■正義が力なんですね、虎覆面さん

次は上昇力のデータでありんす。
単純に言うと、よーいドンで海面高度付近からスタートして(離陸からスタートではない)、
高度10000フィート(3048m)さらには20000フィート(6096m)まで何分かかるかコンテストですな。
言いかえると、どれだけ速く上昇できるか、というデータがこれ。

ちなみに、この二つの高度をサンプルとしたのは、
単に全機種のデータがそろうのがこの二つだけだったから(笑)。
実際には30000フィート(9144m)までデータを取ってる機体も結構あります。

ちなみに、下方向への運動性、というのは下降ダイブになるので、
重力による加速に加え、各機のエンジン出力による力が加わり、
どの機体も、あっという間に加速してゆきます。
まあ空力設計の良し悪しもありますが、基本的に高速度に耐える機体強度、
という問題になってくるため(エンジンによってはキャブレターが働かず止まったりするが)、
機体強度の限界速度データはあっても、その速い遅いについてはデータがなかったりします。
よって今回、この項目は割愛(手抜き)。




さっそくグラフを見て行きましょう。
縦軸が時間で、単位は分、各機の下の方にある緑色のバーが10000フィートまでの時間、
機体ごとに色が異なる長い方のバーが20000フィートまでの時間を示してます。

短い方が速くその高度に達しているので、左に行くほど優秀な機体。
ちなみに、P38とP51ともに長距離用予備タンクは空の状態ですが、F6FとF4Fは満タンの状態です。
通常は使わないタンクですから、F6FとF4Fは、実戦時より多少、性能が落ちてる、と考えていいでしょう。

さて、上方向への運動性は、機体重量とエンジン出力が大きな意味を持ちます。
通常、水平飛行時の機体にかかる「抵抗力」は空力的なものだけですが、
上方向への移動に入ると、これに母なる地球閣下の引力が加わります。
これは質量が大きければ大きいほど、正比例して強くなるので、
軽い機体が有利だろうな、と単純に思っていたわけですが…。

なんと上昇力でトップに立ったのは7.5トン、ゼロ戦の3倍の質量を持つP38でした。

これが今回のビックリ大賞ですが、なんつーか、
相撲取りが100m走を10秒で駆け抜けて行くような違和感が…。
まあ空気抵抗はとりあえず置いておくと、運動方程式は( 加速度(a)=力(F) /質量(m))ですから、
どんなに質量があっても、それに対抗しうる十分な「パワー」があれば、加速は維持できるんですけども。
が、理屈はそうだとしても、まさか7.5トンの重量の機体がトップに立つとは夢にも思ってませんでした(笑)。
いや、ホント、力は正義、なんですね。P38、恐るべき戦闘機です。ターボチャージャー ブラボー。

ただ、P38、ロール性能、旋回性能ともにキチンとしたデータが見つからなかったんですが、
パイロットの所見などを見ると、そこら辺に関しては平凡かそれ以下、となってます。
となると、なるほど、加速性、上昇性、ダイブ性を活かし、
上空からの一撃離脱が生きる道、な機体ですな、これは。



飛燕の航続距離と並び、その加速性と上昇能力で、
夕撃旅団びっくり四天王の一人となったP38。
その重量、ゼロ戦の3倍ですよ、3倍。2倍で十分ですよ、わかってくださいよ。
これが疾風&隼&雷電&鍾馗と互角な加速、上昇をやるんですから、
ポルシェカレラが、深夜の首都高でターボ積んだ引越しの4トントラックに
ブッちぎられるぐらいの衝撃がございます。いや、ホント。


