■ソウルにおける日本メニュー II

さて、今回のオマケ編もソウルにおける日本料理に関する一考察だ。
一部例外もあるが、とりあえず行ってみよう。

「さいですか」

今回はソウル中心部編だよ。
まずはこれ。



壁にかがやく黄金のマグロの文字がイカした感じ。

「…唐突だね」

ついでに、この白い壁と黒い突き出し屋根、そして石垣は恐らく
日本のお城を韓国式に理解した“日本風店舗”だろう。

「マグロ専門店なんて商売、ソウルでやっていけるんだ」



いや、その実体は海鮮系料理屋さんなのさ。
ちなみにメニューの半分以上は韓国風の料理で、
メニューの説明もハングルと英語のみ。
基本的には地元の人相手のお店だろう。

「それなりに、需要あるんだね、日本料理」

あるようだね。
ここなんて、“飾りとしての日本語”はこの黄金のマグロだけだったから、
日本人なんて眼中にない感じだ。

が、ソウルの食堂ですごいな、と思ったのはほとんどの店が
メニューに英語による解説をつけてるんだ。
材料と料理法くらいなものだが、これはかなり助かったから、
東京や上海もぜひ見習っていいと思うよ。

特に日本の場合、海外からの観光客を呼ぶぜ、
とか言って変なキャンペーンとかやってるけど、それ以前の問題として、
せめて英語表記の案内をもう少し増やすべきだろう。

成田空港の駅で、キップの買い方がわからん、と聞かれたことが
3回以上あるから、都内とかに至っては察して知るべしだよ。
ついでに、一応スカイライナー始発駅の上野周辺ですら、
英語の解説メニューがある店はほとんど見た事が無いんだぜ。

「へー」



これは例の朝食を食べた店のメニュー。

「メルチグッスって?」

もう少し日本語音に近い表記をするなら、ミョルチグクスで、例のソーメンの一種らしい。
下の解説にあるように、イワシのシラス干しでダシをとったスープに入ってるようだ。

「ああ、あれで、しらすぼしいわし、か。36時間煮込むってのもすごいな」

ポンピン。判りにくい解説だが、ダシを取ってるだけらしく、
写真を見る限りではしらす干は乗ってなかったけども。

「しかし、ホントにソウルの食堂ってすごいね。英語、日本語、中国語入りじゃん」

ただし、お店の人には英語も日本語もまあ、通じないけどね。
ちなみに英語解説によると、アンチョビー ヌードルとしてある。

「アンチョビーなんて入ってるの?」

いや、イワシのことなんだけど、文章を読む限りではスープを取っただけ、
とはどこにも書いてないので、出てきた料理を見て、
思わずアンチョビーを探してしまう人とか居そうだなあ。

「微妙だね」



こっちはビビングクスで、どうもグクスってのがソーメンの事らしいな。
ビビンはビビンバのビビンみたいだ。

「…混ぜて食べる混ぜ…」

なぜか、この店のメニューでは、ソースをかき混ぜる系の料理は全て、
そういった日本語表記になっていたんだ。

「なんで?」

まったくわからん。機械翻訳とも思えないし、文字の誤認も考えにくい。
ソーメン食べる時の会話の語尾は“混ぜ”になる、という地方ルール?

「どうだかねえ…」

ついでに、日本語だと辛くてうまいソースとしてあるけど、
英語ではSpicy and sweet で、甘辛いソースになってる。
けど、韓国系の料理で甘辛い味は考えにくいので、誤訳じゃないかなあ、これ。

「美味しいソースって意味じゃないの」

まあ、Sweetにはそういった意味もあるけど、基本的に塩気のない美味しさであり、
透明に透き通った感じのミネラルウォータや、甘味系の味に使う言葉なんだよ。
これもアンチョビーと同じく、ちょっと勘違いの元になりそうな気がするなあ。



