そしてここからがこの博物館で最も興味深かった展示、海底から引き上げられた元寇船の遺物と復元品の展示。 もはやお馴染みアジフライの聖地、長崎県松浦市の北に位置するのが元寇時に元&高麗軍艦隊が泊地とした鷹島で、写真はその神崎地区の海底で発見された元寇船の錨を復元したもの。こんなにデカいのか、というのと木製の錨に石を括りつけた構造なのだと知る、ちなみに中央付近で横に突き出してる、紐で括られた二本棒の間に重石が括りつけてあります。ただし木製の錨全体は出土して無いので一部は推定でしょう。ついでに蒙古襲来絵巻の元寇船にさり気なく付いてますが、そちらだと石は剥き出しで挟んであり、ちょっと構造が異なります。なんらかの根拠があっての復元だとは思いますが。 ここでついでに鷹島周辺を地図で見て置きましょう。 ■ 国土地理院白地図に修正を加えて作成 長崎県と佐賀県に跨って広がるのが伊万里湾で、その北側で湾を塞ぐような位置にあるのが元寇時の泊地及び元寇船の引き上げで有名な鷹島です。島の南東、神崎地区一帯がいわゆる元寇船の引き上げで知られる場所となります。その直ぐ北にはアジフライの聖地像2号がある事から判るように、ここも松浦市に属してます。…松浦市、観光で売るならアジフライよりもこっちでしょう、と思うんですが、そこら辺りはいろいろあるんでしょう。 ここは北に35qほどで壱岐島であり、朝鮮半島から渡ってくる場合、風雨避けの泊地としては理想だったのだと思われます。ただし一帯で発見された沈没船は嵐で艦隊が大打撃を受けた二度目の襲来、弘安の役の時のものと見られ、意外に暴風に弱い場所なのか、あるいはこの時の嵐は想像を絶する規模だったのか、ちょっと興味深い部分ではあります。神崎一帯に沈んでいる、という事は南の風で吹き与せられたようにも見えますが。 ちなみに後に豊臣秀吉が朝鮮出兵を行った際の本拠地、古くない名古屋こと名護屋城があったのは北東の東松浦半島先端部、リアス式海岸周辺の小さな湾一帯なので、やはり伊万里湾では何か問題があったのかもしれません(単に壱岐島により近い、という理由の可能性もあるが) そして今回最大の興味深い展示、あの「てつはう」の実物を見れたのです。これにて全てチャラ、素晴らしい博物館だと思いました(笑)。蒙古襲来絵巻において騎馬武者の上の空中で炸裂してるあれで、基本的に現代の榴弾と同じ原理で敵を殺傷します。ドラえもん級に時空を超越した軍事技術であり、12世紀に何て事やってるのという必殺兵器でしょう。モンゴルは騎馬兵の高速機動に加えてこの秘密兵器によってユーラシア大陸を制したのだろうな、と思いまする。 ちなみに右上は単純な石の弾で、これも元軍は使って来たようです。ただし攻城戦、あるいは密集隊形で突入して来る敵以外には効果が薄かったと思われ、あまり役に立たなかったんじゃないかなあ、と。「あれ石が飛んできたでおじゃる」「それ、さっさと避けるでおじゃる」「いとおかし」といった感じに散開陣形の鎌倉武士団から見るとモンゴルの一発ギャグだろうか、的な印象だったのでは。 破損した鉄砲の解説。中に火薬と飛び散って敵を殺傷する鉄片が入っていました。爆破方式は上の穴から導火線を出して火を点けていたと思われます。 いやはや完全に榴弾ですぜ。これを「いい箱つくろう鎌倉幕府(1185年)」とか言ってる連中にバンバン投射すればそりゃ無敵でしょう。せめて「いい国つくろう鎌倉幕府(1192年)」だったらまだ勝ち目はあったでしょうが。ちなみに直径は15p程、それほど巨大では無く、重量も3sとべらぼうな重さではありません。ですが、さすがに手で投げるには無理があるでしょう。爆発するんですから、数十メートルは向こうに投げ込まないと自分も危険です。そして上に見た石弾はさらに重いでしょうから、人力で投げていたとは思えませぬ。そして石弾も「てつはう」もほぼ同じ大きさとなると投射装置のカゴの大きさに合わせて作られていた、と考えるべきであり、それ即ちモンゴルの秘宝、回回砲(カイカイホウ/中国語読みだとフイフイパオ)が日本にも持ち込まれていた、と考えていいかと。 ちなみに回回は回教徒、すなわちイスラム教徒の事。本来は回回(フイフイ)教が正しく、これを短縮して回教としたのは恐らく清王朝が滅んだあと、孫文の中華民国以降あたりからだと思います。その名の通り、イスラム軍の兵器をモンゴル軍が取り入れたものですが、結果的に発明者であるイスラム軍よりも、世界各地でこれを利用したモンゴル帝国軍によってその存在は知られる事になるのです。ついでに日本語でも「フイフイパオ」と読んで欲しいザンス。 今回は旅行記なので必要最低限の説明だけして置きます。 回回砲の原理だけなら単純です。砲と言っても投石機であり、原理としてはシーソーの片側に弾を載せ、反対側をドンと押し下げて放り出すだけ。ただし回回砲の場合、棒の先に紐が結ばれており、その先に弾を乗せます。するとどうなるか。反対側をドンと押し下げると、ヒモがピンと伸びて、より長い半径で弾を放り出します。同時間でより長い距離(円弧)を移動する事になる結果、速度もまた大きくなります(速度(v)=移動距離(l)/時間(t)=半径(r)×角速度(ω))。 同じ角速度でより高速を得るための工夫がなされ、より遠くまで飛ばせるわけです(空中にある物体は常に重力加速度によって地球中心方向に加速落下し続ける。高速であれば、同じ落下時間内により遠くまで到達できる)。ついでに石弾を使う場合は速度の増加によって運動エネルギーが増えます。運動エネルギーは0.5×質量(m)×速度(v)×速度(v)と速度が2乗で効いて来るので、弾を重くするよりも効率良く上昇させる事ができます。目標に命中して破壊する「仕事」の量は「運動エネルギー」の量と等価ですから破壊力も強力になるわけです。イスラムすげえ、という所でしょう。 ちなみに原理は単純ですが、兵器として運用するにはかなり工夫が必要で、真っすぐ飛ばすため地上に溝を掘ったりレールを敷いた入りして弾を直線で走らせる、ヒモがブレないような固定の仕方が必要などなど、一筋縄では行きませぬ。ウソだと思うなら自分でやってみるヨロシ。 |