無い人は東翼だけ見て帰っちゃうのも一つの手でしょう。
ちなみに、こちらもジャンルや作者ごとに細かい部屋に
“ある程度(笑)まで”分類された展示になってます。
おほほ、やる気の無い彫像が真ん中にある部屋にいらっしゃ〜い。
今回もちょっと気になった絵だけをざっと紹介しておきましょう。
まずは犬の絵。
Jean-Baptisteというフランスの画家さんの作品だそうな。
写真が発明される以前において、肖像画というのは家族や恋人や愛人(笑)の姿を
身近に置いておく唯一の手段でした。
(後に横顔だけの彫刻であるカメオ、コイン裏の肖像画のようなものが登場するが)
が、世の中には人間嫌いってのはいるもんで、身近に置きたい存在が人間でない、
という人だって少なからず存在するわけです。
でもって、そういう人間に限って金は持ってたりするのが
世の仕組みだったりするわけで、
おそらくその結果がこの絵でしょう(笑)。
単なる犬の絵ではなく、名前まで入ってるところからして、
当時の肖像画家に書かせた飼い犬の絵だと思います。
取ってつけたような、18世紀頃の絵らしい適当な背景から、
その道のプロだったJean-Baptisteさんが金を積まれて描いたんだろうなあ、
といった辺りが想像されるわけで…。
人間と違ってじっとしてない犬がモデルの絵は相当大変だったような気もしますが、
よく見りゃ真っ黒とほとんど真っ白の犬ですからなんとかなったのか(笑)。
上のと同じ作者による肖像画。
こちらは飼い犬よりも自分を愛するタイプだったようで(笑)
犬はオマケで、鳥をぶら下げてる本人が主題となってます。
…しかし、これどういった状況を絵にしたものなんでしょ。
お預けを犬に教えてるところ?
窓から外を見てる家族らしき肖像画。
これもフランスのCharles Amédée Philippe van
Looという、
やけに名前の長い画家さんの1764年の作品。
注目なのは子供たちが持ってる箱で、これカメラです。
正確にはカメラ オブスクラ(Camera
obscura)で、
17世紀後半以降の肖像画家の必需品ですね。
これは箱の前に付いたレンズで外の風景を取り込む装置でして、
箱の内部にあるレンズの焦点位置に紙を置くと、
外の景色が紙に映し出されます。
あとはそれをペンや木炭でなぞるだけで、
極めて正確なデッサンの風景画が出来上がりますし、
肖像画で使えば、本人とそっくりな似顔絵が描けます。
(ただし実際は意外に画力が要求される。
それでも同じ才能の人間なら装置を使った方が正確さは格段に高くなる)
17世紀頃からヨーロッパの肖像画や風景画の描画力が上がってくるのは、
絵的な技術の向上と同時に、
このカメラ オブスクラの力によるものも大きいのです。
まあ、正統派から見ればそんなの邪道だ、という事になるのですが(笑)、
これによって絵画の技術が一気に進んだのもまた事実。
その代わり、正確な描写だけが売りの多くの画家たちは、
さらに正確な描写が可能な写真が登場すると、
一斉に職を失うことになるわけですが。
そこから、絵が芸術としての道を探り始める事になるわけです。
ちなみに、このカメラ オブスクラはその名の通り、カメラですから、
原理的には紙の代わりにフィルムを置けば銀塩写真が、
受光素子を置けばデジタル写真が撮れる事になります。
カメラの歴史としては1839年のダゲレオによる銀板写真の前から、
200年以上、紙を置いて手で写し取る、という時代があったわけです。
対してフィルム式銀塩カメラなんて、せいぜい100年の歴史しかありませんから、
手描きカメラの歴史から見ればケツの青いガキみたいなもんです。
なのでデジタル写真ではなく
銀塩フィルムの良さを見直せ、とか言う人を見るたびに、
だったらもっと先祖返りして手で描いてはいかが、
と思ってしまいます(笑)。
大事なのは空間を平面に切り取る時のセンスでしょう。
その時、使うのがフィルムだろうがデジタルデータだろうが、
それは道具に過ぎません。
写真でこだわるべきポイントは、そこではないと思います。
美しい絵が人の心を打つのは、
描くのに使った絵の具と筆が素晴らしいからではなく、
結果としてそこに示された構図と色が美しいから感動するわけですから。
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