■人類は宇宙へ迷走する

ちなみに宇宙往還機、頻繁に地球と宇宙を行き来する宇宙船の構想は、
我々が知ってるようなスペースシャトルの完成に至るまで、
実にさまざまなアイデアが存在してました。
ここではウドヴァー・ハジーセンターで展示されてる模型で、少しだけ
その辺りも見て置きましょう。



こちらはF-111時代のゼネラル・ダイナミクス社が当初、空軍の要請に従って
提案した宇宙往還機トゥリミーズ(Triamese)で、後にNASAの
スペース・シャトル計画に対しても再提案されたらしきもの。
ちなみにNASAは各メーカーに対し最初に政府からの提言があった1969年の段階から、
各種提案を求めてましたから、やはりかなり早い段階から計画は動いてたようです。

いわゆる合体型往還機で、奥に見えてるのが発射状態。
真ん中に軌道船を挟んで左右に同じような形状のブースターロケットが取り付けられてます。

ちなみに軌道船だけでなく、ブースターロケット部も有人機になっており、切り離し後は、
手前のように折りたたんだ主翼を広げて着陸する事になります。
F-111時代の同社らしい、一種の可変翼ですが、
実際、可変翼にする気だったんじゃないでしょうか。
ついでに宇宙戦艦ヤマトを思い出してしまったのは私だけ?

軌道船も同じような構造、というかほぼ同じもので、こちらは2機のブースターを切り離した後、
宇宙まで飛び出してから、再度大気圏に突入し、同じように主翼を開いて帰還します。
ちなみに機首部に付いてるサイレンみたいなものは恐らくラムジェット、
あるいは小型のタービンジェットエンジンで、大気圏内での飛行用に使うものです。
よく見ると機首部にこれを収容するためのフタらしきものも見えてます。



画面左端の黒い機体はNASAのスペース・シャトル計画に対してマーティン・マリエッタ社が提案した、
SPACE MASTERなる機体。
宇宙の親方?と思ったんですが、これは親機を意味するマスターでしょうかね。

ちょっと判りににくいですが、P-38の胴体のような相胴の運搬機、
ブースターロケット機の下に軌道船をぶら下げてあり、
一定高度に達した後、軌道船を切り離して発射します。
ちなみに軌道船はこの切り離し段階の高度に至るまでロケットを使用しないため、
その消費燃料はやや抑えられ、小型化が可能、という事になるようです。
ちなみにこれもブースターロケット部は有人操縦で、
軌道船発射後は、普通に飛行しながら地上に帰還します。

ついでにこれも収容式の小型ジェットエンジンを積んでおり、
それで大気圏内を飛行するつもりでした。
実はソ連版スペースシャトル ブランも大気圏内飛行用のエンジン(ロケットらしいが)
を持っており、むしろなんら動力を持たないスペースシャトルが
よほど勇気ある設計だったんでしょうかね。

ちなみに2004年に初めて民間企業として、
有人機を宇宙空間まで打ち上げたスペースシップ1が、
この機体構成のアイデアを拝借してますが、あちらの運搬機はロケットではなく、
普通の航空機なのがちょっと違う所。

お次の画面中央の白い機体は、イギリスのブリティッシュ エアクラフト社が1962年ごろ、
独自に発表した模型だと思われるもの。
スミソニアンによると、どっから寄贈されたかよくわからん模型だそうですが(笑)、
まあこんなもの造るのは、本人たちくらいでしょうからね…。

二つの浮揚式胴体(Lifting body)機がくっついてるように見えますが、
実際はもう一機奥にいて、三角形に3つの機体がまとめられてる形態です。
これも合体型の宇宙往還機の一つですね。

三つとも同じ形状なんですが、3つの内2つはブースターロケットで、
1機だけが軌道船になっています。
ブースターの2機は燃焼終了後、自動操縦、あるいは有人操縦のグライダーとして地上に帰還、
軌道船も飛行終了後は浮揚式胴体機として帰還する、というもの。

なんでみんな同じ形で、こんな構造で合体させてるんかよく判りませんが、
まあ、何かメリットはあったんでしょうね。
といあえず、会社側の主張によると、極めて安価に打ち上げが可能
という話だったようですが…。
ちなみに一番上に見えてるのが燃料タンクかと持ったんですが、
これは単に結束用の冠で、燃料は各機体内に入れるつもりだったようです。

ちなみにこの機体の名はMUSTARD 、すなわち辛子。
なんだそりゃ、という感じですが、
多体式宇宙交通回収装置(Multi-Unit Space Transport and Recovery Device)
の略なんだそうな。…いや、なんじゃそりゃ(笑)。まあ、ダジャレでしょう。
聖書のマタイ伝に辛子のタネは小さな存在から大きく育つものの比喩として使われてるので、
その辺りが元ネタの命名でしょうか…。

ちなみにマスタード案はいくつかあって、上で見たトゥリミーズのように、
単純に3段重ねとするものもあったようですが、
それって垂直尾翼をどうする気だったんでしょうね…。

