■主翼のタイプ

スピットファイア、海軍向けタイプのシーファイアを別にしても、マークナンバーが24もあるってだけで異常ですが(笑)、
さらに同じマークナンバーでも、取り付けられた主翼によって、武装が異なり、
それらはそれらで、A,B,C,D,Eといった呼称を別に付けてました。
当初はA,Bの2種類だけだったのですが、Mk.V(5)からはC翼も加わり、ややこしさクライマックス。
最終的にはE翼まで作られます。
文章で書いてもわけわからんので、下記の表を参照してください。

なんで、スピットファイアMk.Vと言っても、最低でも三種類の異なるタイプが存在し、
スピットファイアMk.V A、あるいはMk.V Bといったように末尾にその武装のタイプが入ります。
なお、それぞれの主翼のタイプで異なるのは武装のみで、短翼だの延長翼だのは、
前にも書いたようにネジ二本で取り付けられた翼端部を、現場で調整していたものです。
ただし、生産時から翼端部が外されていた短翼型(Clipped wing)も一部には、ありました。

 
 A翼(A wing)
 7.7 mm (0.303in)機関銃×8 (当初のスピットの武装がこれ) 
 B翼(B wing)  
  7.7 mm (0.303in)ブローニング機関銃×4  
 20mm(英語圏でもインチ表示は無い)ヒスパノスイザ機関砲×2
 バトル オブ ブリテン時に破壊力が足りない、との意見が出て造られたタイプ。
 Mk.Iは30機前後を後に改造、IIからは通常生産型に加えられていく。

 C翼
(C wing/
 UniversalWing
 
 可変型、万能型(ユニヴァーサル)とでもいうもの。
 20mmヒスパノスイザ機関銃×4
 または
 B型翼と同武装
 のどちらかを選択可能。もっとも使われたらしい。
 三番目の量産型であるMk.V(5)から生産型に加わる。

 E翼(E wing)
 20mmヒスパノスイザ機関銃×4
 または
  20mmヒスパノスイザ機関銃×2 + 12.7(0.5in)mm×2
 のどちらかを選択可能。C翼の強化発展型といえるユニバーサルウィングだが、
 主翼の構造から大幅に手を加え、大改造している。
 1944年に登場したので、基本的にはグリフォンスピット専用だが、
 最後の(パッカード)マーリンスピット、Mk.XVI(16)でもこれを採用しているほか、
 終戦間際まで生産の続いたMkIX(9)の一部にも搭載された。
 (Mk.IX(9)のパッカードマリン搭載型がMk.XVI(16)なのだが)

 X翼(X wing)
 「帝国軍」のタイファイターに対抗するため開発された、一種の複葉機ともいえる
 2段重ねの主翼となっている。「垂直方向に展開する可変翼」という特徴をもち、
 全開時に機体正面から見 ると「X」字型に見えるため、この名があるらしい。
 翼端部に茶道原理、否、作動原理は全く不明の光線兵器を計4門
 を備えている。
 宇宙飛行もOKなんだよ、ルーク。
 イギリスなんだから、北のほうで探せばドルイドもいるだろうしね。

以上四種類。
五種類に見える人は、どこかおかしいと思いますが、そういう場合は最後のを無視してください。
各主翼は工場生産時に取り付けてしまうので、基本的には武装は機体ごとに固定のはず。
表内にはD翼がありませんが、これは武装型ではなく、写真偵察タイプ用に主翼内の武装を降ろし、
そのスペースに燃料タンクを積んだものでした。

また、最終生産型のMK.21/24は、完全新型の主翼だったようですが、資料が少ないし、
正直、どうでもいい機体(ひどい)なので、パスします。

ついでに海軍向けの艦載機型、シーファイアのB翼を海軍ではD翼と呼んでいた、
との資料もありましたが、確認がとれず。




Mk.II B。すなわちMk.IIのB翼型。
ビヨヨーン、と出っ張ってるのが20mm機関砲、
手前に赤いシールが貼ってあるのが7.7mm機関銃。
シールを貼ってるのは離陸時に砂埃などが、銃身に入って故障の原因になったりしないようにするため。
飛行場やら航空基地がアスファルト路面になるのは、戦後のジェット機時代以降で、
それまでは草地ならまし、たいていはむき出しの地面だけの広い空き地に過ぎなかったわけで。
雨で当時の飛行機が飛べなくなるのは、飛行場が泥でぬかるんで使用不能になる、という面もあったはず。
でもなあ、博物館の展示なんだから、普通に見せろよ、ダックスフォード、とも思った。




