最後はこれ。

展示の晴嵐はエンジンを下ろされてるのか、
それとも予備がもう一基あったのか、よくわかりませんが、
ウドヴァー・ハジーセンターには晴嵐のエンジン、
という解説板とともに、このアツタ 31型が展示されています。
エンジン全体が完全に無塗装で、
もうそんな作業すら出来なくなってた時期の製品なのでしょう。

アツタエンジンはDB601Aを単純にライセンス生産したアツタ21型、
それを日本で独自に、というよりもダイムラー社に無断で勝手に(笑)
改良した32型が知られてますが、31型というのがあったのか、
それともスミソニアンの確認ミスなのか、ちょっとわかりません。

現地で見た31型の解説によると、12気筒、33.9L、1400HP/2800rpm、
そして重量は715kgとのことでしたから、ほぼアツタ32型と同じですね。

ちなみに日本独自の改良といっても、ドイツ本国のDB605のように
排気量アップという本格的な改良をやったわけではなく、
一体全体、何をやったのか実はよくわかりません(笑)。

排気量アップができない場合、エンジンの馬力向上で考えられるのは
シリンダ内のブースト圧の向上ですが、
これはエンジンを破壊するノッキング発生に直結します。
そしてノッキング防止の高オクタンガソリンの配備は日本だけでなく、
枢軸国全体の泣き所で、これは終戦まで満足に生産されてません。
よって、日本の場合、単純なブースト圧のアップ、という手段は使えないのです。

ここら辺り、ブースト圧アップではなく、排気量増量に走った
ドイツのDB605、単純なブースト圧アップでひたすら馬力を上げてしまった
イギリスのマーリンが、それぞれの国のガソリン事情をよく現してます。

ただしノッキング防止には噴霧化された燃料を冷却する水メタノール噴射、
という奥の手があるので、日本の場合、それでブースト圧を上げていたようです。
これは余計な装置と冷却液が必要になり、
重量増、整備性の悪化に直結する解決策なんですけども。



ドイツのDB601と同じ倒立型V12エンジンですから、
下にシリンダーヘッドがあり、楕円形の排気口も
エンジン下部に片側6個あるのが見えてます。
逆に上部に乗ってるでかい箱部がクランクケースです。

排気口の上のプラグに繋がった電線をたどってゆくと、
最後は右上の箱に繋がってますが、これが配電装置。
で、オリジナルのDB601だとその下に発電機があるんですが、どうもその左、
黒い筒状のが発電機のようで、こういった配置は変わってるみたいです。
ちなみにDB601だと、ここに機首の機銃のプロペラ同調用装置があります。
(Me-109用の場合)

そして右端の黒いファンのような部分が、これもドイツでお馴染み、
エンジンの横に付けられた過給器となります。
ここから空気を取り込む必要があるので、枢軸国の液冷エンジン機は
機首の横に煙突のような吸気口が飛び出してるわけです。

ちなみに潜水艦浮上後、急速に発進する必要があった晴嵐は、
エンジンの運用も特殊でした。
時間がかかるエンジン暖気を不要とするため、艦の格納筒左舷に、
暖めた状態の潤滑油とラジエター冷却液が供給される
2本のパイプがあり、これを流し込むことで、
暖気無しでの発進を可能にしていたのだとか。

いや、そんな単純なものではないのでは?
という疑問と、という事は発艦準備に入るまで、
潤滑油と冷却液はエンジンから抜かれていたの?
という疑問が残りますが、そこら辺りはよくわかりませぬ。

といった感じで、晴嵐の手持ちの写真はオシマイです。


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