最後は日本ではイマイチ知名度が低い、実際、私もあまり詳しくないアメリカのインディーカーを。
フォーミュラー レースとしてF-1以上にアメリカで人気とされるのがインディーカーシリーズです。ただしアメリカではフォーミュラ レースとは呼ばずオープン・ホイールカー・レース(Open-wheel
car
racin)、開放型四輪車レースと呼ばれます(前にも書いたがフォーミュラーカーは和製英語に近くほぼ使われない)。
ちなみにその歴史はF-1以上にややこしく、かつドス黒いのでここでは触れません。とりあえずホンダは1994年からこのレースにもエンジン供与を始めています。
2020年現在、インディーカーのエンジンはシボレーとホンダの二社だけの供給なので、エンジンチャンピオンも何もあまり意味が無いのですが、当時はホンダの他に、フォード、メルセデス、さらにはトヨタなどが参加しており、それなりに激しい戦いを繰り広げていたのです。ちなみにF-1では散々だったトヨタもインディーカーでは一定の成果を上げています。
ただし2006年から11年までの6年間はホンダだけのエンジン供給という前代未聞の状態が続いてたりして、F-1とはだいぶ異なる世界なのもまた事実ですが…
ちなみにホンダとインディーカーの出会いは先にも書いたように第一期F-1最後の1968年まで遡ります。
最後のメキシコGPが終わった後、中村監督がインディアナポリスのオーバルコースにマシンを持ち込んでテストしたのですが、その後は全く誰も興味を示さずに終わりました。実際、1990年代のインディ参戦計画はF-1番長 川本さん社長時代に始まりながら、レース好きの彼が積極的に絡んだ形跡が見えませぬ。とはいえ、川本さん時代でなければここまでスムーズに参戦はできなかった、という気もします。
日本では全くと言っていいほど注目されたなかったホンダのインディーカー参戦ですが(実際、当時の私もほとんど知らなかった)、参戦二年目の1995年の第15戦で早くも初勝利を挙げ、翌1996年にはドライバー、エンジン制作者の二冠を獲得するようになっていたのです。ちなみにF-1とは異なり、ホンダは以後も2020年現在まで一度も撤退せずエンジン供給を続けています。
1996年のインディ―カーシリーズでホンダエンジンに初めてのドライバーズチャンピオンをもたらしたジミー・ヴァッサー(Jimmy
Vasser)の車、レイナード96I・ホンダ。この年はレイナード96I・ホンダだけでも、3チーム、4台が存在したのですが、展示の車はチャンプとなったヴァッサーが所属するチップ・ガナッシ(Chip Ganassi Racing)チームのもの。
実はこの年からインディーカーの暗黒史、主催者の分裂による二つのインディーカー(1997年からはIRLとCART)が始まっていたのですが、ここでは触れませぬ。
インディーカーではチームはエンジンも車体を制作せず業者から購入して走らせるだけです。2020年現在、車体はダラーラの独占供給となってますが、当時は複数の製造者、レイナード、ローラ、ペンスキーなどがありました。ちなみにホンダはこの年、計6台のエンジンを供給してるのですが、残り2台はローラの車体でした。
ついでに当時のインディーカーにF-1のようなチームのランキングは無く、その代わり車体制作者杯(Chassis
Constructor's Cup)とエンジン製造者杯(Engine Manufacturer's
Cup)があって、ホンダは1996年にエンジン製造者杯で初チャンプを獲得、同時にドライバーズと二冠を達成してます。
連載の最後は、これを見れたのはちょっとうれしかった車を。
アメリカ最大のレース、インディ500で佐藤琢磨選手が2017年に優勝した時の車、ダラーラDW12ホンダです。
F-1では3位を一回獲ったのが限界という、ややパッとしなかった佐藤琢磨選手ですが、後に2010年からインディーカーに活躍の場を移してました。ただし正直、そちらでもあまりパッとしませんでした。2017年までの7年間に1勝(2013年第3戦)はしてますが、後は2位三回、3位一回のみ、それ以外は表彰台すら無し、という平凡なドライバーだったのです。
