■火薬が広げるあなたの戦争
ここら辺りからは戦車戦関係の砲弾が。
一番手前、銀色の薬きょうのは90mm無反動砲のHEAT弾。
その奥の2本、普通の薬きょうが付いてるのは戦車砲用のHEAT弾ですが、
90mmとしてあったので、えらく古いものの可能性がありにけり。
それこそ歴代パットン戦車ものかもしれません。
このHEAT弾というのは、例のバズーカ砲などのロケット弾や
対戦車手榴弾と同じ原理の対戦車(対装甲)弾です。
弾丸の運動エネルギーで装甲を撃ち抜くのではなく、
弾頭に詰め込んだ火薬のエネルギーで装甲に穴を開けるものです。
まず、円筒状に火薬を固め、その内側を円錐状の凹型にくりぬいておきます。
この中心に円錐形の空間がある形の火薬を、底のほうから起爆すると、
空間部分が一種の衝撃波レンズとなり、強力な噴流が前方に発生します。
(本来、円形に広がる衝撃波を同じ方向に重ねてしまう。いわゆるモンロー効果)
この時発生する重なった衝撃波による高温、高圧を使って装甲を撃ちぬいたれ、
というのがHEAT弾の基本的な考え方です。
(正確には衝撃波背後の高温、高圧部を利用する)
で、それだけでも十分な破壊力を持つのですが、この中空の凹部に
薄い金属板を張り込んでおくと、その破片が超音速で飛び散って
目標の装甲に当たるため、さらに破壊力が増します。
(この金属片の破壊効果は意外にメンドクサイ話なので、そういうものだと思ってください)
第二次大戦前から、現在まで、HEAT弾はこの原理に基づいた構造で造られており、
先に見た対戦車手榴弾などは、先端の缶詰型の部分に、
こうした形の火薬と金属板が仕込まれていたわけです。
で、写真で見えてるウィスキーのボトルみたいな先端部の形状は
それをさらに進化させ、細い口部分に衝撃波と金属破片の噴出を集中させ、
一点集中でより分厚い装甲でも撃ち抜けるようにしたものだそうな。
が、HEAT弾はある程度の粘性を持ち、1500度前後で融解してしまう
金属装甲に対しては有効なんですが、
それ以外の装甲、例えばセラミック(焼き物)やコンクリート板が相手だと
その威力は極端に低下する、という特徴があります。
現在の戦車の装甲にセラミック板が挟みこまれている理由がこれです。
よって近年の対戦車戦ではあまり使われないタイプの兵器となっています。
ついでに、その構造上、あまり高速でぶつけてしまうと
火薬の形が崩れてしまって、衝撃波レンズとして働かなかったり、
あるいは衝撃で弾頭そのものが壊れてしまう可能性があります。
このため、比較的、低速で撃ちだす必要があり、
逆に言えば、ご覧のような、どう見ても空気抵抗が大きそうな形状でも
全く問題なく運用されてるわけです。
最後に、一番奥の方に見えてる金属キャップつきの砲弾は
76mm榴弾との事ですが、何で使ったものかはよくわからず…。
さて、こちらは現代戦車戦の主力弾、APFSDS弾の展示。
120mm戦車砲用という事なんで、
現在のK-1戦車で運用されてる弾かもしれません。
展示はちょっとゴチャゴチャしてますが、
手前のスカイツリーを縦方向に縮めたような黒い弾頭がそれです。
その奥、先端が黄色く着色された弾頭のは上で説明したHEAT弾。
APFSDS弾、略称でこの文字数ですから、正式名称に至っては
Armor
Piercing Fin Stabilized Discarding
Sabot、…何と訳したらいいのやら。
Sabotなんて英語、普通見かけないでしょう、これ。
あえて直訳するなら、剥離式固定具を使った安定板付き装甲貫通弾、でしょうか。
…誰だ、この名前考えたの…。
とにかく硬い材質で作られた細長い弾体を高速で装甲に撃ちこむことで
これを貫通してしまおう、というのがこの弾の考え方です。
乱暴に言ってしまうと、細長いと言うことは接地面積が狭いので、
強力な力で押し込むと、通常の砲弾より貫通しやすくなります。
太くて木製の割り箸より、金属製の細い注射針のほうが刺さりやすい、みたいな話です。
