■人類の英知のカタマリなのだ
最初は正面法方向の上側から。
たった一枚のこの写真に対して書きたい事が山ほどある、
というのがシャトル軌道船のスゴイところでしょうね(笑)。
主な注目点は二つで、まず黒くなってる耐熱部分。
もう一つは主翼から胴体前部横にスッと伸びてる
翼最先端部(Leading
edge)で、これは一種の
LERX(Leading-edge root
extension)になってます。
乱暴に言ってしまえば、シャトル軌道船は
F/A-18やF-16と似たような主翼構造を持ってるのです。
今回はその内、黒い耐熱部分と例の衝撃波背後熱の関係を少し書いて置きます。
まず、機体の黒い部分から見て行きましょう。
この部分が例の衝撃波背後熱の高温に集中的にさらされる部分で、
機体下面も全て黒い耐熱タイルで覆われてます。
機体下面の耐熱タイル。一枚一枚、形が違ってるものが多いのにも注意。
これについては、また後で少し解説します。
なんで下面だけ耐熱タイル?というと、シャトル軌道船は機首を下に向けて
急降下爆撃機のように大気圏に突っ込んで来るのではなく、
旅客機の離着陸のように機首をやや上に向けて
大気圏に突入してくるためです。
ちなみに、この角度も微妙で、急降下爆撃のように突っ込むと
重力の加速によって高速になりすぎ、衝撃波背後熱がより高温となって
機体は地上に到達する前に燃え尽きるか、少なくともバラバラになります。
逆に角度が浅いと、機体下で発生した高圧衝撃波による揚力で
機体が持ち上げられ再度宇宙空間に弾き飛ばされてしまいます。
(通常の航空機の主翼のように上面が低圧になるのではなく機体下面が高圧になって浮く。
超音速衝撃波に乗って飛ぶウェーブ・ライダー機と同じ原理)
この結果、浅い迎え角を取って、腹を見せながら大気圏に突入するため、
機体下面がより強力な超音速流にさらされる事になるのです。
よって機体下面が上面より高温高圧な衝撃波背後熱にさらされる事になります。
ただし前回、説明したように進行方向の最先端部が
もっとも強烈な超音速流にさらされ、もっとも高温になりますから、
機体下面が最高温度になる、というわけではありませぬ。
当然、機首部の鼻っ面が最も高温になります。
大気圏突入直後だと機体は時速27000qを超えており、
これすなわち機体を直撃する超音速気流の速度ですから、
まあ、想像を絶するすさまじさです。
(そこから後ろは先端部で生じた衝撃波の壁によって気流速度が落ちる)
先にも述べたように、この先端部分の衝撃波背後熱は
軽く1500度(ほぼ鋼(炭素入の鉄)の融点温度。つまり溶鉱炉の内部温度だ)
を超えてくるため、通常の耐熱タイルでは持ちこたえらず、
ここには別素材による炭素(カーボン)製耐熱材料が使われているのです。
ちなみにこういった複数の耐熱素材全てをひっくるめて
NASAではTPSと読んでますが、これはThermal
Protection System
すなわち耐熱装置の頭文字をとっただけのもので、
例によってそのまんまですね(笑)。
機首先端部だけ、耐熱タイルではない一体成型の
別素材によるノーズキャップがはめ込まれてるのが判るでしょうか。
実は奥に見えてる主翼前縁部も同じ素材です。
なんで主翼前縁も?というのはまた後で。
ついでに、コクピットの正面の一部だけが、耐熱タイルとなってるのも注目。
この点については後で推測します。
ここで、あ、わかったレーダー波の発振受信のため、
先端部はプラスチックのノーズキャップになってるんだネ!
と考えたあなたは、地球の常識に縛られた人であり、
アンドロ梅田や猿人ゴリが元気に闊歩する宇宙でそんな常識通じないのじゃ、
というのを知る必要がありますです(笑)。
あくまでこれは耐熱装備として別素材なのです。
ここは大気圏突入時の衝撃波背後熱が最も強烈になる部分なので、
RRC、すなわちReinforced
Carbon-Carbon、直訳すると強化炭素炭素という
頭がいいんだか悪いんだかよくわからん素材で造られてます。
なので見た目はなんだかゴムのような弾力性のある部品に見えますが、
実際はかなりの硬度を持つ炭素素材による耐熱パーツとなってます。
グラファイト含有レーヨン繊維を積層し、フェノール樹脂を塗って窯で焼くと、
これが炭素(Carbon)化して熱に強い素材になるそうですが、
正直私にはさっぱりわかりません。
とにかくベラボ―に熱に強い素材、という事にしておきます(手抜き)。
でもってこちらがデルタ翼前縁部のRCC製部品。
さすがに一体成型は無理で、いくつかの部位に分けて製造され、
嵌め込まれてるのがわかると思います。
で、このもっとも熱耐性が高い素材が、真っ先に極超音速気流にぶつかる
機体先端部にあるのは判るが、なぜ主翼の前面にも?
という点を知るには超音速飛行における衝撃波の壁の形状を知る必要があります。
…ええ、脱線ですよ、また(笑)。
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