■スピットのあれやこれや


というわけで、スピットの各型の説明に入る前に、機体の基本設計とでもいうべき部分を見ておこう。
きわめておおざっぱに分解すると、スピットは下図の6つのパートに分かれる。






この中でカラーで入ってる胴体部、すなわちエンジン後ろから水平尾翼、垂直尾翼の固定部分までは、
初代スピットファイアのMk.I(1) からMk.XIII(13)まで、基本的な構造はほとんど変わっていない。
厳密には終戦直前まで生産が続いていたMk.IX(9)でも後期には水滴風防となるのだが、これはまあ例外だ。
とりあえず、本格的なグリフォンスピットが登場する前まで、
すなわちMk.XIV(14)で大幅に手を入れられるまで、胴体部は共通、と言っていいだろう。
これは主要な生産型となったものは、結局全て同じ胴体を使っていた、ということでもある。

では、順番に見てゆこう。

2.エンジン部分
ここ、コクピットの前、エンジン部までにちょっと間があるが、
この部分に燃料タンクが入っている。
で、スピットでもっとも変更のあったのがこのエンジン部分だ。
ロールス-ロイスが恐るべき勤勉さで次々と新しい型のエンジンを造ってしまった結果、
エンジンのヴァリエーション、マーリンエンジンだけで15種類を超えているのだ。
その結果、スピットは最終的に全24型(13も欠番になってない)という
バリエーションを誇る機体となってしまう。

最終的にはグリフォンエンジンが搭載されるのだが、意外にも機首部分以外、
大きな変更をせずに収容できてしまっている。
ちなみに、胴体そのものは変わってないが、機首下の気化器の空気取り入れ口などは
エンジンの変更にともない結構場所が動いてるので、念のため。
また、エンジン部分は同じマーリンでも、60以降を積んだMk.VIからは5インチ(約13cm)長くなっている、
ということだが、どうも資料によって食い違いがあるので、誰か計って来てくださいませんか?

3.プロペラ部
意外に変更があった部分で、Mk.Iの木製2枚固定ピッチをすぐに金属3枚可変ピッチにし、
その後も定速プロペラ化、エンジンパワーアップにともなって4枚化、5枚化、
最後には2重反転にまで行き着く。
木製固定ピッチペラから2重反転ペラまで進化した機体はさすがに他にないのでは?

4.主翼部
最終型のグリフォンスピット(Mk.21以降)になるまで、桁構造など、主要な部分に変更はない。
が、スピットファイアはラジエターとオイルクーラーを主翼下面に搭載したため、
その変更がかなり頻繁に行われたのと、Mk.IIの段階から、異なる武装を搭載した
主翼が何種類か存在したので、ヴァリエーションは多い。
Mk.IX(9)あたりからは翼内タンクも本格的に搭載されるようになった。









さて、スピットの主翼には、もうひとつの特徴がある。
3機のスピット写真、それぞれの主翼の幅に注目してほしい。
上の2枚は、下の青い機体の方が主翼が短いのに、すぐ気づくだろう。
一番下は少々わかりにくいが、少しいびつに主翼が引き伸ばされ、
一番上の機体よりさらに主翼が長くなっている。

簡単に言うと、一番上のが「通常状態主翼」。まあ、普通の主翼だ。
次の青い機体のが「カット状態」、これは低空戦闘での速度向上を狙ったものだ。
一番下が「延長状態」で、高空で十分な揚力を得られるようにした状態となっている。
これについては「通常型」「低空型」「高空型」の3種類の主翼がある、と説明されることが多いが、誤り。
実際は、各タイプのスピットにはそれぞれ1種類の主翼しか存在しない。
スピットは最初から、簡単に翼短部分を取り外せる設計になっており、
これを利用して、その形状を変更しているだけである。
(厳密には一番下のMk.VII(7)はほかの機体と主翼の構造のちょっと異なるが)



極めて大雑把な図だが(涙)、このように、エルロン(補助翼)から先の部分は、ネジ2本のみで取り外しがきき、
真ん中の通常型の翼短をはずして左側の延長型をはめたり、
翼端部がカットされた常態のままにするため、右側のカヴァーを付けたりすることができたのだ。
(Mk.VII(7)だけはエルロンが短いので、ちょっと他とカット位置が異なるように見えるが)
ちなみにこの部分、艦載機形のシーファイアでは折りたたみ部分になっている。

高空用はわかるが、低空用ってなに?というと、
先にも書いたように、スピット、低空域での速度がMe109やFw190に比べ優れなかったので、
ここらでの戦闘を前提とした出撃の場合、これらの対策をとったものと思われる。
ちなみに、スピットにはL.Fと呼ばれる低空型、H.Fと呼ばれる高空型があるが、
これは搭載エンジンによる分類で、主翼のタイプは上記のように簡単に変えてしまえるので関係ない。

5.垂直尾翼の動翼部
特に最初は変更もなかったのだが、主要なパートに変更を加えずに、
空力的な修正が利く部分として、高空用の縦長のもの(トンガリ尾翼)の採用、
水滴風防化したあとの直進安定性確保のための大型化などが一部の機体で行われる。

6.尾輪
あんまり重要な部分ではないが(笑)、途中から引き込み式になる。
Mk.VII(7)以降にこの変更が行われるのだが、
全タイプを通じて2番目の生産量を行った型であるMk.IX(9)がいろいろあって(後述)固定式に戻ってしまう。
Mk.VI/VII/VIII(6,7,8)は量産されたと言っても主要なタイプではないので、事実上、
この変更はグリフォンスピットのMk.XII(12)からとなる。



はい、てなわけで、今回はここまで。

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