■高みにいるものが正義なのだ
地上戦、航空戦、さらには猫のケンカからカラスの空中戦、ついでに馬乗りマウンティングの格闘家まで、
地球の重力圏下の戦闘では、高い位置を占めた方が明確に有利となります。
サッカーでグランドのどちらかのサイドを2m高くしたら、高い方を自陣とする方が一方的に有利となるし、
土俵の片側を持ち上げた相撲でも同じです。
重力にしばられた戦いは、高みに立つ方が一方的にその位置エネルギーの使用権を持ちます。
もうひとつ、より高速である方が絶対的優位に立つ、というのもあります。
選手全員が相手より脚の遅いサッカーチームは悪夢でしかなく、
逆に常人より倍の速度で動けるボクサーは、事実上無敵でしょう。
それは空間内で自分の占める位置を、相手より高い自由度をもって決められるからです。
つまり「相手を常に自分の望む位置に持ってこれること」を意味します。
航空機も船も、戦争で使う場合、常に高速性を求められるのはそんな理由からです。
高度と速度。
占位と機動力、というのはあらゆる戦闘で、もっとも重要なんですね。
一般に、より高く、より速く動けるものが戦いに勝つ、ということになります。
逆に、高速性と高度能力で劣る方は、位置選択の自由を奪われた状態ですから、
自分の身を、常に相手が理想とする攻撃位置にさらし続けることになります。
これはヒモで縛られて床に転がされてるのと同じで、後はなぶり殺しにされるのを待つのみです。
以上のような理由から、陸上兵器や海上兵器が航空兵器に対し、
未来永劫優位に立つことはありません。
モビルスーツが実用化されようが汎用人型決戦兵器が完成しようが、
そのルールから逃れることはできません(海底軍艦は高速で空も飛べるから別)。
せいぜい、有効な対抗手段を持って身を守るのが精一杯で、
航空兵器に勝てる兵種は、おそらく衛星軌道上からの一撃を持つ宇宙軍の登場まで無いでしょう。
現代において、唯一の例外は核兵器だけです。
高度と速度。
その重要性は航空機同士の対決でもまったく変わりません。
AC130ガンシップが105mm砲まで積み込んで、どれほど火力を上げようと、
20mmバルカンしか持たないF15に決して勝てない理由がそれです。
そしてそれは、敵戦闘機に対し、必勝の宿命を負わされた制空戦闘機において、
もっとも重要な要素となってゆきます。
特にジェット機がまだ主力とはなってなかった第二次大戦期において、
各機の高空性能は、かなり重要な要素でした。
相手と取っ組み合いの格闘をやる場合は高度の高い位置にいる方が有利、となると、
一定空域の制空権を抑えるという、制空戦闘機において高度性能は重要な要素となってくるのです。
使用目的にAir
Dominance、制空と書かれているF22ラプター。
これまで当サイトで紹介した航空機の中では、もっとも高性能ですな(笑)。
それはステルスだから、というだけではなく、速度でも、機動性でも世界最強レベルだからです。
ステルスだけでなんとかなるなら、F117やB2に対空ミサイルをつけて飛ばしとけばいいわけで、
それでは勝てないから、ラプターが開発されたわけですね。
余談ですが、Air
Dominanceという言い方はイラク戦以降に使われるようになったもので、
一般にはAir
Supremacyと言います。
ついでに言うと、NATOや米空軍は制空に3段階を設けており、
Air
Parity(均衡空域) 自軍の基地および対空施設付近以外、絶対に安全な場所はない空域、
Air
Superiority(優勢空域) 敵空軍よりも優勢に立ってりいる空域、
Air
Supremacy(制空域) 完全に支配権を握り、敵は何も出来ない空域
となってます。
どうでもいいが、この角度から見るとチョコボールのキョロちゃん、もしくはヤッターペリカンに似てるぞ。
さて。
第二次世界大戦の前哨戦が始まってから、世界の航空軍関係者がほぼ同時に発見し、
その重要性に気が付いて、腰を抜かした概念が「制空権の確保」でした。
定義は難しいのですが、戦略レベルの空域で航空活動の自由を長期に渡り確保し、
場合によっては、その保護の下で地上戦を有利に進める、といったとこでしょうか。
誰もがそんなもんがあるとは思ってなかったので、例外なく、すべての航空軍は驚きます。
(ソ連だけは最後まで気づいてなかったような気がするんだが…)。
実際に戦争を始めるまでは「航空機は敵地に出かけてバンバン爆弾落として帰って来るのがお仕事」
といった程度の認識しかなく、
戦闘機というのはそれを迎撃するのが、これまたお仕事でした。
F-15、F-22など米軍の戦闘機の識別文字はFですが、これはFighter、戦闘機の頭文字です。
が、第二次世界大戦当時は、P-51といったように識別文字はPでした。
これはPursuit、追撃機の頭文字で、対爆撃機戦闘を想定してる名前でしょう。
ちなみに、この呼び名は、フランス語の戦闘機を意味する単語「chasseur」から来てますが、
本来は「猟師」の意味なので、英訳的にははHunterが正しく、どうも誤訳のような気が…(笑)。
まあ、猟犬がでっかい熊とかを追いかけるイメージですかね。
で、いざ戦争になって、爆撃機が爆弾抱えて敵地に出かけてみたら、
そこには敵戦闘機がいますから、当然、一方的にぼこぼこにされます。
当たり前と言えば当たり前の話。
が、当時は「爆撃機は戦闘機よりも強い(というか高速)」で、
その被害はたかが知れてる、と結構本気で思われてたため、みなさんビックらしたわけです。
あれま!こら大変だ。
どうする?
どうするって…こっちも戦闘機を送り込むしかないじゃん!
ということで「目的空域の航空作戦の安全を確保する」すなわち「制空」を目的とする
戦いが始まったわけです。
「制空権なんて、オラ食べたことないだよ」という時代に設計されたスピットファイア。
当然、自国上空での迎撃戦が主目的ですから、
その設計思想は
「とにかくすぐ作戦高度に上がれて(上昇力重視)」
「(当時としては)強力な武装で相手をケチョンケチョンにする」
でした。
対戦闘機性能なんて、ほとんど考えてないはずです。航続距離なんて知らない世界の話(笑)。
ただ、高速爆撃機に対抗するため、自らも高速だったのが救いでした。
同時に高高度性能も考慮されていましたが、それは主に
「高高度で進入してくる敵爆撃機をケチョンケチョンにしたれ」
という目的のためです。
しかしやがて、高高度性能のいいマーリン60シリーズエンジンを
通常の戦闘用に使ったほうがアタマいいじゃん!とイギリス空軍も気が付きます。
そこでスピットMk.IX(9)にマーリン60を搭載、これをもってドイツ空軍を圧倒して行きます。
同じく「制空権ってナマで食べても大丈夫なんですかね」という時代のMe109。
不幸だったのは、先に爆撃機を敵地に送り込んだのがドイツだったので、
1934年当時の設計思想では、航続力という発想が完全に欠落している現実に、
先に直面させられたことでしょう。南無〜。ダンケルクまでは問題なかったんですがね。
ちなみに後でも書きますが、ほぼ同じ時代の米海軍機、F4Fが長大な航続距離を持つのは、
別に先見の明があったわけでなく、単に海軍機だからです(笑)。
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