■ロシアの評価

お次もRIAノーボスチが掲載した記事で、2022年8月11日に公開されたもの。ウクライナからの鹵獲兵器を評価した内容で、意外に正直な感想が多くて興味深いので紹介して置きます。9月のハルキウ電撃戦でケチョンケチョンにされるまでは、こういった記事が普通に公開されていたんですよねえ…

ちなみに記事のタイトルは「"こんな物は見たことない"。欧米からの鹵獲品がドンバスの兵士を驚かせた理由」となっており、ウクライナ側の兵器の優秀さに驚きながらも、あれはNATOの兵器だから、我々はウクライナ軍に劣ってるわけではないのだ、という妙な意地を感じるものになっています。また微妙な欠点を上げて大したことないよ、と述べてるのも目立ちます。逆に言えば、そこまで驚いた、という事でもあるでしょう。

●対戦車誘導ミサイル ジャベリン

ロシア製の同形式の兵器に比べて特に優れていない。ドンバス地区での戦闘ではその性能を発揮できないからだ。ジャベリンは目標に対して照準を付けるのに15秒かかる。こんなに長時間、戦車が動かずにいる事は無い。また携行型のため遠隔操作は不可能であり、操作者は常に発射地点に固定されてしまい、発見されやすい。
(筆者注・この指摘は極めて怪しいと思われます。まずジャベリンの照準に15秒かかるという情報を筆者は見た事が無いです。夜間モードの時は暗視装置の冷却に時間が掛かるので直ぐには使えませんが、それは照準とは別の話。そもそも最大4qの距離から撃ちっぱなしに出来る、すなわち撃ったら直ぐに逃げ出せるのだから反撃を受ける可能性はそこまで高くないでしょう。以前の記事で紹介したように、命中してもリアクティブアーマーがあれば必ずしも致命傷にならない、という肝心な点の指摘が無いのも疑問。ほとんど言いがかりみたいな評価だと思われます)


■Photo ARMY INFORM

有効な兵器ではあるが、その有効性には限度があり、必ずしも必殺兵器ではない、というのがジャベリンに関する正当な評価ではないか、と個人的には思っております。ちなみに発砲スチロールが付いてるのは恐らく暗視装置冷却の保温のためだと思うのですが確証は無し。ついでに兵士が覗いてる照準装置は発射筒から分離して再利用します。使い捨てなのは発射筒部分のみです。

●小銃類

AR-15を鹵獲して試したが驚くべきものでは無い(M-16の民生品というか米軍以外が使う場合の名称がAR-15)。確かに快適に使用できて人間工学的だが弾数が少ない。それに銃身は信頼性が低い。我々のカラシニコフはもっと信頼できる。
(筆者注・これもやや怪しい。実際、ウクライナ軍のベテランや特殊部隊の兵は配給で受け取ったカラシニコフを使わず、自腹でAR-15系の銃を購入して利用しているのが多く見られます。その方が生き残れるから、という記事も見ました。ついでにマガジンに入る弾数は同じはずで、何を言ってるのか良く判らず。標準ではないマガジンで比較してる?)

●スナイパーライフル

ウクライナ軍が使うバレットM82は極めて優秀なスナイパーライフルだ。精度が高く、射程距離も長い。さらに装甲車両の側面装甲を貫通することができる。


■Photo ARMY INFORM

アメリカ製の大口径12.7o狙撃銃、バレットM82。弾丸12.7o×99なので、あの傑作機関銃、ブローニングM2と同じ弾が使えます。その大口径を活かした長射程距離を誇り、さらに軽装甲ならぶち抜いてしまう威力を持つのです。内戦中の2017年ごろからウクライナ軍はその運用を開始していましたがロシア側は今回の戦争で初めて実物を見たようで、その高性能に素直に賛辞を送っています。おそらくケチの付けようが無かったんだろうな、と思う所なり(笑)。


●照準装置

ウクライナ側が使用する銃の照準装置は優秀だ。兵士が最も欲しがる鹵獲品として光学照準器(コリメーターサイト)がある。ロシア軍にはその装備が無く、個人で買うと10万ルーブル近くする。ただし現状、ドネツク人民共和国軍の多くの部隊はこの装備を持っている。
(筆者注・ドネツク人民共和国軍の部隊の装備が鹵獲によるのか自前によるのか不明。ついでに全ての兵士では無く、部隊に一つずつ、みたいな状態らしい)



