■空軍博物館の秘蔵機

さて、ここからの展示は世界で唯一、
この博物館だけが持っている貴重な2機です。
以前は中華風二号棟でかなり適当に展示されてたのですが、
タイ空軍がその価値に気が付いたようで、
新規展示ではヤケに丁寧な扱いとなっておりました(笑)。

幸か不幸か、タイはまともな近代戦争をやってないので、
大戦前、世界の航空大国になる前のアメリカが、
積極的に航空機輸出をやっていた時代の機体が多く残っています。

ちなみに、当時のアメリカにおける主要な航空機輸出先の一つに
中国があり、このためタイは中国軍と同じ機体をかなり持つ事になります。
なので1937年からの日中戦争を考える上でも
貴重な機体がいくつもある博物館、とも言えますね、ここ。



まずはカーチス ホークIII。

一体全体、どれだけ種類があるんだ、
というカーチス社のホークという名の戦闘機シリーズですが、
これはアメリカ海軍が採用した戦闘爆撃機、
BF2C-1 ゴスホーク(Goshawk)の輸出用の機体。
BF2C-1、ホークIIIともに現存機は世界でこれだけとなってます。

オリジナルのBF2Cゴスホーク(Goshawk)は
1934年からアメリカ海軍向けとして造られた戦闘爆撃機で、
複葉羽布貼りという従来と大きく変わらない構造ながら、
引き込み脚という新機構を取り込んだ機体でした。

ちなみに、この胴体横に引っ張り上げる車輪、という構造を見て
ピンと来た人も多いでしょうが、引き込み脚の構造はグラマン社が開発したものを
ほぼそのままパクってしまったらしいです…。

そのBF2Cを一部改造してホークIIIの名で
タイ、トルコ、中国に売ったのがこの機体。
ただし、改造部分については諸説あり、はっきりとはわかりませぬ。
とりあえずタイ空軍では70機以上を購入したと見られています。

当時の途上国では専用の戦闘機なんて贅沢で持てませんから、
よく言えば万能機、悪く言えば何でも屋な
アメリカ海軍の機体が好まれたようで、
後でみるヴォート社の初代コルセアもそういった機体となってます。
主翼下に爆弾が吊るされてる事からわかるように、
タイでは爆撃機としての仕事も重視されていたようです。

ちなみに、輸出用のホークIIIは主翼は、
木製の桁に羽布貼りだったという話があるんですが、ホンマかいな。
だとすると、タイ空軍では1935年から49年まで使っていたので、
戦後まで木製の主翼の戦闘機が飛んでいた事になってしまいます。
まあ、少なくとも胴体は鋼管に羽布貼りじゃないかと思いますが…。



この写真はUSSR(夕撃旅団 ステキにシビレル タイプR)での撮影。

オリジナルのBF2C-1は機首の左右に7.62mmと12.7mmという
口径の異なる機関銃を搭載してる変な戦闘機でした。

が、展示のホークIIIは正面から見る限り、機銃の発射口が見えませぬ。
エンジン開口部の左右内部に機関銃があった、という話もあるんですが…。
そもそも、上の写真でわかるように、
コクピットに機銃の照準器が見当たらないんですよ、この機体(笑)…。

ついでにホークIIIは1937年に始まった日中戦争で、
中国側の主力戦闘機の一つでもありました。
中山雅洋さんの中国的天空を読んだ人には、
ああこれが!という機体でしょう。
いわゆる新ホークですね。



脚は引き込み式といっても、その収容部がデーンと
胴体下に出っ張ってしまってます(笑)。
まあ、1934年採用の機体ですから、仕方のないとこですか。

その中に見えてる出っぱりは外付けの燃料タンク、
いわゆる増槽の取り付け部。
ただしあの隙間にスポッと入るわけではなく、
増槽の頭だけがあの部分に突っ込まれる形になります。

意外に凝った構造になってる脚部にも注意しといてください。



お次は、これも世界で唯一の現存機、ヴォート O2U コルセア。

アメリカ海軍が1926年から偵察機として採用した機体です。
ちなみにコルセアという名の機体はこれが初代でして、
F4Uは本来ならコルセアII、A-7はコルセアIIIが正しいはず(笑)。

その輸出型が、この機体なんですがO2Uコルセアの場合、
輸出型は武装を積んで戦闘機、あるいは攻撃機となってました。
とりあえずタイに輸出されてたのはV93Sと呼ばれる
プラット&ホイットニー社のR1340 ワスプエンジンを積んだ機体で、
初代コルセアの中ではほぼ最終型ともいえるタイプ。
ご覧のようにエンジン全体を覆うNACAカウルを搭載し、
当時としては最新のスタイルになってます。

タイ空軍では1934年に80機以上を大量採用し、
少なくとも1940年のフランス タイ戦争でも
まだ第一線で使われていたようです。
ちなみに、最終的には1950年まで現役だったそうで、
タイ空軍、スゴイなと言わざるを得ませぬ…。
(すなわち隼の引退後も飛んでいた事になる)

が、この機体、どうも投げやり感が無くも無く、
見れば判るように上下の主翼に機関銃をドカンと4門も搭載(笑)、
これでどうやって火線の集中点を調整するんだろうと思ったら、
これまた照準装置がコクピットにはありませぬ(涙)…。
豪快にわーっと撃って、楽しければオッケー、見たいな感じ?

ちなみに後部座席にも機関銃が1門あるので、
なんとこれ単発エンジンの機体ながら、
計5門の機関銃を積んでる事になります(笑)。
まあ、乗ってるだけで自分が強くなったような錯覚は楽しめそうですが…



その後部銃座はこんな感じ。
…ルイスの航空機銃にも見えますが、微妙に違うな、これ。
うーん、ホントにタイ軍の銃器はようわかりませぬ。


*****掲示板にてヴィッカース社のF型機関銃(Vickers Class F)ではないか、
という指摘をいただきました。確かにそのようです*****

この機体のワスプエンジンは10番台のはずなのでせいぜい550馬力、
そこに乗員二人のせて、機関銃が5門、
さらに、主翼下には爆弾まで積んでるムチャするな、という状態で展示されてます。
元偵察機でここまで派手な変身した機体も珍しいんじゃないでしょうか…。
ちなみに最高速度は288q/hだったそうな…。

ちなみにこれも日中戦争開戦時に中国軍が使っておりました。
中山さんの中国的天空ではコルセアI世と呼ばれてる機体です。
ただし中国向けのはやや旧式で、エンジンカウルが小さいV65型でした。
特にV65の中国向け、ということでV65Cと呼ばれています。

中国軍はこれを完全に戦闘機として使っていたようで、
当時、日本海軍の空母 加賀、鳳翔から中国本土に飛んでいた
3式艦上戦闘機を相手に空中戦をやってますね。
まあ3式艦上戦闘機も240q/h位しか出なかった、という話ですから、
なんとかなったんでしょうが…。

さらに言うなら日本も1機だけ購入してるらしいんですが詳細不明。



上のカーチスIIIもそうなのですが、このアメリカ艦載機コンビは
下の主翼の端に穴が開いてます。

空母甲板上で係留するためのものでしょうか。
ただ陸上使用が前提の輸出用の機体にまで残してあったという事は、
悪天候の時などに地上係留用にも使われてたのかしらむ。
単に面倒だからそのまんま、という可能性もありますがね(笑)。

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