■沖縄の土地
さて、ペロ君、今回のオマケは沖縄ならではの商取引、軍用地売買仲介についてだ。
「さいですか」
沖縄を訪問した人は、軍用地売買という見なれぬ看板が
街中に溢れてるのを見たことがあるだろう。こういったやつだね。
「しかも専門なんだ」
専門なんだよ。つまりそれだけで十分商売になるんだ。
同じような広告はバスにも出てるし…
嘉手納基地の入り口のすぐ横にもある。
「…えー、基本的な疑問から確認させて」
はい、どうぞ。
「これ、まじめな話?」
私はまじめな話しかしないよ。
「…そこは置いといて。軍用地を民間で売買できるの?米軍のでしょ、これ?」
これはある意味沖縄ならではの“不動産業界用語”なんだよ。
沖縄の米軍基地のほとんどは戦中から戦後にかけ地元の地権者から強制徴用して利用したものだ。
この辺りはヒドイもので、問答無用で今までの居住地を叩き出される人も少なくなかった。
そして当初、米軍は戦時の強制徴用として基地を拡張し、
地権者から土地を奪いながらその土地代を一切払ってなかったんだ。
「ひでえな。戦争の悲劇の一つ?」
そういう事になるだろうな。
ところが、1951年のサンフランシスコ条約によって戦争状態が完全に終了すると、
沖縄はもはや戦時下ではなく、平時のアメリカの領有地に移行し、
アメリカ合衆国という法治国家による管理地域になったんだ。
そうなると、さすがに軍による強制占拠は違法行為となって来る。
そこでアメリカ軍が改めてこれを地権者から買い上げようとしたんだが、、
地元住民としてはいつかはそこに帰る、という希望を捨てられない事もあり、
土地の買い取り、永久使用を前提とした土地の貸し出しを拒否したんだ。
これがいわゆる「島ぐるみ闘争」と呼ばれる運動で、
1954年ごろから沖縄本島全体にこの運動が広がる事になる。
「なるほど。で、それと上の看板に何の関係が」
まあ、もうちょっと説明を聞いてちょうだい。
基地用地については、強制買い上げを主張するアメリカの琉球列島米国民政府(USCAR)と、
あくまで返還を前提に有償で貸し出すだけ、とした
沖縄の立法院(Legislature
of the Government of the Ryukyu
Islands)が対立する事になる。
立法院は占領下の沖縄住民に認められていた自治機関だね。
「へー」
ここら辺りはいろいろ紆余曲折があるんだけど、最終的に立法院側の主張がほぼ通り、
土地は年額払いの借地となり、かつ、その借地代も物価に連動して値上がりあり、となった。
「最低限の権利は手に入れた、ということ?」
そうなるね。
この年額で借地代を支払う約束は本来、いずれ土地が返還される、という前提があったわけだ。
ところが実際にはアメリカ軍の主要施設、普天間、嘉手納、そしていくつかの港湾施設は
ほぼ半永久的にアメリカ軍が使用し続けることになってしまった。
少なくとも2019年の段階で、上記の主要施設は既に70年近く借地のままだ。
となると、これは70年近くに渡って常に毎年、一定額のお金が地主さんに払われ続けた事を意味し、
かつ物価の上昇に伴って借地代も上がり続けたから、これが結構な金額になって来たんだよ。
そして米軍基地がある限り、毎年この収入は保証される事になる。
「ひたすら安定して払い続けられる配当金、年金みたいなものか」
その通りだ。
よって、この土地の権利を持っている人たちは、決して豊かとは言えなかった沖縄の経済事情の中で、
予想外にも安定した収入が手に入る、一種の特権階級を形成してしまう事になったんだ。
「…あれま。変な話になって来たね」
そして土地の地権者の皆さんはこれを売買する事ができてしまうんだよ。
それが上で見た「軍用地」と呼ばれる土地の権利だ。
「ああ、つまり一種の株券、債権のような感覚か」
そうだね。しかも毎年確実に安定したお金が入って来るんだから
株式などよりはるかに安全で効率のいい投資、そして資産となる。
「…なるほど」
よって、このように専門の業者さんが林立して、その権利の売買が十分に商売になるんだ。
「すげえ世界だな」
全くだ。
本来は自分の生まれた土地にいつかは帰りたい、という希望から生まれた借地制だったのが、
その世代の人たちがほぼ亡くなってしまった現在は、一種の配当資産になってしまったんだよ。
これもまた、沖縄の現実の一つだ。
現在、この借地代は日本政府が負担してるから、これは我々の税金でもある。
「あれま」
だから沖縄の基地反対運動とか、土地の返還とか、単純に考えると根本を見失うのさ。
あれはそんなキレイごとじゃないよ。
利権と土地を持つ人たちへの嫉妬、さらに既得権階級の保身、それらが複雑怪奇に絡み合ってる。
「あれま」
少なくとも本土の人間が、沖縄の基地問題に気軽にとやかく言うべきではないだろうな。
今問題なってる普天間基地の返還だって、あの土地のほとんど全部に個別の地権者がいるんだから、
その利権関係の整理だけですさまじい事になるだろう。
「あれま」
といった感じで、今回はここまで。
「あれま」
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