右端のやや大き目な模型はこれもスペース・シャトル計画に対して提案されたもので、
後に実際の機動船を受注する事になるノースアメリカン・ロックウェル社のもの。
(1967年に経営不振からこの2社は合弁していた)
大型のブースターロケットにも主翼と尾翼がある事からわかるように、
一定高度に達して軌道船を切り離した後は、これも有人操縦で地上に帰ってくる設計です。
主翼の上の四角い箱はその時の飛行で使うジェットエンジンだそうな。

しかしこれも直線翼なんですが、大丈夫なのかいな。
音速突破はロケットエンジンで垂直飛行中だからいいとしても、
地球に戻ってくる時に音速以下の速度に減速した段階では
揚力で飛行してるわけで、直線翼でその速度域を飛ぶのは
普通、無理だと思うんですけど…。
ついでに、超音速飛行時と通常飛行時の揚力中心の移動にも
全く対応できないはずで、この辺り、なんで直線翼が
こんなに好まれていたのか、よくわかりませぬ…。



左側の模型はマグダネル・ダグラス社とマーティン・マリエッタ社が共同で提案したシャトル案で、
これも有人ロケットブースターの上に軌道船を乗っけて打ち上げる、とうタイプのもの。
ただしこれはもう一工夫があって、大型の人工衛星や宇宙ステーションを打ち上げるための
専用貨物宇宙船があり、それが手前の1920年代のSF小説に出てくるロケットような機体。
これを軌道船の代わりにブースターの上に載せ、発射する、というもので、
相当大型の貨物を宇宙に持ち出せるのと引き換えに、使い捨てとなったようです。

右側のはこれも後に実際に軌道船を受注するノースアメリカン・ロックウェル社の案で、
有人操縦式のロケットブースターの頭に軌道船を乗っけるタイプのもの。
だたしちょっと新しいのは、軌道船用の燃料を、外付けのタンクにして切り離し、
使用後は捨ててしまう、という実際のスペースシャトルにおいてキモとなった
設計が取り入れらているところ。
軌道船の下、有人ロケットブースターの頭の上に載ってるのがそれです。

宇宙ロケットにおいて、最大の重量物が燃料であり、
サターンロケットなんて、あの巨大な図体の大半が燃料タンクで占められてます。
なので燃料タンクを別にして使い終わったら捨ててしまう、という画期的なアイデアにより、
スペースシャトルは機体内からそれを取り除くことができ、
これによって大きな貨物収納空間を確保することができるようになるのです。

ただし、この燃料タンクの大きさも当初はいろいろ変わっており、
最初はこのように小型なものだったのが、最終的にどうせならもっと大型にして、
機体内タンクをほぼ空にしてしまえ、という事になって行きます。
ちなみに、軌道船の左右の主翼上に二つに分けたタンクを載せる、
というどこのイギリス戦闘機だ、というデザインも一時は検討されてました。



左の中国のオモチャメーカーが適当に作ったスペースシャトルのようなもの、は
これまたマグダネル・ダグラス社とマーティン・マリエッタ社が共同で提案したシャトル案 その2。
といっても、上で紹介した案とそんなに変わってない…というかほぼ同じものだと思いますが。

上に載ってるのが軌道船で、どことなく現在のシャトルに近いものがあります。
その下になったるのがブースターロケット部で、これも翼あり、コクピットありとなっており、
軌道船を切り離した後は、自力で飛行して戻って来ることになってました。

でもって燃料タンクは内臓式なので、両者の内部にそのための
巨大タンクがあるのが、見て取れる模型になってるわけです。

ちなみにこの軌道船も、計画では主翼内に収納式の小型のジェットエンジンを積む予定でした

ちなみに下のブースターロケットはいわゆカナード式、前尾翼式で、
機体後ろの後退翼が主翼です。
この変な設計は重心がよほど後ろにあったからか、と思われますが、
前尾翼は単純な直線翼ですから、これ、超音速飛行から減速した直後に、
機首部が失速しますよ、たぶん…

こうしてみると、ブースターロケットも有人操縦で帰還、というのは
意外に主流派の考え方だったんでしょうかね。

その右側に見えてる現代のスペース・シャトルに近いデザインは、
これも実際に軌道船の発注を受けたノースアメリカン・ロックウェル社の案です。
この会社、いったい幾つの提案してるんでしょうね…。

これは先に見たものの発展型で、燃料タンクをより大型化して外に出し、
このためブースターロケットは、その両脇につく無人のもの2本に変更されてます。
ほぼ最終的なスペースシャトルに近いものですが、
両脇のブースターロケットが液体燃料式なのが後のスペースシャトルと異なる点となってます。

といった感じで、約3年間にわたって、どうも一種の競作のような形で
各メーカーからさまざまな提案を受け、
NASA側の意見もいろいろ取り入れた結果、最終的に、
このノースアメリカン・ロックウェル社案が採用され、
同社がスペースシャトルの軌道船を受注することが決定します。

といった感じで、今回はここまで。


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