ちなみに、P38やP47は(P51も?)上昇テスト、戦時緊急出力でやってるんですが、
上昇中に制限時間を超えてしまうので(笑)、途中から通常、または軍用出力になってるはずです。
ついでに断っておくと、一般に書籍等で出回ってるP38のデータは米陸軍が作成した、
「各機の性能早見シート」から取られてることが多いのですが(さらにそれの孫引き)、
そちらに掲載されたデータだと、P38J、10000フィートで15秒、2000フィートで30秒ほど遅くなってます(隼並みの性能)。
が、これは、戦闘時緊急出力を使用してないデータですね。
実際にはG型の段階で、ほぼ今回紹介したレベルの上昇力を持ってました。

しかし、さすがにそれ以外の上位陣は軽量な日本機の天下となってます(月光を除く)。
再び、日本機ブラボーです(月光を除く)。
そもそも1位のP38から4位の疾風まで12秒前後の差で、ほぼ同じような性能ですし、
上昇力においては十分、日本機が優位、と見ていいでしょう(月光を除く)。
ちなみに除かれてばかりの月光、くどいようですが、機体重量はP38とほぼ同じ。
ああ、力が、力が欲しい…。

ついでに後ろから2番目の結果に終わったのは、飛燕で、
航続距離ワンツーフィニッシュコンビ、ここではちょっと悲惨なことに。
加速性でも日本機のビリとブービーでしたから、
この両機は「燃料たくさん積んで遠くに飛ぶために産まれて来た機体」という印象が。
燃料が積める分、機体が重い、という面はあるんですけどね。
まあ、飛燕、低空低速時の性能は悪くないんで、10000フィート(3048m)以下までなら、
もう少し順位はあがります。すなわち富士山より低い高度でなら、それなりの性能。
……でも、戦闘機としてダメでしょう、それじゃ。

あと、注目なのはゼロ戦32型。
…いきなりなんですが、キーボードの「Zキー」が弱いようで、やたら「エロ戦(なぜか一発変換)」
となってしまい、今回の原稿執筆中、個人的に、いらん笑いが絶えませんでした。
…本題に戻ります。
これで見ると、32型の設計思想がなんとなく見えますね。
雷電、鍾馗とおなじ系統の「とにかくすぐに高々度に上がれる機体」で、
ヨーロッパスタイル、というかインターセプター的なキビキビと上がって、キビキビ動く機体。
燃料タンクを減らして重量軽減を図り、航続距離を犠牲にしているあたりも、
「ヨーロピアンなかほり」がいたしますな。
あの翼端の形は、日本人の「西洋への憧れ」が具現化したものだったような気がしますです。

その代わり、重量が増えてる52型はけっこう平凡で、P51どころかF6Fにも負けてます。
まあ、性能的にライバルと言えるF4F-3と比べた場合は、加速力、上昇力ともに上回りますので、
実戦ではダイブとロールを使った機動は封印、旋回性能も使って、高度6000m以下で勝負、
というのが理想型だと思われます。やってやれないことはないでしょう。十分、勝負になると思います。
まあこの両機、「ライバル」と言っていいんでしょうが、基本設計ではゼロ戦の方が
2年ほど新しい機体なんだけど…、というのは決して書いたりしないほうがいいでしょう。
だから間違っても書きませんよ、ええ。

ちなみに疾風、ここでもインターセプター並みの上昇力を発揮していて、
やはり日本機のなかでは、ずば抜けた性能を持ってます。
高オクタンガソリンが使える環境下で、この機体にちゃんと動く2段2速過給器付きエンジンを
与えることができたなら、かなりの高性能機になってたでしょうね。無念…。

あと、ちょっと注目なのがF6Fの意外な上昇の速さ。
先に書いたように、これ予備燃料タンクまで使ったオーヴァーロード状態ですから、
通常ではもっと良かったはず。
時期的に重なるゼロ戦52型を10000、20000フィートともに上回っており、
こうなると52型は加速性と旋回性だけで勝負、ということになりますので、上下の動きは使えません。
かなり厳しい、というのが、その性能を比べて見るとよくわかるわけです。


というわけで、今回はここまで。
あてにならない予告をすると、次回はロール性能&おまけ編です。
残り、あと2回(多分…)。

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