実際はもう少し面倒な話ですが、大筋ではそんなとこだと思ってください。
が、通常、戦争で使う大砲は大口径のものが多いですから、
そんな細長い弾を打ち出すことはできません。
その結果が写真の形状となります。
で、上の写真のアンドロメダ星雲から来たスカイツリーのような砲弾の形は、
この写真の一番上に見える、細長い矢のような砲弾を打ち出すために
考えられた工夫の結果なわけです。
ちょっと暗くて見づらいですが、右下が砲弾の中身の状態です。
普通の大砲で撃ち出せるよう、、シャンパングラスのような形の固定具で、
細長い弾体が固定されるのがわかるでしょうか。
この固定具によって火薬の爆発膨張による推進力を細い矢のような弾体に伝えます。
で、この状態で薬きょうにハメ込んだのが上の写真の砲弾なわけです。
この固定具は最初から上下二つ(モノよってはさらに多数)のパーツに分かれています。
薬きょうにハメ込まれている状態、および発射直後の砲身内にある時は、
押さえつけられた状態なのでこのままですが、
一度、砲口の外に出てしまうと、風圧で簡単にバラけ、
固定具は吹っ飛ばされてしまいます。
そうなると、後は矢のような弾体だけが、高速で目標まですっ飛んで行くわけです。
火薬の爆発圧力よる推進力は砲口を出たとたん、ほぼ消えますから、
こういう形でも、十分、実用になるのです。
ついでに、この弾体は弓矢のように目標を貫くのではなく、
わが身を削りながら、装甲の中を突き進みます。
なので、堅ければ堅い材質のほうが望ましく
(あまり柔らかいと貫通の途中で消失してしまう…)、
タングステン、さらには劣化ウラン合金などが使われる事になるわけです。
これがアメリカ軍などで問題になってる劣化ウラン弾ですね。
ちなみに、ウランですから、まず放射能の影響を連想していしまいますが、
単純にそれだけではなく、重金属ゆえ、劣化ウランそのものが毒性を持っています。
水銀みたいなもんです。
とにかく、使わないで済むなら、使わない方がいい金属ではあります。
日本語だと説明が難しい展示(笑)。
手で投げるGrenadeと投擲器で撃ちだすGrenade。
Grenadeは榴弾と訳すしかないのですが、基本的にドカンと爆発して、
周囲に破片を飛ばして人間を殺傷する兵器です。
これを手で投げるのが、いわゆる手榴弾ですね。
写真では手前がそうで、今時の殺人道具はカラフルですねえ…。
ちなみに一番手前はピンと信管部分の展示。
で、奥のコショウ入れのビンみたいのが、40mm
Grenade。
日本語だと40mmグレネードですかね(笑)。
これはグレネードランチャー、榴弾投擲器というもので撃ちだします。
当然、火薬の力で飛ばすので、手で投げるよりは遠くまで飛んでゆくわけです。
グレネードランチャーは散弾銃のオバケみたいな専用のものから、
ライフルの先端につけて、その発射ガスを利用して
撃ちだすものまで、いろいろあります。
どうも日本では馴染みが薄い兵器なので、詳しくは各自調べてくださいませ。
ちなみに、一番奥に見えてる塗料のスプレーみたいのは
催涙ガス弾か、煙幕用のスモーク弾でしょう。
…と、ここで今回の旅行最大のニュースです。
なんと、もう展示はこれでおしまいと思っていた本ホームページ主催者が
たどり着いた2階回廊の奥には、下手するとこの本館のメイン展示ではないですか、
というコーナーがあったのでした。
…マジっすか。
実はもう展示は無いと勝手に思っていたので、すでに閉館15分間だったりします。
イヤーン、とても間に合いません(涙)。
実はここ、本館入り口右の通路奥でして、本来、最初に来てしまえる場所でした。
ああ、痛恨の判断ミス…。
はい、なんだか昨年も同じような決断をした記憶がありますが、
明日、再戦が決定です…。
さて、そうと決まれば撤収に入りましょう。
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