■ドローン戦争
すでに何度か書いてるように、この戦争はドローン戦争です。特に観測から目標の照準までは従来の戦争とは全く異なる世界が形成されつつあると思っていいでしょう。
OODAループ理論が指摘するように人間の行動は必ず観測、観察から始まります。日常生活ですら目をつぶったまま何の情報も無しに歩き始めたら確実に事故りますが、戦争なら確実に死にます。その観察段階の大革命となったのが小型の無人機、ドローンなワケです。ロシア側も開戦直後から利用していた事はウクライナ側の証言から確かですが、大型の有翼無線操縦機が主であり、さらに目視での観測、確認だけだったと推測されます。
対してウクライナ側は2014年に始まる内戦中から四軸プロペラの小型ドローンを活用、発見した敵の位置座標データを後方の砲兵部隊(戦車を含む)へ伝達すると同時に照準計算まで自動でやってしまう環境を開発していました。すなわち発見と同時に照準は終わっており、後は指示された通りに座標を揃えて撃てば当たるのです。まさに見敵必殺状態で、相手は砲撃準備中にウクライナ側火砲による全力投射を受けることになります。これがウクライナ軍が今回の戦争を優位に進める大きな原動力になった事は、いくつかの証言からほぼ確かでしょう。
この辺りも含めて今回は、ウクライナ側から出て来た「ドローン戦争」の証言を見て行きましょう。
■Photo ARMY
INFORM
ウクライナ軍のドローン操縦者訓練風景。手に持っているのは後で見るように中国製の民生用ドローン。これを改造して飛行時間を伸ばし、さらに写真に見えるような手榴弾投下装置まで取りつけています。もっと大型のドローンも投入されていますが、主力はこういった小型の四軸プロペラの機体となっています。このような安価な(と言っても日本円で30万円前後だが)民生用のドローンが活用されているのも今回の戦争における特徴です。こういった民生品の活用はタブレットPCやスマホにまで及ぶのです。これも今回の戦争の特徴でしょう。
■初期のドローン運用部隊インタビュー
開戦から約三カ月、2022年5月に公開されたドローン部隊の兵士に対するインタビュー。 最後までロシア側の占領を許さなかった南部の都市、ムィコラーイウ(Миколаїв)ではウクライナ側の砲兵が敵のロケット砲を粉砕したことが大きな勝因になったとされ、その戦闘に参加していた砲兵部隊へのインタビューの中でドローン部隊が登場するのです。筆者はこれで初めてウクライナ側がドローンを使って長距離砲撃の誘導を行っている事を知りました。
ただしこの段階ではウクライナ側もあまり情報を出しておらず、てっきり20q以上の距離でバカスカ撃ち合う戦艦時代の着弾観測機のような任務だろうと思っていたのですが、その後、徐々に公開される情報からそんな生ぬるいモノでは無い事を知ることに。よって以後、どんどん情報が追加されてしまうのですが最初に出て来た情報として、このインタビューの内容はそのまま、まとめておきます。
〇砲兵の攻撃力は強力だが敵に反撃を許す時間を与えず素早く目標を破壊する必要がある。反撃されたらこちらの被害も大きいからだ。そのためには速くて正確な照準が必須であり、それにはドローンによる航空偵察が重要となってくる。
〇このため砲兵部隊(筆者注・長距離榴弾砲、ロケット砲、大口径迫撃砲など)にはドローン部隊が付き添っている
〇敵に見つからないように素早くドローンを飛ばし、砲兵に敵の位置情報を送り照準の調整を補助する
(筆者注・実は自動的に照準に必要な数値まで計算されてしまうのだが、この段階では公表されて無かった)
〇ドローン部隊は目視による偵察よりもずっと後方で活動するが、それでも前線近くまでは進出する必要がある
〇任務が終わったら素早く離脱する。実際、敵は的確に操縦者の居た位置に砲撃して来る
〇敵はドローンオペレーターを最優先で殺しに来るので危険性は高い。よってドローン操縦者には必ず警護の歩兵が付く
〇迅速な行動と砲兵との連携が重要である
〇利用されてるのは四軸プロペラの空中静止可能な小型ドローン(筆者注・上の写真のような機体)有翼の大型機では無い
〇砲撃では一門あたり100〜115発撃ち込む事がある
〇正確な砲撃はできないが、大量のロケット弾を一度に打ち込める多連装ロケットで攻撃する事もある
〇その場合、最初に一発だけロケットを撃ちこんで、ドローンで着弾位置を観測、諸元修正後に一斉射撃
〇攻撃後の成果確認もドローンが行っている
恐らく最も初期にウクライナが単なる偵察では無く、砲撃の照準にドローンを活用している、という報道だったと思います。そして以後、情報が次々と明るみになると「射撃のための情報を提供」どころではなく、ドローンが目標を発見すると照準まで自動で行ってしまう恐るべき戦闘用ソフトウェアをウクライナは内戦中から既に運用していたことが判明、筆者は驚愕する事になるわけです。
https://www.youtube.com/watch?v=0vOFpNW68yE
■その他のドローン関連情報
