大統領専用車の次は戦場の車、1943年のフォード GPW。いわゆるジープを見ましょう。大戦期間中に約64万7000台が生産され、連合軍勝利の大きな原動力になります。そしてこの急激な生産には、大量生産が大好きで、当時、経営が傾いて苦しかったフォード社が大きく貢献していたわけです。

これがあるのを知った瞬間、この博物館はホントに素晴らしいと思いました。ウィリスMB(WILLYS MB)の名でも知られますが、とぢらも同じ車両で、製造会社によって名が変わっているもの(1944年1月ごろまでの製造分は車体細部に細かい違いがあるが)。このため陸軍では1/4トン 4×4トラックというのが正式名称だったようです。ただし実際に設計したのはアメリカン バンタム社で、フォードとウィリスはその改良と量産に関わっただけでした。

ちなみに筆者が数ある陸戦兵器の中で最もカッコいいと思っているのが、このジープ。四輪駆動を始めとする必要最低限の機能を効率よく搭載し、しかも安価で大量生産が効く。ステキ。ちなみにジープは元々、新兵や新兵器を指すアメリカ陸軍のスラングでしたが、なぜこの車両の愛称になったのかは、よく判りませぬ(漫画ポパイに出て来る四次元から来た謎生物キャラ、Jeepを由来とする説もあるが怪しい)。ついでに愛称ではなく軍の正式名称になっていた、という話もあるんですが、確認できず。

1940年7月にアメリカ陸軍が軽量運搬車両(1/4トン車)の設計競作を行った結果産まれたのがこのジープです。ただし試作車の完成まで49日(7週間)のみという極めて厳しい制約を設けてしまったため、競作に応じたのはアメリカン バンタムとウィリスの二社だけとなってしまいます。どちらも小規模な会社で、この点に不安を感じた陸軍がフォードにも声をかけて最終的に三社の競作となるのです。その勝者となったのがアメリカン バンタム社案でした。そもそも軽量小型の四輪駆動車をこの会社は既に開発していたらしく、唯一、その無茶な時間制限をクリアできたのが勝因だったと思われます。ただし試作車は量産型とは外観などがかなり異なり、最終的にはフォードとウィリスによる改良がかなり入っているのが判ります。さらに陸軍もその最終設計に絡んでいたようで、実際、後に申請された各種特許は陸軍の名で出されています。

ただし、この点に関してはウィリス社が戦中から戦後にかけて暴走します(笑)。あれはウチの製品であると主張し派手に広告を打ったため、以後、ウィリス ジープの名が独り歩きしてしまいました(戦後、バンタム社から連邦取引委員会(FTC)に訴えられて是正を命じられがウィリス社は受け入れなかった)。

この点、そもそも競作の勝者となったアメリカン バンタム社はかなり小規模な会社であり、その生産能能力に疑問を抱いた陸軍が、勝手にウィリスとフォードに生産を発注してしまった、という経緯がありました。ただし後に大戦中、バンタム社はジープが牽引する二輪貨物車と魚雷エンジンの大量生産を行っていますから、そこまで酷い物では無かったと思われるんですけどね。

このため産みの親だったアメリカン バンタム社は先行初期型、バンタムBRC-40のみの生産に終わり、量産型の生産には参加していません。参考までに述べて置くと、全64万7千台の生産内訳は、以下のような数字でした。

■ウィリス社 36万1000台 + 先行生産型(MA型) 1550台
■フォード社 27万8000台 + 先行生産型(GP型) 4400台
■バンタム社 先行生産型(BRC40)のみ 2600台

ちなみに各社の先行生産型は(バンタムが開発した先行試作車と別物なのに注意)、少数(64万7000台に比べれば)が造られたのみなんですが、フロント回りの形状が会社ごとに異なり、一見すると別の車にすら思えます。ちなみにフォードのGP型のみが部隊配備されたようです(ウィリスのMA型は後にレンドリースでほとんどがソ連に送られたらしい)。この辺りもちょっと見て置きましょう。



元祖ジープと言うべき、バンタム社の先行生産型ジープ、BRC40。フロント回りが量産型とは大きく異なるのが見て取れます。ちなみにエンジンも別物。



こちらがウィリス社の先行生産型、MA型。これもフロント回りの形状が異なります。搭載された直列4気筒2.2リッターエンジンは60HPと高性能で、量産型でもこれが搭載されます。そういった意味では、ジープの心臓部を開発したのはウィリスだったと言えるでしょう。ちなみに当初はウィリスのみが量産型の製造を請け負っていたのですが、その生産能力の不足が露呈し、1942年1月から改めてフォードがその生産に参加する事になるのです。



そしてフォードの先行生産型、GP型。三社の中で唯一、そのヘッドランプを車体に取り込み、さらにアメリカ陸軍が実戦部隊に配備した車両となります(一定数はイギリスに送られたらしい)。もっとも最終量産型に近い外観なのがこれでしょう。単なる金網のグリルで生産性は高そうですが、量産方型では一枚板の板金方式に変更されています(ややこしい事に、この板金式フロントグリルはウィリスの設計らしい)。



かなりレストアの手が入っており、どこまでオリジナルなのかは微妙なんですが、その質実剛健さは見ていて気持ちいいほど。ステキ。運転席前の変なカバーはライフルを収納するガンケース。これ、レストア車に搭載されているのをよく見ますが、当時の写真を見ると、邪魔だとばかりに取り外されているものが多いです。座席横の左右のベルトは転落防止のためのもの。当然、シートベルトなんて無いですからね。

一番長いレバーがギア(3速+後進)、ハンドルの手前で飛び出している黒い下向きレバーがパーキングブレーキだったはず。ギアレバーの手前にある二本の短いレバーが四輪駆動に関するもので、奥が前輪駆動の入切スイッチレバー、手前が後輪のローギア、ハイギア、ニュートラルのギアレバーだったかと。通常、前輪の駆動は切った状態(OUT)で走っており、四輪駆動にするのは前輪駆動スイッチを入れる事(IN)で行います。

こういった実用一点張りの製品にしかない魅力ってあるなあ、と改めて思いますね。じゃあ、これで雨の日も雪の日も通勤しろとか言われたら断固拒否ですが(笑)。

といった感じで、今回はここまで。まあ予想通りではありますが、全く終わりが見えませんね、この訪問記…


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