■なんでも聞けや
というわけで、ペロ君、今回はイギリス海軍における精神的なサポートについてだ。
「さいですか」
潜水艦ほどではないが、なにせ広い海で狭い艦内、
なるだけ皆さんに健全な精神を保っていただかないとエライことになるから、
イギリス海軍、そこら辺はキチンと面倒を見てたのさ。
「さいですか」
で、その結果がこのポスター。
「なにこれ?」
何か問題を抱えてないかい?と呼びかけるポスターさ。
あるならD.O.に相談しようぜ、助言してくれるから、と。
D.O.ってのは良くわからんが士官の軍医(doctor
officer)かなあ。
「問題ってどんな?」
赤い文字で書かれてるのがこんな相談をもって来い、という具体例だ。
上から見て行くと、
●軍人としてのキャリア
まあ、出世とか将来性とかかな。
●住宅問題
右側の文字が読めないが、家を買うとかそういう話だろう
●家族の問題
なんたって本人は年中海の上だ。家族との問題はあるんだろうね。
●お金 投資と節約
お金の問題に投資が絡んでくるのが欧米らしいとこ。
●交通保険
よくわからんが自動車保険?でもそんなに悩むか?
●スポーツとレクリエーション
まあ、中には海の上でどうしてもサッカーしたいんですよ、というのがいたのかもしれない。
●再定住(resettlement)
入植とか、そういった意味の言葉なんだが、これは除隊後の就職の事じゃないかなあ。
といった感じだ。
「普通っちゃ普通だな」
まあね。
でもって最後に 以下の相談にはアドバイスできないよ、という一文がある。
「何?」
彼女の作り方。
「…笑うところだ?」
もちろんだとも。
ついでにその後に、家族計画も、としてある。
「まあ彼女ができる前から家族計画はできんわな」
が、実はこれ、きわどい問題をギリギリでかわしてるのかも。
「どういう事?」
イギリス人はほぼプロテスタントだ、というのは何度か書いた。
が、カソリックもゼロではないんだ。
スコットランド地方、後はアイルランドからの移民などに少なくなかったんだよ。
「だから?」
基本的に、カソリックの信心深い連中は、避妊という事に否定的なんだ。
旧約聖書の創世記などに産めよ、増やせよ地に満ちよ、とあるもんだから、
それを根拠に子供はたくさんの方がいい、避妊なんてもってのほか、という考え方をする。
「へー」
どう考えても、あれは古代ユダヤ人向けの話なんだけどね。
連中は、どうしても人口を増やす必要があったのさ。
「なんで?」
紀元前1200年代のモーセと愉快な仲間達のエジプト脱出以降、
彼らは北東のシナイ半島に入植するわけだ。
が、ここは南東にエジプト、北にアッシリア、後にはバビロニア、という大国が乱立状態、
なんとも悲惨な地域で、実際、戦争に次ぐ戦争だった。
後にはアレクサンダーとその後継者もやって来るしね。
(余談だが、聖書(外典/続編だが)に登場する唯一の歴史上の有名人がアレクサンダーだろう。
ラムセス2世と思しきファラオも登場するが聖書の中では名が出てない)
まあ、そんなわけで連中にとって人口を増やす、というのは国家安全保障上の大問題だったんだよ。
なにせ、戦争に負けたら皆殺し、という時代で、兵隊はいくら居ても足りないんだ。
「何もわざわざそんな苦労する土地に行かんでも…」
彼らも望んで行ったわけではないんだよ。
半分はダマされた、という部分がある(笑)。
未だに理由がわからんが、とにかくシナイ半島の民衆の間に広まっていた
偶像崇拝の土着宗教(阿修羅神のルーツとなる宗教が最大派閥。ただし当時は女神)を
この地上から消し去りたくて消し去りたくて、しかたなかった絶対神 ヤハウェ(主)は、
これまた理由がわからんが、自分じゃ手が出せないので、いろいろ考えるわけだ。
で、ふと見れば遊牧民のユダヤ人が、農耕民族が支配するエジプトで酷い目にあってるのに気がついた。
そこでうまい事言って、その代表者のモーセと契約を結ぶことで、
連中を鉄砲玉としてエジプトの地からここに連れてくるわけだ。
が、その地の神々を滅ぼす、というのはまわり中を敵にする事であり、つまり年がら年中戦争だらけとなる。
実際、旧約聖書の列王伝あたりまでの歴史記述は、ユダヤ人の内紛も含めて戦争の話ばかりだ。
なので、人口はいくらでも必要になってゆく。
その結果、産めよ増やせよ地に満ちよ、となるわけだ。
が、当然、20世紀のイギリスでそんな必要はもはや無いだろう。
「じゃあ、そう言ってあげればいいじゃん」
そこが宗教の難しさなのさ。
プロテスタントのイギリス人とカソリックのイギリス人が
家族計画の話をするとなると、微妙に宗教が絡んでくる。
軍隊にとって、宗教的な話はできれば避けたいから、
このポスターのような表現で遠まわしに回避してるんじゃないかなあ。
「そういうもんかね」
あくまで、推測だけどね。
はい、とりあえず今回はここまで。
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