■米軍による機体テストについて

一般に、航空機の性能試験は、さまざまな前提条件によって、出てくるデータにばらつきが出る。
また、国によってテスト方法が異なってる部分もあるので、一概に比較ができない上、
フィート&ポンドの英米と、メートル法の日本&欧州本土では、
距離、高度はおろか、エンジン馬力まで、比較するためにいちいち数値換算が必要になる。
ついでに言うと、容積単位のガロンなんて英米でも全く異なるのだ(これは要注意の項目だったりする)。
本来、航空機のテストデータを国別に比較するのはかなり難しいのである。

が、今回のデータは全て米軍が行ったものなので、その各種条件は統一されており、
性能比較を行うのに、理想的な条件となっている。
例え日本機のデータが、日本国内で行われた試験と数値が異なっていても(一般に米軍データの方が優秀)、
米軍機と同じ条件で取られた数値であるから、両者の比較にはなんの問題もない。



米軍で試験された後の屠龍。そのコクピット下に何か書かれてるのが見えるだろうか。
これ、使用するガソリンやオイルに関する注意書きで、
かなりシステマチックかつ、慎重にテストが行われたのがうかがえる。
(後部座席前の赤い丸も同様)
余談だが、米軍は「塗装をはがすor米軍式に塗りなおす」等してテストした日本機を、
なぜか最後に「なんとなくそれっぽい塗装に戻して記念撮影をする」
という変な習慣があったので、残ってる塗装がオリジナルなのか否か、判断に困る。
この屠龍の塗装は、多分米軍の手による「記念撮影用」だと思うのだが…。



■飛行試験の条件について

米軍は(英軍もだが)全て実際の戦闘状態に近い状態でデータを取っている。
具体的には

●武装は全て積んだまま、弾薬も作戦時と同じだけ積む。

 日本機のテストでは弾薬無し、あるいは想定される重量のバラストを積んだと思われる。
 また、爆弾、増槽等の外付装備は一切付けない。取り付け金具なども外せるなら、外す。
それらを付けてテストしたデータもあるが、今回は掲載しない。
 
●燃料は機体内タンクが満タンの状態で行う。

ちなみにP51やF6F、F4Fなどは、機体内に長距離飛行用の予備タンクを持つが、普段はこれを利用してない。
が、テスト時にはここにも燃料を入れてるので、数値的には実戦時より多少性能が落ちている可能性がある。
まあ、要するに増槽なしの最大航続距離飛行状態でデータを取っていることになる。
(予備ダンクを使わないデータも同時に取られることが多いが、データの条件統一のため、今回は掲載しない)

●試験時のエンジン運転は、可能な限り最大出力を使う 

まず、知っておきたいのが、米軍機のエンジン出力には
「通常出力(Normal Power)」
「軍用出力(Military  Power)」
「戦時緊急出力(War Emergency Power)」
の三段階が存在するということ。

 ■通常出力 エンジンを規定内の範囲で使用した状態。当然、その使用に何の制限もない。
最大航続距離、最高実用高度など、エンジン馬力があまり意味のないテストで使用。

 ■軍用出力 エンジンの回転数を通常より上げ、出力を高めた状態で、ここから使用時間の制限が出てくる。
P-47に積まれていたR-2800-21の場合、上昇中は5分、それ以外の飛行状態では15分まで、とされている。
最高速や上昇力はこれで計測する。

 ■戦時緊急出力 もっとも高出力だが、より時間制限の厳しいもの。
水メタノール噴射によって気筒温度を下げる、マーリンの場合は過給器のリミッターを解除するなどして、
短時間だけ緊急に大出力を得るものを指す。
ただし、F4FのR1830系などエンジンによっては、これが存在しないものもあるようだ。
また、軍用出力にも水メタ噴射を使ってたと言う記述もあり、ここら辺の明確な規定は不明。
使用可能時間も、一瞬から数分まで、機体による。
 今回のデータでは、一部の機体で、最高速の計測に「戦時緊急出力」が使われている。

テスト条件は以上。
 

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