■君の名は?
さて、ここで少し脱線。
あまりに有名ながら、あまりに謎に満ちた(笑)スピットファイア(Spitfire)という名前。
まあ、口からモノを吹き出す、つばを吐く、などと言った意味のSpitと
日本人でも知ってる、Fire、火という単語の組み合わせだ、というのはすぐわかる。
だから直訳すると「口から火を吹く」とでもなるだろう。
大道芸か?と思ってしまうが、この場合は「火のような言葉を吐く」という意味で、
ようするに、激怒して相手をののしってるような状態を表現いているのだ。
で、結論から言うと、カンシャク持ち、すぐ怒る人、けたたましい人、といった意味で、
主に女性(少女?一般に若い女性)に対して使われた(She
is a
spitfire)。
ものすごく意訳してしまうと、「ヒステリー持ちの姉ちゃん」とでもなる。
まあ、もう少しかっこ良く「炎のような女」とでもした方がいいですかね。
そもそも古き良きエリザベス朝のイギリスで、女王の治世ということで女性陣もやかましくなり、
それらに対してつけられた呼称がスピットファイア、という説あり。
ちなみに猫がフオー!っと威嚇してる状態もスピットファイアと言う、ってな話もあるんですが、
英英辞典などで見るかぎりでは、そのような意味は見あたらず。
ついでに最近の辞書だと、先に「戦闘機の」スピットファイアが出てたりします。
まあ、あまりいい名前ではないが、スーパーゴールデンデラックスファイナルサンダーとか
そんな名前よりはましかもしれない、と思わなくもなくもない。
余談ながら、1934年にキャサリン・ヘプバーン主演の「スピットファイア」という映画が公開されている。
これの影響があったのか…は、わからない(無責任)。
これ、未見なのだが「キャサリン・ヘプバーンの無かった事にしたい作品ベスト3」
に入るような内容らしいので、関係ない、と見るべきか。
1934年といえば、彼女がアカデミー賞で最初のオスカーを獲得した翌年、絶頂期ではあるんですがね。
まあ、とりあえず、いい意味で使われる言葉ではないのは確かで、日本語にするのも極めて困難な単語だ。
「じゃじゃ馬」ってあたりが一番近いような気がする。
しかしこの名前、誰に強要されたわけでもなく、親会社のヴィッカース-アームストロング社が自らつけた名前…。
Supermarineの飛行機、ってことで頭の字はS(頭文字S…)で、というしばりはあったらしいですが、
他にいくらでも、Sで始まるまともな単語あるだろうに。
ちなみにこの戦闘機の命名ルール、ホーカー社はハート、ハリケーンと来た後にタイフーン、テンペストを造って
あっさりルールを破ってるくせに、ハンター、ハリヤーとまたHに戻ってる。根性無し?
ついでにデ・ハビラントはモスキートだヴァンパイアだと、そんなルールはなかったかのごとく振る舞っております。
グロスターもグラディエーターのあとはミーティアだから、そんな厳密なルールでもなかったのかも。
で、スピットファイアの命名に話を戻すと、現在有力な説が、
前述したヴィッカース-アームストロング社側の開発責任者、ロバート マクリーンが独断でやった、というもの。
すなわち、彼は、自分の娘のわがままぶりに手を焼いており、
彼女を「チビのスピットファイア」と呼んでいたそうな。
でもって最初にミッチェルが設計した戦闘機、224型があまりにモノにならないのに腹を立てたマクリーンが、
(前述のように、並々ならぬ期待がされてたせいもあり)
「ミッチェルの機体はウチの娘並みに手を焼かせるぜ」ってな意味で機体を非公式に「スピットファイア」と命名。
で、以後、ミッチェルの設計した戦闘機には、その名がついてまわり、
300型が正式採用になったとき、もうそのままでいいじゃん、と彼が決めてしまったらしいのだ。
ついでに、ミッチェルの奥さんのフローレンスは彼より11歳も年上で、結婚時には幼児学校の校長を務めており,
地域ではちょとした「名士」の女性だったらしい。
まあ少なくとも、おしとやかで家庭的な女性ではなく、なんかここら辺も関係ありそうな…。
ちなみに、ロイスのとこでも書きましたが、このころのイギリスは技術見習い、みたいな制度があって(apprenticeship)、
その手の技術職につくと、給料がもらえるようになるまで、しばらくは無給だったようです。
で、ミッチェルが結婚したのは、研修期間が終わってようやく給料がもらえるようになったばかりの時で、
高給取りだったハイミス、フローレンスがミッチェルと結婚したのは地元ではちょっとしたミステリー扱いだったとか…。
話を戻しましょう(笑)。
ミッチェルが224型のあとに造ったのが300型でしたが、「ミッチェルの設計した機体」という意味を持ってしまった
「スピットファイア」の名が、そのまま引き継がれてしまったらしい、ということですな。
なんで、いわゆるスピットファイア、厳密には二代目で、本来はスピットファイア
II なのだ。
で、空軍が正式採用時に、ヴィッカース-アームストロングに対し「おみゃーさんらで好きに名前をつけるだなも」と言ったら、
責任者のマクリーンが二つ返事でこれにした、という話だ(例によって裏はとってない…)。
どうやら、誰もスピットファイアがイギリスを救う機体になるとは思ってなかったんだなあ、と思われる(涙)。
さすがにミッチェルはこの名を気に入ってなかったようで、後に妹の一人に
「実に馬鹿げた種類の名前だね(Bloody
silly sort of a
name)」とか言ってたそうな。
そりゃそうだ(笑)。
いずれにせよ、かなり自虐的ネーミングの感じはする。
イギリス人のこういう感性は、どうにも理解できないところだ…。
まあ、正しい意味ではそんないい名前でもないのだが、
そのまんまの意味で「火を吐く」といったニュアンスで受け取れば、
まあ、カッコ悪くもないからなあ、と思ったりもしなくもなく…。
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