ところが、2017年、アメリカ最大のレースイベント、インディー500マイルレースに佐藤選手が優勝してしまいます。正直、驚きました(笑)。
私は陸上トラックのような楕円コースをグルグル回るオーバルレースに興味がなく、インディ500マイルについて知る所は少ないのですが、あれって佐藤さんでも勝てちゃうようなレースだったっけ?というのが正直な感想でした。すみません。
実際、当時のアメリカ人のコメントを見ると私以上に驚愕してるんですが(笑)、そりゃそうだろうと思います。
だってF-1出身でインディ500に勝ったのってジム・クラークとかグラハム・ヒル、マリオ・アンドレッティ、エマーソン・フィッティバルディとドライバーズチャンプ獲った名ドライバーばかりで、あのマンセルでも勝てなかったレースですよ(ジャック・ヴィルヌーヴも勝ったが彼の場合はインディ500で勝った後にF-1に行ってドライバーズチャンプを獲った)。
そこからちょっと落ちる辺りに居るF-1ドライバーがモントーヤですが、彼でもF-1で7勝、内1勝はモナコですからね。
ちなみにモントーヤはインディーカーからF-1に移り、そこでパッとしないで再びインディーカーに戻ったんですが、そのF-1前の2000年、そしてF-1後の2015年と二度もインディ500で勝ってます。よって、この人もやはり只者では無いでしょう。
…あ、でもチーバーが居たんだ。この人もF-1出身のインディ500勝者ですが、F-1では未勝利です。もっとも2位を2回獲ってますから、佐藤選手よりは実績は上。ただしインディ500で勝つまで、インディ-カーでは1勝しかしてなかった、という点は一緒。
インディ500では、なんでこのドライバーが勝っちゃうの、というレースが過去何度かあったようなんですが、その中でもトップクラスの驚きがこの佐藤選手の優勝じゃないかなあ、と正直思いまする。インディ500で勝った後も2年半で3勝のみ、生涯5勝状態ですからね…。
ただし運だけで勝てるレースではありませんから、それだけの実力があったのだ、というのも事実であろう、という事は付け加えておきます。
ちなみに当時、伝統あるアメリカのレースでアメリカ人ではない日本人が勝った…的な報道がありましたが、1990年代以降のインディ500はむしろアメリカ人が勝てないレースの一つとなっています。実際、21世紀に入ってからの19年間で4人しかアメリカ人勝者はおりませぬ。
ちなみにそれ以外の国籍ではブラジル、イギリス、ニュージーランド、コロンビア(モントーヤである)、そして日本と多彩で、なんだか1980年代以前のF-1のような雰囲気があります。
車を横から見る。
500マイル、約805qに渡って陸上トラックのような楕円サーキットを時計回りにグルグル回り続けるレース、すなわちゆるやかな左カーブのみで右カーブが一つも存在しない、という変なレースですから、いろいろ特殊な車のはずなんですが、私は詳しくないのでパス。
4輪剥き出しといっても後輪は事実上カバーがあり、その後ろの後部ウィングの位置も極端に低い、といったあたりがパッと目につく特徴でしょうか。運転席後ろの大きな丸い穴は燃料補給口。インディーカーの燃料はちょっと特殊で2020年現在は有機エタノール(アルコール)85%+無鉛ガソリン15%のものが使われてます。
これは一般にエタノールは対ノッキング性が高く、有害な添加物なしでもオクタン価で100近い数字が出せるためです。すなわちノッキングを恐れず高圧縮率のエンジンが使えます。ついでにアメリカで売ってるガソリンにも有機エタノールを入れてるものがあります(エタノール85、いわゆるE85)。
その上についてるLEDの電光掲示板は順位表示用のモノ。すぐに追いついて周回遅れがバンバン出る上に(1周1マイル、1.6q以下のコースもある)みんな同じ形の車であるインディーカーでは誰がトップか判らなくなりがちなので、これで現在順位を表示して観客に知らせます。展示は佐藤選手の優勝車ですから1の状態になっておりまする。
|