■レーダーで人生を3倍楽しく



ではペロ君、今回はレーダー照準の具体的なやり方を、少し考えてみよう。

「めんどくさい話?」

いいや、全然。
レーダーさんてば、とってもステキな紳士のさ。
原稿書くのがラクでホント助かる(笑)。

「じゃあ付き合うよ」

まず、レーダによる照準は、
警戒レーダーで砲撃する相手を見つけるとこからスタートする。
そこから射撃照準レーダーが仕事を引き継ぐわけだ。

が、その前に、その艦載警戒レーダーの歴史について、ちょっと見ておこう。
イギリスは正直言ってよくわからんし無視していいので、ここはアメリカ海軍で行くぞ。
アメリカ海軍の艦載実験レーダーは1937年ごろから、
RCA社、ベル研究所、そしてMIT(あの大学)と海軍が共同で製作を開始した。
理論的にはもっと前から研究してたんだけどね。
で、この時期はまだ数百MHz(メガヘルツ)クラスの周波数が限界なので、
そもそも警戒以外の用途は考えられてないと見ていいだろう。

「じゃあ、レーダーって名前変ジャン」

あれは1941年の命名だよ。ティザード来襲後なのさ。
(公式に名称制定されたのは年が明けて42年だと思う)
まあ本来はそれ以前のものはレーダーと呼べないんだが、
煩雑になるので、今回の原稿では全てレーダーとするぞ。

「まあ、別にいいけど」

で、最終的に1938年12月に完成したXAFという試験型レーダーを
戦艦ニューヨーク(BB-34)に搭載して試験を行い、
これで技術的には実戦投入可能と判断された。
これを元に最初の量産型のCXAMレーダーが発注され、1940年の5月頃から
戦艦、空母、大型巡洋艦に搭載が始まるんだ。

これ、警戒レーダーなので、本来はSナンバーの型番なんだが、
まだ警戒、射撃管制の区別がなかったせいもあって、
実験ナンバーであるXをつけたまま量産される事になったんだよ。

このレーダーも対空&対艦兼用の、まあ中途半端なレーダーだったりするんだけどね。
スペックは周波数が200MHzだから波長は1.5m。出力は15kw(かなり弱い)。
性能的には、対航空機で高度3000m以上、
大型機という条件でなら100km弱先から探知できたらしい。
一方、対艦はかなり貧弱で戦艦、正規空母クラスで
最大探知距離29km、小型艦だと22km前後まで落ちる。
これは艦橋トップから見える水平線のこちら側だから、ちょっとキツイ。

「飛行機は遠くから発見できるのに、でかい戦艦はダメなの?」

大きさの問題ではないんだ。
レーダー波長は1.5mだから、これ以下の大きさなら反射波は発生する。
よって、本来なら大抵の兵器はこのレーダーに引っかかるんだが、
問題は海面上で起きる電波の乱反射で、これが技術的に解決が困難だった。
これ、実は射撃照準レーダーでも大きなポイントになる。
まあ、警戒レーダーの場合、海面方向に電波が飛ばないように、
ビーム幅の上下角を絞る、回路的に反射電波はカットする、などの対策をしたようだ。
逆に言えば、海面付近の敵は極めて見つけ難いということになった。
情報をカットしてしまってるわけだからね。

だから、戦艦、空母はデカイからレーダーに捕らえやすいんじゃなく、
単順に背が高い、水面から遠く離れてる部分が広いから引っかかっりやすいんだ。
対して駆逐艦などは水面上の高さも低いし、その構造物も小さい。
よって、レーダーに引っかかり難くなる。
ここら辺は高周波レーダー登場まで解決されないまま残る。
そんな感じだから、基本的には対空レーダーと見るべきなんだろうね。
まあ、それでも夜間や荒天時には一方的なアドバンテージとなるけども。



最初の実用艦載レーダー、CXMAは全重量で2.3トン、
アンテナだけで550kg近くあった。
が、あっという間に小型化が進み、
性能的にはやや劣るものの、戦争後半には駆逐艦はおろか、
潜水艦にまで、警戒レーダーは搭載される。
そんなレーダーでも、もきっちり成果を出してるのは、
以前に説明したとおり。
レーダー、ブラヴォー。


で、とりあえず日米開戦前、1941年12月までにCXMAの装備が済んでいたのは
戦艦ではペンシルバニア(BB-38)、カリフォルニア(BB-44)、
ウェスト ヴァージニア(BB-48)の3隻。
空母ではヨークタウン(CV-5)だけ、その他に何隻かの巡洋艦にも搭載されたようだ。

ちなみに当時の最新式戦艦、ノースカロライナ(BB-55)、
ワシントン(BB-56)には1942年のはじめ、開戦直後の段階で搭載された。
他には例の実験型レーダー、XMAが1938年から
戦艦ニューヨーク(BB-34)に搭載されっぱなしのままになっていた。
結構使えたのかもしれないな、これ(42年にSC型へ換装)。
さらについでに戦艦テキサス(BB-35)にはCXZレーダーというのが
1938年から搭載されてるのだが、これの正体はさっぱりわからん。
(42年にSR型へ換装)

とりあえず、本格的な警戒レーダーの流れはこんな所だね。
で、CXMAは上記のように出力が弱かったのと、やたらデカかったので、
すぐに改良型のSC、SR(S型番シリーズ)が登場し、上記以外の艦は、
このタイプのレーダーを搭載してゆく事になる。
性能的には周波数は同じだが、出力が大幅に上がっていて(330Kw)
探知距離がかなり改善されたようだ。軽量化もされたらしいが、データがない。

その他にも小型艦用に性能を下げ、
コンパクト化したSK型も早い時期に登場、1942年くらいから配備が始まるのだ。

「レーダーの王国だね、アメリカ海軍…」



これはイギリス海軍の1940年デビュー警戒レーダーType 281だが、
初期の警戒レーダは、このような四角い箱組み型アンテナが多い。
理由は知らん。
この手のアンテナを米海軍ではベッドスプリングアンテナと呼んだ。



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