■いろんな船の浮かぶ川
でもって、テムズ川に浮いてる保存艦は実はベルファストだけではなく、他にもう2隻、
繋留保存されてる船があるのでした。
2隻とも、ブラックフライアズ橋から、ウォータールー橋の間、川の北側に居ます。
それぞれ、第一次大戦と、第二次大戦時の船団護衛艦(sloop/スループ)です。
ただし、現在は両艦とも、民間の会社の保有になっており、貸し会場専用、
つまり大きなパーティーや会議、各種発表会に貸し出されるもので、
ベルファストのように内部の見学とかはできません。
まずは1隻目がこれ。
HMS
プレジデント(President)。
実は結構貴重な船、というかよく残っていたな、という艦でして、
これ、Qシップなんですよ。
第一次大戦中、1917〜18年の間に28隻建造されたアンチューサ級(Anchusa
class)
の中の一隻で、この船は1918年に建造されてます。
Qシップという軍艦は当時ドイツのUボートが行っていた
通商破壊に対抗するため、船団護衛に投入された軍艦です。
で、このクラスの船は、ご覧のように、一見すると民間の船にしかみえません。
それが狙いでして(笑)、ウシシシ、丸腰の輸送船団を襲うぜ、と
油断して近づいて来たUボートを発見すると、甲板に隠してあった大砲のカバーをはずし、
ボカスカとUボート相手に正義の鉄槌を叩き込む軍艦なのでした。
微妙にセコイですね(笑)。
当時はまだ爆雷も魚雷も性能的にあてにならず、確実に潜水艦を撃破するには、
その浮上中を狙う必要がありました。
なので、護衛艦なんていないよ、貴重な魚雷なんて使わず、
浮上して砲撃してちょうだい、ウフン、
という対潜水艦誘惑兵器がQボートなわけです(笑)。
そんなアホな、と思いがちですが、これがかなりの成果を上げたそうで、
味をしめたイギリス海軍は、第二次大戦でもこれを運用しました。
ドイツの潜水艦側としても、あてにならない上に数が少ない魚雷はなるべく使いたくない、
できれば浮上して、砲撃で確実に潰したい、という事情があったらしく、
ここら辺で見事に需給がかみ合った結果、大戦果につながってようです(笑)。
ちなみに、この船のは元々、HMSサクシフリッジ(Saxifrage)という名だったのですが、
なぜか1922年にこの名前に改名され、ロンドンで訓練艦として利用されてから退役となってます。
もう一隻はこれ、HQSウェリントン(
Welllington)。
元々はHMS ウェリントンなんですが、民間に払い下げられた後にHQSに名前が変わってます。
これが何の略称なのかは、よくわかりません。
指揮艦(HeadQuarters
Ship)の略かとも思うんですが、
改名は民間に払い下げられた後なので、その可能性はないような。
こちらは第二次大戦時前、1934年に造れらた船団護衛用の船で、
普通に武装を積んでたはずですが、現状、全て取り外され、
目にもまぶしい白い色に塗られてしまっているわけです。
イギリスの場合、空母、戦艦はおろか、まともな軍艦はHMSベルファスト以外、
ほとんど残ってない状態なのですが、こういった脇役っぽい船が2隻も現存してる、
というのはちょっと興味深いところではあります。
さて、その先でまた橋をひとつくぐります。
これはウォータルー(Waterloo)橋。
大陸読みではワーテルロー、あのナポレオンがシオシオのパーにされた戦場の名ですね。
さらに同じ名前の鉄道駅が、ついでにロンドン塔の中にもその名を付けた館があります。
が、それでもイギリス人、満足できなかったようで(笑)、かつての植民地、
香港のヤマティ地区にもウォータールー通りと言う道路があり、
イギリス人、よっぽどナポレオンに勝ったのがうれしかったのか、
単にフランスへのいやがらせなのか…。
その先が、目的地のエンバークメント駅なんですが、
その手前に、なんだかエジプトっぽい塔が見えます。
これはクレオパトラの針(cleopatra
needle)で、
ロンドン、パリ、ニューヨークに同じ名前のオベリスクが建っています。
ただし、実際は有名なクレオパトラ(7世)とはなんの関係もありません(笑)。
(エジプト王朝にクレオパトラは掃いて捨てるほどいる。美人と対ローマで有名なのが7世)
なんじゃこりゃ、という感じですが、どうも19世紀にエジプトが、
外交上のプレゼントとして、欧米各国に贈ったものらしいです。
最初にもらったが、このイギリスです。
当初、何の理由もないまま、エジプトに突然攻め込んで来た
ナポレオンの軍隊を、イギリス軍が打ち破ったのを記念して、
エジプト-スーダンの支配者だった、ムハマンド・アリから1819年に贈られたそうな。
ただし、輸送費がなくて実に1877年までエジプトに置かれたままになっていた、との事。
ちなみに、同じアリさんは、1826年にその恨みの多いフランス相手にも、
古代オベリスクを一本贈っていて、これがコンコルド広場にあるヤツだとか。
最後にニューヨークのはロンドンとパリにあるなら、ウチにも欲しい、という
よくわからん世論に押されて、1877年、エジプトからもらいうけたものだとか。
現在は、セントラル パークにあるそうです。
なんだか、現代の中国が使うパンダ外交を思い出しますね…。
もっとも、こちらは代わりがないホンモノの古代遺産ですから、
よりタチが悪い気もします。
ここからは、ロンドン名物巨大観覧車、ロンドンアイも見えます。
ここで、船のこっち側に居た人が観光客、降りるために反対側にさっさと行ったのは
現地の人なんでしょうね。
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