■最後の脱線
さて、今回からウドヴァー・ハジーセンターで展示中の軌道船、
ディスカヴァリー号を紹介して行く予定だったのですが、
ちょっとその前にいろいろ書いておきたいことが出て来たので、脱線回とします(笑)。
■Photo :
NASA
ケネディ宇宙センターからウドヴァーハジーへの搬入のため、
例の747SCAの背中に積まれたディスカヴァリーの写真。
軌道船もかなりの大きさがあるのですが、さすがに747に比べると小さく見えます。
ここからアップにしないで、引いた構図で撮影する、というのがNASAの公式写真のセンスで、
ホントにいつもながら見事だなあ、と思います。
ちなみに右に見えてる影は、シャトルを747SCAに載せる装置、MDD(mate-demate
device)のもの。
これについてはまた後で。
シャトルの軌道船は、前にも書いたように、人類史上初、
そして現在まで唯一の有人実用超音速滑空機です。
ちなみに通常の無道力滑空機、グライダーは少しでも長く飛ぶため、
主翼の抵抗値を下げられるアスペクト比(主翼の翼幅と翼弦長の比)の高い
細い主翼が特徴なのですが、シャトルの軌道船の場合ご覧のように、
そんなの知るかとばかりに、アスペクト比が極めて高い、横幅が狭いデルタ翼になってます。
まあ超音速飛行機なので、当然と言えば当然なんですが。
この点は長距離を音速以下で自分の動力で飛行するため、
可能な限り抵抗を抑える必要があり、その結果、
アスペクト比が高い747の長い主翼と比べると、その差がよくわかる写真です。
ちなみにこの辺りに必須の知識、
超音速と造波抵抗については、こちらの記事で、デルタ翼についてはこちらの記事で
それぞれ以前に説明したので、興味のある人は読んどいてください。
さらに言うならシャトル軌道船の主翼は一種のダブルデルタ、
というかLERXを搭載してるんですが、この点はまた後で。
ちなみに飛行距離だと、シャトルの軌道船も太平洋上で大気圏に突入後、
アメリカ大陸を横断しつつ大西洋岸のケネディスペースセンターまで
約5000q近く飛ぶので、実は普通の旅客機並みに長距離を飛行してます。
超音速で、地球重力だけを動力に、この短い主翼で5000q近く滑空して飛んでくる、
という航空機としては極めて興味深いものだったりもするのです。
逆に言えば、地球引力の力はヘタなロケットエンジンが束になってもかなわないほど
強力なエンジンとなるわけですが、まあ、いろんな意味でメチャクチャですね(笑)。
ちなみに着陸直前まで超音速で滑空してくるため、
フロリダのケネディスペースセンターに着陸する場合、
横断飛行下にあるアメリカ本土の各地は地上でその衝撃波を受ける事になります。
(機体から発生する衝撃波についてはまた後で説明します)
特に高度が落ちてる中西部以降は強力な衝撃波を食らい、
その衝撃波振動によって自動車の盗難防止装置が作動して駐車場がエライ事になってる
動画とかがネット上で見られますね。
ついでに、ルート下に居る犬にとっては、雷並みの恐怖だったようで(笑)、
ドーン、ドーンと必ず二発くるシャトル軌道船の衝撃波に、
こちらもパニックになるワンちゃんたちの動画が多くあります。
ここら辺りを実感するには夏場の花火の打ち上げを近距離で見ると、
全身にぶつかるようなドーン、という衝撃波がきますから、あれに近いと思えば間違いないです。
自衛隊の総火演に行くと、より近いものが体験できますが(笑)。
本来は人口密集地を避けて飛んでたはずですが、30年以上運用してるうちに、
あちこちで宅地が開発されてしまい、
もはや一部の被害は目をつぶれ、という感じになったんでしょうかね、この辺り。
ちなみにカリフォルニアのエドワーズ空軍基地に着陸するときは、
比較的海から近いし周囲は砂漠、さらにここに到達するまでに十分減速されてるため、
さしたる被害はなかったようです。
ついでながら日本の地震研究班がカリフォルニアで地震を観測中、
謎の振動を観測、これの正体がわからず悩んでいたところ、
後にシャトル軌道船の衝撃波だとわかって納得した、という話を聞いたことがありますが、
これはケネディスペースセンターに行くコースの機体でしょう。
通常、サンフランシスコの北側あたりからアメリカ大陸に入るはずですので。
■Photo :
NASA
せっかくなのでMMD(Mate-demate Device)の写真も。
Mate-demate
Deviceは直訳すると組み合わせと引き離し装置、という所。
なぜかNASA職員が車の中からガラス越しに撮影してるため、色がちょっと変な写真ですが…。
ちなみに、これまで紹介した写真ではよく見えてなかった747の水平尾翼の端に追加された
垂直安定板も見といてください。
この巨大な鉄骨の塊がシャトル軌道船を747SCAの載せるMDD装置で、
