そんなステキな乾式循環、ドライサンプ式のエンジンですが、F-1ではすでに1950年代から採用されていた技術でした。よってホンダが研究用に購入したクーパー・クライマックス T53のエンジンにも搭載されていたはずで、この辺りは勉強不足、という部分があったように思います。

ちなみに、本来はレーシングカー以上に強烈なGが掛かる航空機エンジン用に開発された技術なので、中島のエンジン部門出身の中村さんがこの辺りは気が付くべきだったんじゃないかなあ、とも思いますが…
ついでなので、航空エンジンの乾式循環、ドライサンプについても少しだけ触れて置きましょう。



世界一の人気を誇るレシプロエンジン(夕撃旅団調べ。サンプル数1)、スピットファイアやP-51の心臓部として知られるロールス・ロイス マーリンエンジンも当然、乾式循環、ドライサンプです。

横Gどころか急降下、背面飛行などであらゆる方向に力がかかる航空機用のエンジンにオイル溜めがあったら暴れまくってエライ事になるので、最初から強制回収、強制循環が前提となってます。ただし回収ポンプは二段式とあまり強力では無いので、循環の問題はないでしょうが、負圧による出力増強にはあまり役に立って無かったと思われます。
マーリンの場合、エンジン下部、オイルパンのすぐ横にポンプがあり、オイルフィルターもここにあります。この後、オイルクーラーとオイルタンクを経由させて、再びエンジン内部にオイルを送り込む事になるわけです。ちなみにオイルパン、この切断展示だと空っぽですが本来はオイルを吸い出すための吸引パイプがあの空間に入ってます。

そして当然、イギリスだろうがドイツだろうがカリオストロ公国だろうが、地球上の重力は平等ですから、ドイツのDB系エンジンなども同じく乾式循環、ドライサンプとなっています。ただしあれ、シリンダーとピストンが下にある倒立式エンジンですから、オイルパンは存在せず、カムシャフトカバーの中にオイルを集め、これを回収ポンプで回収してるようです。



とりあえずDB605の写真で。
天地がひっくり返ってるDBエンジンではカムシャフトカバーが一番下にあります。これを密閉容器としてオイルパンの代用とし、その端に回収用ポンプを付けていたようですが、この辺りの図面を見たこと無いので、詳細は不明。おそらく端までパイプを通して片っ端から吸い上げていたと思うのですが…
当然、V型の倒立エンジンですから、左右両方のカムカバーに同じような構造があります。



さらにシリンダーを円環状に並べる空冷星型エンジンでは、半分近くのシリンダーは逆立ち状態ですから、これまた当然、乾式循環、ドライサンプとなっています。そもそもオイルの循環に重力は使えない構造ですから、エンジンの中心で回るカムシャフトの遠心力でシリンダー内にオイルを送り、外周部にあるロッカーアーム部などにはポンプで強制的に送り込んでます。これらを最終的にエンジン下部にあるオイル溜まりに落してから回収用ポンプでオイルタンクに集め、再度循環に廻します(なのでオイルを送り出すのは機体の姿勢に関係ないが、その回収は水平飛行が必要になるはず。この辺りの欠点を補う工夫があったはずだが調べるのが面倒…否、詳細不明とします)。

このように航空用エンジンではごく普通の技術であり、モノコックと言いドライサンプといい、航空技術はF-1と密接に関わっているわけです。後にここに翼と揚力が加わりますしね。

といった感じで、全くホンダコレクションホールの展示には触れないまま、今回はここまで。


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