変身ユニヴァーサルウィンングの例。
E翼の20mm4門(片翼2門)状態。
ただし、この機体の銃身は、ごらんのように電飾まで施された(涙)レプリカで、
その点はご容赦。

しかし、こうして見るとえらく巨大なのがわかる、グリフォンスピット(XIV)のラジエター。
上のMk.IIと比べるとここまで違うものか、という気も。
しかもこれ、両翼についてるんですぜ(上の写真のMK.IIは右翼のみ)。




こちらはそのE翼の内側のを12.7mmに置き換えた状態。
20mm×2、12.7mm×2ですね。



アップで。
ヴィバ!王立タイ空軍博物館。
すべてがオリジナルのようです。
おそらく逆の装備、つまり左が12.7mmで右が20mmってのもできると思いますが、
この点は未確認。





■搭載エンジンの高度別タイプによる、低空用のLF、高空用のHF 通常型のF


Mk.V(5)以降では、搭載エンジンによっても、いくつかのバージョンが存在します。
具体的には通常型のF、低空型のLF、高高度型のHFの3タイプ。
ほとんどの機体は通常型として生産されているので、F型となります。
LF、HFともに外観は全く同じで、その明確な区別は不可能なので、
この区別はわざわざ表記しないのが普通。
まあ、あまり気にしなくていいポイントではあります。
とりあえずそんな区別もあるよ、って程度に覚えておけばいいでしょう。
繰り返しになりますが、翼形はこのタイプの区別には意味がありません。

そもそも、バトル オブ ブリテン時には、3000m以下の高度だと、スピットは速度、機動性ともにドイツ機に劣っていました。
4000m以上ならスピットが、それ以下ならMe109が有利であった、という感じです。
完璧超人スピットことMk.IX(9)以降からは、常に全高度でMe109、Fw190より高速にはなったものの、
低空での機動性はやはり一歩遅れをとり続けました。
おそらく機動性も含めて、スピットが完全に優位に立てたのは高度5000mくらいからでしょう。

で、その対策として低空用にチューンされたマーリンを搭載した型がLF(Low level Fighter)でした。
Mk.V(5)から登場してくることになります。
過給器の羽根車(インペラ)の羽根を短くカット、それを小型化したエンジンで、
これによって羽根車は軽くなり、それを回すためのエンジンの負担は軽くなりますから、
過給器を必要としない高度での通常出力は上がります。
しかし当然、羽根車をカットしてしまったので、高空での過圧は限られ、
その点では確実に性能の低下をまねきます。
が、低空専用、ということでそこは目をつぶったわけです。
使用高度は4000m以下あたりが目安だったと思われます。
初期のタイプでは、エンジン名の後ろにMが付いてると、この低空用です。
マーリン45M、50Mなどがそれ。61型以降では、専用ナンバーがつけられています。

で、次のMk.VI(6)で高空用のHF(High level Fighter)というタイプが登場
(VIがそもそも高高度戦闘機なんで、LFやFは存在しないのだが)、
Mk.VIII(8)からは全部そろってLF、F(Fighter/通常型)、HFの揃い踏みとなり、
この3つのバージョンは、Mk.IXにも引き継がれます。
ちなみに、Mk.V(5)にも一応、HFヴァージョン、あるんですが、
試験的に改造されたもので、量産型ではないようです。

ちなみにMk.XII(12)以降のグリフォンスピットにこの設定があったのかはよくわからないのでパス(笑)。
ただし、グリフォンはそもそも低空用に考えられていたエンジンなので、
そのまんまでもドイツ機と低空性能でタメ張れたはずですし、
1944年ともなれば、もう低空用の設定の機体なんて意味なかったように思います。

