■インドは21世紀だった



日本人がインドを考える場合、大きな影響を与えた本として昭和32年、1957年に発表された
堀田 善衛さんの名著、岩波新書の「インドで考えたこと」があります。
堀田さんは夏目漱石以降の日本が得た最高の頭脳と知識の持ち主の一人でした。
(知性、知識、知能の三点で見るなら、司馬遼太郎さんより上だろう)
彼が1957年、39歳の時にアジアの作家会議のためにインドを訪問した経験をもとに書かれたのがこの本で、
知性とユーモアを両立させた人だけが持つ、奥行きのある本となっています。
(正直、若さもあっていろいろ微妙な部分も抱えているのだが)

今ではほとんど知られてない本となってしまいましたが、1970年代くらいまでの若い知識人には
大きな影響を与えた本の一つであり、宮崎駿さんの「風の谷のナウシカ」などにも強い影響が見られます。
漫画版のナウシカはほぼ失敗作ですが、その性急にまとめられる物語の最後の部分、
王墓の中のナウシカと旧世代の意思との会話などは、
堀田さんの「インドで考えた事」の最終章の影響が強く感じられます。
(余談だが東宝特撮映画「モスラ」の原作「発光妖精 モスラ」にも堀田さんは絡んでいて
(三人の作者によるリレー小説だった)、
堀田さんは後半部分を担当した。ナウシカの王蟲にモスラの影響を見れなくもない)

ナウシカのラストで唐突に登場する虚無との戦い、あきらめの思想とそれに対する希望、
といった辺りは堀田さんの著作で触れられたものであり、
興味深い事に、この辺りの会話は(上滑りがひどくて実に難解だが)宮崎さんからの堀田さんへの反論にもなってるように見えます。

それでも最後の結論、ナウシカの物語が最後にたどり着いた場所は「インドで考えたこと」の最後の言葉、
「アジアは生きたい、生きたい、と叫んでいるのだ。西欧は死にたくない、死にたくない、と云っている」
に集約されて行く事になってるように見えます。混沌のアジアと近代文明の西欧の対比は、
ナウシカの物語の陰に隠れた(未来少年コナンでその片鱗をすでに見せているが)、
そして宮崎駿さんがナウシカを完結させるまで抱え続けていた問題の一つでしょう。



が、ノーテンキな私が21世紀になって訪問したインドは、純粋に混沌のアジアであり、
エネルギーの塊となって迷走する人口12億の国でした。
面白い、といえばこれほど面白い国も無く、疲れると言えば、これほど疲れる国も無いでしょう。
南アジアも確かにアジアである、中華圏の外でもそこはエネルギーに溢れてる、
という結論は今回の旅の貴重な収穫の一つでした。



といった感じで「21世紀のインド 2018」、近日スタートです。

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