■すべてはここから始まった
というわけで、オマケ編だよ、ペロ君。
「あれ、あるんだ。ずいぶんと久しぶりだな」
まあ、本格的な旅行記はタイ旅行記以来、1年以上ぶりだからね。
で、実は今回は日帰りだったので、見たかった場所の中にも
かなりの取りこぼしがある。
天竜二俣駅の機関車転車台とか、スズキ自動車の資料館とか、楽器博物館とかだ。
「はあ、さいで」
で、そんな取りこぼしの一つに、ここがあるのさ。
ちなみにこれは浜松駅にあった広告だ。
「神社?」
そう、秋葉神社。
浜松市の郊外、天竜区にあるもので、
極めて大雑把に言ってしまえば、秋葉権現を祭る神社だよ。
ちなみに秋葉の読みは“あきは”だ。濁点は無い。
「秋葉権現?」
権現は仏教の仏さんが、日本では神様になりました、
という妙な存在なんだが、ここでは深入りしないでおこう。
とりあえず日本の土着の宗教である神道と、舶来の仏教を
矛盾なく合体させるための荒業だったと思っておいてちょうだい。
ちなみに秋葉権現は火産霊大神、すなわちカグツチ、火の神様の仏教式名乗りだ。
ただし、この定義は意外に新しくて、両者が実は同一人物(?)だったのさ、
という衝撃の事実が登場するのは、明治以降、神仏分離令の後だ。
この政治による宗教への乱入という、近代史に稀に見る珍事によって、
後付け設定ながら、実は秋葉権現は、カグツチの別名だったんでヤンス、
という事になったらしい。
なので、明治以降、秋葉神社の祀神は秋葉権現では無く
カグツチ、火産霊大神となる。
ここ、ちょっと重要だから、覚えておいてね。
「はあ、さいで」
でもって秋葉権現は火の神様であり、転じて防火、消防の神様となってる。
それほど知名度は無いが、それでも日本全国で数百の秋葉神社があるはずだ。
その元締め、というか発祥の地がこの浜松の秋葉神社、かつての秋葉大権現なんだ。
「それが?」
まず、浜松は家康ゆかりの地、というか彼の人生の主要イベントは
ほとんどここで発生した土地だ、というのを思い出してちょうだい。
「イヌにそんな知識を要求するなよ」
とりあえず、そうなんだよ。
そして彼が造った江戸の街は火事とケンカの街であり、
それは江戸城内ですら例外じゃなかった。
ケンカ防止は神様の仕事の範疇外だが、坊火には一応、専門家がいる。
それが秋葉大権現様だ。
そこで家康公のゆかりの地、浜松の秋葉山大権現(現在の秋葉神社)から
秋葉権現を招き、江戸城内の紅葉山に祀ったんだよ。
「はあ、さいで」
でもって、この秋葉権現の神社は明治維新後まで城内に残ってたんだ。
そして明治になった直後と言っていい明治2年の12月12日に、
(この段階ではまだ旧暦を使ってたので、西暦では翌年の1月13日になる)
江戸城からも近い、神田相生町から出火した大火災が発生してしまう。
被害地は佐久間町一帯から平河町だから、現在の秋葉原一帯だった。
ただし、死者は女性が1名だけだったらしく、焼けた面積は広かったけども、
それほどの損害はなかったらしい。
「現在の秋葉原一帯?」
そう、繋がって来たね。
この火事の後、まだ江戸城に入ったばかりの明治天皇が心配したとされ、
このため江戸城内にあった秋葉権現の神社を焼け跡の地に遷座させ、
鎮火(ヒシヅメノ)神社を造ったらしい。
「神社の名前が変ってるじゃん」
先に書いたように、明治に入った後は、秋葉権現カグツチだ、
という事にされたからね。秋葉神社では無くなったのさ。
「秋葉原には繋がらないじゃん」
いや、そんなバカげた名前の変更を行ったのは政治家と、
一部の熱狂的尊王家の生き残りの都合に過ぎないんだ。
庶民の皆さんにとっては、江戸期から名の知られた防火の神様、
秋葉権現様の方が通りがいいし、そこに祀られてるのは実際、元秋葉権現様なのだ。
よって当然、この神社は秋葉さまと呼ばれる事になる。
この辺り、付近の住民がカグツチを秋葉権現の事だと勘違いして、
勝手に秋葉様と呼んだ、と説明される事が多いが、庶民をバカにしちゃいけない(笑)。
むしろ、秋葉様と呼んだ方が正しいんだよ。
実際、後に秋葉権現を祀っていた多くの神社は秋葉神社に名前を戻してる。
「…じゃあ、秋葉原、の原は?」
焼け跡一帯の一部が、後明治21年に鉄道駅ができるまで、
原っぱのまま残されたんだよ。
で、秋葉神社のある原っぱ、秋葉原だ。
あきははら、が正しいはずだが、下町言葉でなまって、あきは“ば”ら、となったらしい。
ただし、大正元年の本所深川生まれ、チャキチャキの下町娘だった
私の父方の祖母は“あきばはら”と発音してたから、この辺りも少々怪しいところがあるが…。
「さいですか」
ちなにに、鎮火(ヒシヅメノ)神社は鉄道駅建設に伴って台東区の松が谷、
現在の上野駅の北東に再び遷座され、秋葉神社に名前を戻して現存してるよ。
というわけで、家康ゆかりの地、遠く浜松に秋葉原の地名の由来はあるのでした、というお話。
「長いお話でしたが、オチは?」
無いよ、私は常に真面目な話しかしないんだ。
「…さいですか」
では、また次回。
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