■レイノーの迷走
そんな状態のフランス政府&軍上層部が決定的な敗北を悟ったのは既に述べたように恐らく5月15日の夜から16日にかけての事だったと思われます。ただしモーロワによると、フランス政府がガムランから正式にドイツ機甲部隊の突破の報告を受けたのは17日になってからで、ここからパニックが始まったとしています。ちなみに同じくパニックになりつつあったパリ市民がドイツ軍は英仏海峡の海岸線に向かっていると知って安堵したのは翌18日だったとの事(まあ本当は安堵していい状況では無いんですけどね)。
そしてここに至って首相のレイノーが今までの不満を爆発させてしまいます。18日の段階でガムラン将軍の更迭を決定、同時にダラディエを国防相から解任、外務大臣に移動させ、自らが国防相を兼任する事にしました(ただし発令は翌19日付らしい)。まあここまでの展開を考えると仕方ない部分があるのですが、戦争中、しかもまだ最後の戦い、いかにして北部の連合軍を救うのかという問題が残った段階での最高指揮官の更迭は軍部に大きな混乱をもたらします。さらに複数の将軍(ガムランを含め15人とされるが確認できず)も解任してしまい、現場の混乱に拍車を掛けました。
この時、レイノーとしては恐らくジョルジュ将軍を最高司令官の地位に付けたかったはずですが、電撃戦の敗北には彼も責任があること、そして恐らくダラディエが妨害した事からこれを断念、ヴィゴン(Maxime
Weygand/よく見るウェーガンは英語読みで誤り)将軍をその地位に据える事にします。ただしヴィゴンはフランス軍のレヴァント地区(地中海の東岸部、現在のシリア、レバノン、イスラエル、ヨルダン一帯)を担当しており、この時フランスには居なかったのです。運悪く当時は悪天候で航空機が直ぐには飛べず、そのフランス到着は翌19日遅くになってしまいます。このためガムランがその地位を去ってから24時以上フランスの指揮系統に空白が生まれ、さらに引継ぎのゴタゴタで、三日近くに渡ってフランス軍司令部は機能していませんでした。この時間を利用してドイツの機甲部隊はさらに進撃、そして後続の歩兵師団が占領地の確保を行って守備を固めてしまったのです。いずれにせよ勝ち目は無かったのですが、あまりにフランスらしいと言えばフランスらしい迷走でした。以後、6月22日の降伏まで、フランスはひたすら迷走しながら戦うことになって行きます。
■イギリス側の対応
そして連合軍のもう一方の当事者、イギリスもこのドイツ機甲師団の突破に衝撃を受けました。既に述べたようにチャーチルが15日の早朝にレイノーからの電話を受けた、という話は怪しいのですが、それでも16日朝までにはその報告を受けていたと思われます。驚いたチャーチルは状況確認のため16日の午後にフランスへと飛び、レイノー、ダラディエ、そしてガムラン将軍とフランス外務省で会談したのです。ちなみにこの段階でまだフランス側はパリ進撃の可能性を捨て切れておらず、チャーチルが到着した時、外務省では書類の焼却が始まっていたとか。
誰一人としてイスに座ろうとすらしない異常な雰囲気の中でこの会談は行われ、チャーチルは一通り話を聞いてから「予備兵力はどうなっているのか」と問いました。するとガムラン将軍が「どこにも存在しません」と答え、衝撃を受けたと述べています。ただしチャーチルはフランスは予備部隊を持たずに戦争やってるのかと勘違いして驚いてるのですが、実際は先に見たように既に投入して戦わずして消滅しちゃってたのです(ただし機甲師団がまだ2,3個あるらしいと述べており、どうもこの段階で第2,3装甲師団の壊滅をフランス軍の総司令部は把握していなかった可能性がある。ちなみに後で見るように第1装甲師団も15日の段階でロンメル師団にケンカを売られて既に壊滅していた。まあ第7装甲師団のロンメル本人はケンカ売るだけ売って走り去っちゃって、後から来た第5装甲師団が死闘の末に殲滅するんですが。よってこの段階で生き残っていたのは中途半端な戦力しか持たない、狂人ド・ゴール率いる第4装甲師団のみ)。
とりあえずフランス軍に強力なドイツ機甲部隊を食い止める戦力が無い事を知ったチャーチルは、最後の戦闘機部隊の増援を承認してからパリを立ち去ります。そして以後、イギリス政府はベルギー一帯に展開するイギリス軍をいかに本土に撤退させるかに注力して行く事になります。
20世紀を代表する政治家の一人であろう、”サー”ウィンストン・チャーチル(Sir Winston
Leonard Spencer
Churchill)。私がイギリス人なら20世紀最高の政治家はこの人だと言うでしょうが、私は日本人なので冷静に有能ではあったが人間としてはクズ、と思っております。同時代のアメリカ大統領、フーヴァー、ルーズベルト、トルーマンが人間的も尊敬できる人物であったのに対し、ヨーロッパの場合、有能であっても人間的にはクズ、ってのが多すぎる気がします。その究極がヒトラーとスターリンなワケですが。まあ日本の場合、軍人が国家権力を掌握している軍事国家でしたから、それ以前のレベルで全くお話にならないんですけどね。
といった感じで今回はここまで。
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