■早くも第一回脱線
が、ちょっとここで脱線。
まるで形の違うD型はともかく、なんだか似てる
A型とB/C型の見分け方についてちょっとだけ解説を。
両者の一番の識別点はプロペラの枚数で、3枚ならばA型、4枚ならB/C型です。
が、飛行中の写真などではほとんど確認できないので、
もう一つ、明確な識別点が機首先端にある、
エンジン用過給機空気取り入れ口の位置となります。
実際はA型とB/C型は胴体下のラジエターの形状もかなり違っていて、
機体にピッタリ張り付いてるのがA型、
少し浮いた位置にあるのがB/C型なんですが、この点は写真では隠れてる事が多く、
あまり識別のポイントにはならないかもしれませぬ。
ここではとりあえず、機首部の空気取り入れ口の違いを見て置きましょう。
まずはA型。
機首の上、プロペラ直後に空気取り入れ口がピョコンと飛び出してるのが見て取れます。
お次はB/C型。
機首の上に出っ張りは無く、逆に下側、プロペラスピナーの直後に
三日月を横にしたような小さい空気取り入れ口が付いてます。
この位置に空気取り入れ口を持ってきた、というのが
ムスタング設計陣のスマートなデザインセンスの一つです。
ここなら機体に余計な出っ張りを付けずに取り付けられ、
さらにプロペラ直後なので、空気が押し込められるように送り込まれるため、
十分な空気を取り込むことが可能です。
同じエンジンのスピットファイアがこれを大きく出っ張らせ
空気抵抗を増やしてるのに対し、キレイに処理してしると言っていいでしょう。
同じマーリン60系エンジンでも、スピットのMk.VII(7)以降の空気取り入れ口は、
写真のようにズガンと胴体下に飛び出していて、あまりスマートな処理になってません。
この機体は60型以降のマーリンを積んだスピットとしては最も量産されたMk.IX(9)ですが、
だいたい他のタイプもこんな感じでした。
これはマーリンエンジン後部にある空気取り入れ口の真下に
もっとも短いダクト距離で取り付けた結果なのですが、
もう一工夫があってもよかった気がしますね。
この胴体下にズキャーンと飛び出した取り入れ口は、上のムスタングB/C型と比べると、
見ただけでもかなり抵抗が大きそうだ、というのが想像ができます。
これは単に正面からの気流にぶつかって抵抗になるだけでなく、
機体から出っ張っている構造は渦の発生源になりやすく、
これが後ろに流れながら、機体を引っ張る(低圧部なので機体を吸い寄せる)
可能性が高く、やはりあまりいい設計ではないでしょう。
まあ、初飛行がそれぞれ1936年と1940年と、この時代では完全に一世代違う、
4年も隔たってますから、あまりスピットの設計を責められませんが…。
ちなみにエンジンが変っただけで、なんで空気取り入れ口位置に上下の違いができるの?
というとこれはアリソンのV1710型と、
マーリンエンジンのV1650型では過給機の吸気口取り付け方向が上下逆だからです。
(大出力エンジンへの空気は直接キャブレターに入るのではなく、
必ず過給機に一度取り込まれ、圧縮され(密度を上げ)てから燃料と混合する)
ちなみに過給機における2段、というのは空気をガーッと取り込んで圧縮する
羽根車が大小2個ついていて、2段階に渡って圧縮するタイプの事。
これが1段だと羽根車は1個しかなく、その分、
圧縮力(空気の密度を上げて高出力にする力)も落ちます。
日本の火星エンジンによる機械式過給機、ス―パーチャージャーの羽根車の例。
白い矢印の先がそれです。
日本のエンジンですから当然(涙)1段過給であり、羽根車は一つだけ。
2段式の場合、通常はこの手前にもう一つ小さな羽根車が付いて、
一度圧縮した後、後の羽根車に回してさらに圧縮をかけるわけです。
(エンジン取り込まれる空気は密度が高い、すなわち高圧なほど有利だし、
高高度で空気が薄い時、燃焼に必要な量の空気を集めるためにも有利だ)
ついでに2段2速の “2速” の意味は、羽根車の回転用ギアが2速に分かれてる、
という事で、その回転数に合わせて的確なギア比を選択する事で
(エンジンから動力を得て回ってるのでギアがある。自動切り替えになってるのが多いが)
より効率よく圧縮できるわけです。
なのでもっとも単純で原始的なのが1段1速過給機で、
最も高度で高性能なのが2段2速過給機となります。
ちなみに1段圧縮でもギアの2速化は可能なので、
1段2速エンジン、というのも存在します。
じゃあ全部2段2速にすりゃいいじゃん、と思いますが、単純に技術的に
到達できるのは2速までで、羽根車の段数を2段に上げようとすると、
その高温、高圧縮化された空気ゆえにシリンダー内で燃料が自然発火してしまい、
そこからノッキングが発生、最悪、エンジンを破壊します。
このため、2段式過給エンジンをキチンと運用するには高オクタン価の
100オクタンガソリンが必須条件となってきて、
この点で日本とドイツは大きく後れを取っていたわけです。
(ちなみにアメリカは100オクタン価以上の耐熱性を持つガソリンまで開発、
さらに圧縮率を上げまくってた。ただしオクタン価は100までしか存在しないので、
アメリカが勝手に決めた(笑)数字で耐熱性を示してる)
で、これがアリソンのV-1710シリーズ。
矢印1.の先、丸いケースが過給機が入ってる部分で単純な1段1速式ゆえに極めてコンパクト。
そこに空気を取り入れるダクトの取り付け口が2で、上から空気を取り入れてるのが判ります。
このため、A型の空気取り入れ口は上側に付いてるのです。
でもってこっちがパッカードマーリン V1650シリーズ。
シリンダヘッドにロールスロイスの文字が入ってますが、解説によると
パッカード製との事。まあ、どっちてもほぼ同じものですし。
1の過給機は2段式で羽根車が前後2基収められてるため
極めて大型で、複雑な構造になってるのに注目。
2がその過給機のための空気取り入れ口で、マーリンでは下向きに付いており、
これによってB型以降のムスタングの空気取り入れ口は下に移動するのです。
ちなみに3がマーリンエンジンにおける高性能のステキな秘密、
インタークーラー、液冷式の中間冷却器です。
高圧に圧縮された空気は、当然高温になってますが、
それは膨張していて、シリンダーに詰め込むには効率が悪い事を意味します。
よってこの中間冷却器で一度冷却すると、同じ体積でもより多くの空気が
詰め込むことができるわけで、これによってより高出力になるわけです。
といった感じで、今回はここまで。
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