ちなみに第二次大戦期の戦闘機が積んでいた光学照準器も一種の平行レンズ照準器(コリメーターサイト)と言えます。実際は筒形照準器のほうがより実態に近いのですが、ここでは写真もあるしで反射ガラスを使った照準器で簡単な説明を。

写真では手前のガラス板に投影された照準円環と、奥に見えてる飛行機、両方にピントが合ってるのに注目。対して円環が投影されているガラス板のピントはズレてぼやけてしまっています。すなわち手前のガラス板上の照準円環を見てるのに、同時に遠くにある目標もハッキリ視認出来ている、遠近両方に同時にピントがあっている、という不思議な状態なのです。これは平行レンズ(コリメーター)による投影により初めて可能になるもので、普通に肉眼で見ると手前の照準円環か遠くの目標のどちらはピントがぼやけ、キチンと重ねて合わせて見ながら照準を取る事はできません。ちなみに円環がキチンとガラス板の真ん中に見える状態で目標を捕らえれば、自動的に照準が合います(写真は撮影した筆者が馬鹿なのでちょっと上にずれてるが)。

このため銃口上と尾部の二点の照準を重ね、さらにその上に目標を持って来る…という面倒な照準作業は不要となり、さらにより正確に狙いを付けられるのです。ただしどういった原理でそれが可能なのか、の説明は結構面倒なので、今回はパスで(手抜き)…。
ちなみに最新の小銃用コリメーターサイトの場合、航空機のHUDのように、もうちょっと色んな情報が投影されるようですが、そっちはよく知らんので触れずに置きます。

●戦車の装備

ウクライナ軍の主力戦車、T-64は旧式だがその電子装備は最新式だった。特に西側の赤外線カメラにより夜間、最大5キロの距離で目標を見ることができる。我が軍の装置は2qが限度だ。さらにカメラが周辺360度の視界を確保している。

●装甲車の装備

ウクライナ側の装甲車両、BTR-4を鹵獲し中に入ったがまるで宇宙船のようだと思った。正直、我々の装備と違い過ぎて鹵獲品を見ても素直に喜べなかった。特に魅力的なのは、30ミリ砲を搭載した車上の遠隔操作砲塔だ。オペレーターが安全な車内からタブレットで操作する。便利で効果的だ。最大2キロの射程で、軽装甲車や歩兵に対して非常に危険な武器となる。

●救急箱

兵士が持つ救急箱の充実も印象的だった。NATO式と普通のゴムバンドの2種類の止血帯。さらに消毒薬や麻酔薬、暗闇で光るネオン棒、傷ついた手足から衣服を切り取るための特殊なハサミ。我が軍の動員兵には、せいぜいゴム製の止血帯と包帯が渡される程度だ。私たちは追いつかなければならない立場ある。

●負け惜しみ

ここまで書いて、記事のバランスを取らねばならぬと記者が考えたのか、最後は負け惜しみで終わっています。以下、引用。

「確かに多くの点で、ウクライナ軍は我々より武装も装備も優れています」と、兵は言う。「 しかし戦意もまた大きな役割を果たすのです。ロシアからここに来た兵がどう感じているのかは不明です。しかし、私たち(ドネツク人民共和国軍)は自分たちの土地にいるのだから、完全に戦う気力に満ちている」。

「アメリカ製のM777榴弾砲やHIMARS MLRSは非常に手ごわい兵器です。M777は射程距離の点で我が軍の全ての対抗馬を凌駕しています。そしてHIMARSは弾薬庫や司令部、歩兵部隊など後方の標的を攻撃することができます。しかし、今のウクライナ軍にはこのような部隊はあまり数がないのです」


すでに2022年8月の段階で、ロシア側はここまで認識していたのだ、という点を確認して、今回はここまで。ちなみに個人的には太平洋戦争の時の日本軍を思い出しています。

https://ria.ru/20220811/trofei-1808621644.html


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