で、LF型、翼端を外して短翼にしたのが多いようですが、
これだと空戦時の重要な機動、機体を左右に傾けてグルリと回転しちゃう
ロール性能は空気抵抗の軽減で大幅に上がったものの、
最高速度は変わらないか、高度によっては少し低下したようです。
このため、LFと言っても、必ずしも短翼で出撃していたわけではないみたいですね。


■その効果について

でもって、造ったはいいけど、どの程度有効なの?
ってのはイギリス空軍も不安だったようで1943年の10月28日にMk.IX(9)を使って行われた試験データが残ってます。
ちょっとテストの場所がはっきりしないんですが、おそらく空軍自ら行ったものでしょう。
すべて通常翼端を付けた状態の主翼でテストしています。

ちなみにこのデータ、日本語で紹介されるの、これが初めてではないかと(エッヘン)。
すべてタイプライターで作成されたレポート(の写真(笑))から
直接数字を拾ってメートル法に換算しています。
よって、私の転記ミス、換算ミスが無い限りはすべてオリジナルデータです。
なんか変、というポイントがあったら、多分転記か計算のミスですんで、ご指摘ください。

条件としては通常武装は積んだまま、機内燃料タンク満タン、というものです。

ついでに(1段or2段)2速マーリンではMS(medium speed)と呼ばれる中速用ギアと
FS(fast speed)と呼ばれる高速用ギアを使い分けています(通常は高度にあわせて自動で切り替わる)。
で、それぞれのギアにおける最大速度、最大出力、というのもあったりします。
これらの説明は省く(ヘタレ)のですが、マーリン、同じタイプのエンジンなのにスペックが2つ紹介されてるのを
英語圏などの資料で見かけるのは、これが原因ですね。
で、ここでは混乱を避けるため、日本語で言うとめんどくさいので、とにかく数値の高い方のみを掲載します。

 タイプ(type)

 エンジン(Engine)

重量(Weight) 

 実用限界高度
(Service Ceiling) 

高度6666mまでの時間
(Time to 20000ft.) 

 最高速度 : 定格高度
(Speed : Altitude)

Spitfire F Mk.IX (並)

 Merlin 63

 3.38t

 14333m

 6.7分

 652.8km : 8333m

Spitfire LF Mk.IX (低) 

 Merlin 66

 3.38t 

 13833m 

 6.4分

   646.5km : 7000m 

Spitfire HF Mk.IX (高)

 Merlin 70

 3.38t

 14667m

 6.4分

   665.5km : 9166m 


うーん、こうして見ると、通常型のFだけで十分な気がするなあ(笑)…。
そんな決定的な性能差は見られませんねえ…。
上昇力が通常型のみ微妙に(10秒程度?)遅いのですが、まあ誤差の範疇でしょうし。

念のため、MSギア(中速ギア)時の最高速度も見てみましょうか。


MSギア時の性能 (In medium speed gear)

 タイプ(type)

 最高速度 : 定格高度
(Speed : Altitude)

 Spitfire F Mk.IX (並)

611.2km : 4166m

Spitfire LF Mk.IX (低) 

614.5km : 3500m

 Spitfire HF Mk.IX (高)

633.6km : 5000m


あ、こうして見ると3500mで600kmを超えてくるLFには意味がありますね。
最初の表で、HFは665km出てますが、これは空気が地上の1/3しかない、
その分空気抵抗も少ない9166mという高度での話。
3500mで600kmを超えてくるのは立派でしょう。
これだけで出れば、Me109G相手でも、圧倒できます。
しかし、低空用のLFのくせに、高度7000mで646.5km出してしまうんだから、
高高度スペックを削ったとはいえ、腐っても2段2速過給器、マーリン61系はすごいですねえ…。
これ、低空用のLFだけで、普通にMe109Gとタメはれますよ。
他、いらない(笑)。
ましてゼロ戦の52型なんかと比べた日には…って、それは言わない約束だよ、おっかさん。

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