で、最後はこれ。
日本語じゃないけど、手前の窓の文字に注目。

「…何この漢文?」

これはあのお釈迦さまことゴータマ・シッタルーダ閣下が
最後の地上デビュー(輪廻転生中)の時、産まれた直後(生後3分程度)に言った言葉だね。
原文はサンスクリット語だけど、それを漢語に訳したのがこれだ。
直訳すると“この世界(宇宙含む)では唯一、私だけが尊い存在である”という事。

「…あんまりアタマの優れた人が言う言葉には思えないんですが…」

まあ、同じようなことを、ユダヤ、キリスト、イスラム、さらにはシーク教まで造っちゃった
ヤハウェ(仮名)閣下も言ってるから、宗教関係では普通の考え方だろう。
ただし、お釈迦様の場合、本人および同時代人が残した記録は一つも無いので、
まあ、これも後に作られた伝説の一つだろうね。

「で、そんなステキメッセージがあるこの店は何?」

フライドチキンなどの鳥料理がメインの飲み屋さん。

「…仏教は?」

全く関係ない。
ちなみにお釈迦さま本人は牛肉以外ならバンバン好きなだけ食え、
と経典の中で何度も連呼してるので、鶏肉を食べることは
私を敵に回す、という意外、特に問題はないだろう。

「全く問題ないだろ、それ。となると、店主が仏教徒?」

…かなあ。
1910年まで400年以上続いた李氏朝鮮は儒教国家だったから、
実は共産主義国家と同じく、宗教は排斥されていた。
禁止されていた、というほどには厳しくないようだけど、
それでも韓国にあまり寺院はないし、キリスト教系の教会がバンバン建ち始めるのは、
李氏朝鮮滅亡前後、20世紀に入った頃からだから、
無宗教国家だったと見ていいと思う。

そんな中での信心だから、日本の仏教徒とは違って、
信者の人は、より熱心だった可能性はあるな。
ただ、仏教徒なら、帰依の宣言文、南無〜を書くのが普通だろう。
南無の後に、純粋に仏教がが好きなら三宝への帰依を宣言して、南無三だし、
阿弥陀仏(あみだぶつ)が好きなら南無阿弥陀仏、といった感じになるわけだ。

「南無が帰依するっていう意味?」

ポンピン。サンスクリット語を音だけ拾って漢文にしたものだよ。
なので、この文章を持ち出す辺り、どうも仏教とは関係がないような気がするな。

とはいえ、韓国では先に書いたような事情で、仏典は日本ほど読まれてないから、
この言葉の意味を知ってる人は多くないような気がするので、謎ではある。

「中国系の観光客向けのものじゃないの」

どうかなあ。
中国は1950年代から80年代にかけて宗教は完全に禁止させられていたし、
そもそも仏教はそれほど信者がいないんだ。
むしろ、この店の主人はアタマがおかしいんじゃないか、とか思われる気がするぞ。

「微妙だねえ」

ホントに、ね(笑)。
孔子が産んだ「論語」によって生じた儒教というのは、
人類史上、まれに見るクズ思想だけど、
これが中国の歴代王朝、そして朝鮮半島では
支配階級の基本思想となってしまったんだ。

この結果、目上、目下、という階級社会そのものの思想が蔓延して、
くだらないメンツの張り合い、プライドばかり高くて
使い物にならない官僚と支配者階級を大量生産することになった。
日本も多少、その影響があるけど、
より少なかったのは幸いだったと言っていいだろう。

韓国や中国では、そういった思想が今でも残ってる部分があり、
メンツとかプライドとかにやたらこだわるんだ。
そういった意味で、こういった言葉を使ってる可能性も無くは無い。

「…ホントに微妙だね。でも、礼節の文化でしょう、儒教って」

いや、あれは差別思考文化だよ。あとは空っぽのクズだ。
実際、1910年の李氏朝鮮滅亡まで、朝鮮半島には奴隷制が残ってたし、
1800年代後半の戸籍(“大”帳)を見る限り、人口の3割り近くが奴隷階級なんだ。

「…あれま」

まあ、この問題にはあまり突っ込まないでおこう。
とりあえず、今回のオマケはここまで。


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