開戦から約半年後、2022年9月1日に公開された、偵察ドローン部隊の兵士へのインタビュー動画。
〇ドローン偵察部隊は24時間活動する。一日に16時間は飛ばしている
〇昼間の偵察活動の9割はドローンに依存してる
〇夜間は敵部隊が観測された地区のパトロールに飛ぶ
〇赤外線暗視装置によって夜間でも視界は良い
〇偵察時には、発見した敵の位置を記録して行く
〇偵察を行う戦線は極めて広く、運用時間も長いので故障も多い。よってドローンはいくらでも必要だ
〇ドローンの数が十分に揃っている場合、砲撃の有効性は急激に増加する
〇ドローンの援護なき砲撃は敵に恐怖を与えても有効打には成りにくい
既に偵察と砲撃戦において、ドローンなき戦闘は考えられぬ、という話になって来ています。赤外線暗視装置で夜間の飛行も出来る、という話が出て来たのもこの辺りからでした。開戦から約半年、夏の終わりごろにはもはやドローン無き戦闘はできぬ、という話が次々と出て来ていたように思いますが、実際は既に開戦直後から既にそういった状況だったと推測しています。
https://www.youtube.com/watch?v=ghPC7Z-bfP4
お次は2022年の夏以降にロシアが攻勢を仕掛け、以後、開戦から一年目の現在まで激戦が続くドンバス地区の拠点、バフムート(Бахмут/ロシア側の呼称はАртемовск/アルチェモフスク。ドネツク市の北東、セベロドネツク南西部にある)からのドローン運用レポート。2022年10月に発表された記事です。今回は記者の報告書という体裁なので、ドローンに関する部分を抜粋して置きます。
「前線でのドローンは目であり同時に武器でもあり、防衛に不可欠な要素だ。報告を受けてから数分後、ドローンはロシア軍の陣地の上を飛び、対戦車誘導弾が配備されているのを確認する。操縦者はドローンを基地に呼び戻し、手榴弾を取り付けて再度送り出す」
「戦果はドローンから映像で記録され確認される。対戦車ミサイルは破壊された」
「ドローンを使って、敵の位置、砲や車両の動きを確認する。それを基に砲兵が照準を調整する。効果的にドローン操縦者はアメリカ製M777榴弾砲の着弾修正を行う事が出来る。この155mm口径砲を使った高精度な照準射撃により、ロシア軍の襲撃は失敗に終わった」
https://www.radiosvoboda.org/a/bakhmut-donechchyna/32096080.html
■Photo ARMY
INFORM
今回の戦争で明らかになったドローンによる重要な任務の一つが無防備な上空から手榴弾を落として敵を攻撃する事でしょう。ただし現状は無誘導の自由落下なので、風などの影響で着弾は運任せ、という部分もあり。せめて小さい竹トンボのような尾翼を付け回転させ、ジャイロ効果を利用して直進性を確保しては、と思うんですが、そういった工夫は現状、確認できません。それでも公開されている動画を見る限り、塹壕やタコ壺を掘って砲撃による破壊を避けている敵に対し、真上から直撃弾を与えて殺傷する、という兵士にとっては恐怖でしかない運用が多く見られます。
ちなみにウクライナ側が公開してる動画には落下から命中までを記録したモノが多くあり。低速時の空気抵抗をある程度まで無視できる重さがある手榴弾ですから、自由落下時間からその運用高度が凡そ計算できます。これは重力加速度9.8m/ssの時間積分ですから
高さ(h)=1/2×9..8(g)×経過時間(t)×経過時間(t)
ですね。動画で見る限り、開いた地形を進行する歩兵への攻撃は7〜9秒の落下時間で、計算上は240〜400m、空気抵抗を考えても200〜300m以上から投下しているのは間違いないでしょう。ちなみに2023年3月現在日本一高いビル(間もなく抜かれるのだが)、あべのハルカスの地上高が300m、新宿の都庁で243mですから、その屋上から攻撃されてるようなものです。これらのドローンはせいぜいカラス程度の大きさで音も小さいので、静止状態だと存在に気が付けないでしょう。運よく見つけられたとしても歩兵の小銃で撃ち落とすのはほぼ無理です。弾は届くでしょうが重力で弾道は曲がりまくりでまず当たりませぬ。よって今後、一発で撃ち落とすのでは無く、弾をばら撒いて撃破するガトリング銃系統の対ドローン兵器が登場するんじゃないかと筆者は想像してますが、どうでしょね。7.62oでは高度的に無理、20oでは強力過ぎ、かつ弾薬が高価すぎるので12.7o辺りで、と思ってますが。
ただし塹壕などの狭い場所、あるいは対戦車手榴弾など小さい目標が相手の場合は45〜80m程度の高度から落としてるのも確認できます。それでも見つけるだけで一苦労、という世界なのは変わらないと思いますが。
さらに大型のドローンだと数発の手榴弾を搭載できるものがあり、今後の戦争の在り方に大きく影響を与えるかもしれません。ただし天候に弱い、雨、風、雪の影響が大きい、という問題は現状未解決のようです。
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