まずシャトル軌道船をこの下に入れてクレーンで釣り上げ、
その後から747が下に入ってその上に軌道船を固定します。
ちなみに747SCAは右に見えてる牽引車で出し入れされてます。
降ろすときは、まず両者の接続を解除して軌道船を持ち上げ、
747SCAが後退して抜けたあと、軌道船を下に降ろす段取りですが、
荷台に乗せるのか、脚を出して自分で着地するのかは確認できず。
ケネディ宇宙センターのほか、西海岸の着陸地点である
カリフォルニアのエドワーズ空軍基地内にある
ドライデン航空研究所にも同じ装置があります。
で、こうしてみると、例の一回だけのホワイトサンズ基地着陸の時は、
どうやって上に載せたんだろう、という疑問が再度出てきますね…
ついでながら、シャトルを運搬する747SCAは2機あります。
1機目は初期のエンタープライズの飛行試験時から
運用されていたNASA-905号機(N905NA)。
これは1974年にアメリカン航空が導入した747-123をその後間もなくNASAが買い取り
改造した機体で、、1977年からのエンタープライズのテストで運用されました。
以前紹介した写真に写ってた747SCAがそれです。
シャトル運用中、87回の運搬飛行があったのですが、そのうち70回はこの機体なので、
SCA主力機、といっていい機体でしょうね。
ちなみに、この写真の機体はこちらで、最後に引退した軌道船をアメリカ各地に
運搬する飛行を行ったのもこの機体です。
もう一機はNASA-911号機(N911NA)で、こちらは747-100SR-46からの改造で、
1973年に完成後、日航、すなわち現在のJALの機体で使われてた機体です。
なので、後から導入されたものの、機体年齢はこちらの方が古くなってます。
911号機はシャトルの本格運用が始まった後、というかチャレンジャー事故の後、
1990年から運用が始まってまり、17回の運搬飛行に使用されました。
ちなみに両機ともシャトルと一緒に引退済みで(なにせ両者機齢40年を超えてる)、
2016年現在、905号機はケネディスペースセンターで、
911号機はシャトル製造の地、ロサンジェルス北部のカリフォルニア州パ-ムデオ(Palmdale)にある
ジョー・デーヴィス航空史公園(Joe
Davies Heritage Airpark)にてそれぞれ展示中です。
■Photo : NASA
ついでながらディスカヴァリーがダレス国際空港に到着した時の写真も。
ちなみに飛行中はシャトル軌道船の主翼からも揚力が出てるので、
これは一種の複葉機とも言えます(笑)。
実際、両者の揚力中心が一致するような位置で機体は固定されてますし、
さらにやや迎え角をもって軌道船は設置されており、
おそらくより軌道船の主翼で揚力を稼ぐための構造じゃないでしょうか、これ。
ついでに先にも書いたように軌道船の主翼にはLERXがあるので、
離着離陸時に迎え角を取った時の揚力は結構大きなものになっており、
離着陸時は747単体の時より、
機体を持ち上げる力はかなり強くなってると思われます。
ちなみに下に見えてるいかにも空港の管制塔みたいな建物が、世界最大級の航空博物館、
スミソニアンの別館であるウドヴァー・ハジーセンターで、
あの管制塔もどきも、博物館の展示施設の一部です。
ほとんどダレス空港の敷地内、といっていい場所にあるんですよ、これ。
ちなみに展示面積ならおそらくアメリカ空軍博物館の方が広いですが、
あちらは軍用機だけなので、私が見て来た範囲では、
ここが世界最大級の航空博物館だと思います。
でもって、こちらが本物のダレス国際空港の管制塔たち(笑)。
首都ワシントンDCの表玄関というべき空港です。
こうした日常の空港にシャトルがあるって風景は、なんともシュールですねえ…。
ちょっと脱線。
奥の管制塔の下に注目で、左下に巨大なバスのようなものが2台見えてるの、わかるでしょうか。
これはダレス名物搭乗用車両、モバイル ラウンジで、2010年までここで運用されてもの。
この写真の撮影は2012年ですから、廃止から2年経っても、一部はまだ残ってたんですね。
これはあの背の高い車に乗って、そのまま機体に横付けされる、というスゴイ機材でした。
私は一度だけ利用したのですが、こんな感じのシロモノでした。
スターウォーズに出てくる兵器みたいだと思った記憶があり。
機体の高さに固定されたバスのような車両に搭乗ロビーから乗り込み、
このまま機体まで運ばれます。
なんかスゴイ気もしますが、一台に100人前後しか乗れないので、
747とかだと複数台が何往復もするはめになり、頭がいいのか悪いのか、微妙だなあ、と思ってました。
廃止になってしまった、という事はやはりあまり効率よく無かったんでしょうかね…
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