■フランス装甲師団
何度か述べているように、フランス軍は僅か四つの装甲師団、一つの機械化歩兵師団を持つのみでした。さらに言うなら、戦後のキチガイ大統領、ド・ゴールが指揮していた第4師団は急遽編成されたもので、十分な数の装備を持っておらず、実質3.5師団というところでした。それらは全て予備戦力として、ガムラン率いる最高司令部が配下に置かれ、必要があれば軍(第1軍、第2軍などの単位)に指揮権を委譲して運用する形になっていたようです。この辺りを例の指揮系統図で再度見て置きましょう。
セダン方面への反撃に、この虎の子の装甲部隊の内、第3装甲師団と、第3機械化歩兵師団(フランス軍唯一の機械化歩兵師団、すなわち自動車化された部隊)が投入されます。必勝の戦力と言うべきなんですが、グーデリアンの高速機動戦の前にほぼ戦わずして敗退、一部の部隊がもはや作戦的に無価値となったストンヌの死闘に投入されて終わります(涙)。
ついでに言うなら第2装甲師団も後にグーデリアン対策で投入されながら、これも消えて無くなり(涙)、結局まともに戦闘を行ったのは暴走将軍ロンメルにケンカを売られて受けて立った第1装甲師団(ただしロンメルは売るだけ売って速攻でトンズラ)、後にグーデリアン部隊に最後の決戦を挑むことになるド・ゴールの第4師団だけでした。そしてその両師団もあっさり負けてしまうのです。なんというか、電撃戦を象徴する存在と言っていいのが、このフランス軍の装甲師団なのでした。敵と同じ兵種を持ちながら、ここまで運用で差がついた例はモンゴル軍の騎馬部隊、同じくハンニバルの騎兵部隊などがありますが、どれも速度が命なのに注意してください。戦争は速度なんですよ。
■フランス側の反撃計画
ドイツの強力な機甲部隊がアルデンヌ丘陵を突破して来る、とは夢にも思っていなかったフランス軍ですが、それでも万が一に供えた作戦計画は持っており、予定通りに運用されていれば恐らくグデーリアン軍団の進撃はセダン渡河段階で食い止められていた可能性が高いものでした。1個装甲師団+3個戦車大隊、さらに1個機械化歩兵部隊に1個軽騎兵師団(一定数の戦車を持つ)、さらに最低でも4個歩兵師団と言う兵力が投入を予定されていたのです(ただし既に見た第10軍団の戦闘を含む)。
これらが高速に展開していれば、戦車の渡河に苦戦していたグデーリアン軍団は恐らく致命的な損害を受けていたと思われます。ですが、そうはなりませんでした。理由は単純、作戦展開の速度がとてもじゃないけどグデーリアン閣下の行動に追いつけなかったからです。何度でも言いますが、戦争は速度なんですよ。書面の上でどれだけ立派な計画を立てても実行する前に敵が防衛線を突破して走り去ってしまってはどうしようも無いのです。
フランス側の防衛作戦は、大きく三段階に分かれます。まずは既に見たようにフランス第2軍配下の第10軍団に属する第55、71歩兵師団がマース川一帯に置かれ敵の渡河を妨害する事になっていました。ただし守るフランス第2軍もドイツが本気で来たら二線級歩兵師団だけでは厳しいと理解しており、予備戦力として二個戦車大隊と二個歩兵連隊を配下に維持してました。戦闘が激しくなったらこれを投入し戦線を支援するのです。これらが翌14日までに現地に駆け付けて防衛線を維持する事になっていたのも既に見た通り。ところが初日13日の夜にパニックから前線の二個歩兵師団が潰走、さらに進出の遅れなどが加わって予備部隊は増援では無く単独で戦う羽目になり、各個撃破される形で翌14日の午前中までに敗走に入ってしまいます。ここまでが前回見た状況です。結果的に、前線から後方に向けて潰走するフランス軍部隊が二日に渡って一帯に溢れていた事に注意してください。これが次回見る最後の反撃に大きな影響を与える事になるのです。
そして最後に第10軍団配下の歩兵師団&予備戦力がビュルゾン周辺の防衛線でドイツ軍の前進を食い止めている所に、総司令部直属の予備部隊を第2軍司令部が借り受け投入、トドメを刺す予定だった訳です。ところが既に見たように第二段階までの計画があっさり崩壊しているのでした。この段階で計画は破綻していたとも言えます。それでも上図を見れば判るように、最後の第三段階の反撃作戦に投入された戦力は強力で、これだけでも十分にグデーリアン軍団を脚止めできたハズでした。
既に見たようにグデーリアン軍団の第1、2装甲師団が西に方向転換後、第10装甲師団は一時的に南下を阻止されています。すなわち主力部隊の脆弱なわき腹がガラ空きになっていました(基本的に兵力、火力は前方、進行方向に集中される。このため側面、背面からの攻撃に軍勢は弱い。これは時代が変わってもほぼ不変である)。ここを突いていれば、フランスの圧勝に終わった可能性もあったのです。ですが、現実はそうはなりませんでした。
その辺りのフランスの悲劇、15日の戦闘については次回、見て行きましょう。今回はここまで。
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