■王の肖像

とうわけで、今回の旅行初のオマケコーナーだよ、ペロ君。

「…なんかこの間、登場したばかりのような」

まあ、前回のワシントンD.C.編が10ヶ月もかかっちゃったので、
今回わずか2ヶ月の中休みでの登場だからね。
今回は日数も密度も減ったので、前回みたいな事にはならんだろう。

「さいですか。で、今回のオマケはどんな感じ?」

いや、もう凄かった。
香港が意識的に暴走する熱情なら、
自然発酵して自律的に暴走するのがこの国で、
正直、どこからどうやって紹介したものか頭を抱えてる。

「へー」

なので最初はあえてやや真面目な話、タイの王室の特異性についてだ。

「さいですか」



まずはこれ。例のドンムアン駅にあったものだ。

「…事故でなくなった人の祭壇…にしちゃ派手だな」

いや、ラーマ9世 国王陛下の肖像なんだよ、これ。
ちなみにこの人はアメリカ生まれで、若い頃はほとんど欧州で暮らした、
というなんとも妙な経歴を持つ。
ただし有能なのも事実で、この崇拝には形式的なものだけでなく、
タイ国民が実際に敬服してる、という部分もあるかもしれない。

「お供えありますけど?」

よくわからんが、そういうものらしい。

「鉄道駅のホームに王の肖像、そこにお供えってなんかシュールだな」

まあね。
だがお供えはともかく、タイ国内、
少なくともバンコク周辺では街は王の肖像で溢れてるんだよ。
全く実情を知らない外人が来たら、スターリン時代のソ連、毛沢東時代の中国、
あるいは2014年現在の北朝鮮のような
個人崇拝を強いる独裁国家なのか、と思ってしまうくらい、
街中が国王閣下の肖像で溢れてるのさ。

だがタイは基本的に立憲君主制だし、
王様もその政治ルールを遵守しており、
彼の独裁政治という面は全く無いんだ。
ごくまれに政治に干渉するが、よほどの重大事で、
国王の権威で状況を抑える必要が出た場合に限られる。

「…じゃあ、なんで?」

さっぱりわからん。

それでもタイの場合、紙幣の肖像画も全て国王閣下だから、
おはようからお休みどころか、
安眠後も国王陛下に見つめられかねない生活となる。

「なんで?」

さっぱりわからん。
でも、私たちはこういった妙な個人崇拝の例を知ってるよね?

「そうだっけ?」

昭和10年代の日本がまさにコレだよ。
政治の実権を握っていたのは間違いなく軍部だったが、
彼らはその掌握した権力を正当化するため、天皇の権威を利用したんだ。
この結果、日本国中、それどころか海外の植民地にまで
天皇陛下の権威が強調され、その肖像写真が溢れる事になる。

当然、これで利益を得たのは天皇陛下ではなく、
統帥権というマヤマシで国を乗っ取った参謀本部のスカタン参謀どもだ。

「…タイも似てる?」

悲しいが、似てるね。
タイは隠れた軍事国家、という面を持つんだ。
バンコク市内にある軍関連の施設は異常なほど多いし、
あきらかに軍の利権で動いてる、という政治の面も多い。

ただし、連中は基本的に金で動く。
この点、金も名誉もいらない、チョー賢いオレ様の理想国家のために、
というスカタンな考えを持っていた昭和の参謀本部の連中とは
本質的に異なるように見える。
その分、毒素は弱い、とも言えるね。

こういった体制に害があるのは事実だが、
国民がそれも納得ずくなら、それはそれであり、なんだろうな。
実際、タイはその国家体制で、
周辺国よりはるかに豊かになってしまったし。

「なるほど」

まあ、とりあえず今回はその露出過多ぶりだけを確認しておこう。



これはフアランポーン駅にて。

「中央の肖像画?」

いや、そっちは昔の王様。
今回は右手前のお供えつきの方。

「…国王陛下、女装趣味が?」

いや、これはお后様、日本で言えば皇后陛下なんだ。
タイの場合、国王陛下だけでなく、ご夫婦で崇拝の対象になってるようだ。
実際、街中での肖像画数では両者で五分五分なくらいだった。

「へー」

ちなみに以前来た時は、ここにあったのは国王陛下の肖像だったから、
ここら辺り、定期的に入れ替えてる可能性もあるな。



こっちは街中で見た国王陛下の肖像。

「なんか肖像より周囲の飾りつけの方がすごいな…」

まあね。よく見ると左右に夜間用の照明もあるしね。
その代わり、こちららではお供えが無くなってる。

「ありゃ、ホントだ」



こちらはお后様の方。

「やや地味?」

だね。飾り付けに関しては国王陛下の方が派手なのかも。
それより注目は、彼女の服装で、毛皮のような上着を羽織ってるんだ。

「…タイの平均気温て?」

一年を通じて、ほぼ30度以上だ。
ただし、狂ったように冷房をかけてる施設が多いので、
そういった対策かもしれん。
もはや高齢でもあられるしね。

「地球にも国民の負担にも厳しいファッションのような気が…」



ちなみに最もインパクトがあったのがこれ。

「なんだこりゃ」

タイの大通りには歩道橋が多いのだけど、
その中のいくつかにはこういった飾り付けがあって、よく見ると…



ここにも国王陛下。

「迫力あるなあ…」

これ、夜中は目が電飾で光る、とかだとさらにステキだよね。

「いや、そんな事を考ええてるの、あんただけだよ」



で、先に書いたようにバンコク周辺は軍の施設で溢れてる。
それらの門にも国王陛下の像が掲げられてる事が多いんだが、
こちらは施設ごとに結構図柄に変化があったりする。

「右側のお后様の絵はちょっとやり過ぎとちゃいます?」

まあなあ。一歩間違えるとグラビアクイーンだよな、これ。
といった感じで、バンコク周辺は王様で溢れてる、という話。
はい、今回はここまで。


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