■全員、もれなく当たる
ではペロ四等兵、さっそく演習であります。
「で、具体的にはどうするの?」
とりえず、この魚雷発射管で演習です、サー。
指示された通りにぶっ放して、向こうに見える目標艦に命中させて下さい。
「へー、魚雷の発射装置って意外に小さいね」
これは現代の護衛艦に搭載されてる対潜水艦魚雷のです、サー。
第二次大戦時の対艦用のはもっと大型です。
今回は他に写真が…否、演習ですから、これで十分です、サー。
「で?どうすりゃいいの?」
電話を…あ、かかって来ました。少々、お待ちください、サー。
はい1番管です、どうぞ……復唱します、…了解。
と、いうわけで指示データが来ました。
「ナニこれ?」
その指示通りに撃ってください、サー。
艦橋にあるアナログ計算機、すなわち測的盤で出したデータです。
「えー、ごちゃごちゃイロイロあってわかんない」
大丈夫です、サー。
これは演習ですから、実はこれとこれ、あとこれ、
この三つ以外はオマケみたいなもんなんで、無視してください。
「へー、そうなんだ。これって何の数字?」
最初のは発射角度、すなわち射角、魚雷を撃つ方向であります、サー。
もう一つは魚雷の速度、そして最後は発射時刻、つまり何秒後に撃て、という指示です。
「えーと、方位角と速度をあわせたら、後は指示時刻に発射…
これだけで何とかなる、ということ?」
サー イエッサー!。
他にも深度や複数の魚雷を一定間隔でばら撒くための舵の角度、
さらには発射器の空気圧力まで、いろいろ指示がありますが、
今回は面倒…否、演習ですから、無視であります、サー。
とりあえず、魚雷本体の燃料弁を絞るか開けるかで速度は調整でき、
角度は、発射管についてるゲージを指示された角度にすればOKです、サー。
あとは発射指示時刻を待ちます。
魚雷は本体のお値段は高いが、搭載する母体をあまり選ばない、
という点でのコストパフォーマンスはいい。
こんな近所の成金が週末の釣り用に買ったような木造船でも立派に魚雷艇となった。
実際、この船は戦後、民間人に売却され、
それを後にダックスフォード帝国戦争博物館が購入、レストアしたものだ。
「へー、そのくらいなら…。…はい、終ったよ、調整」
時計を見てください。発射指定時になったら、そのレバーを倒すのです。
後は勝手に海に飛び出して行きます、サー。
「えー、3,2,1発射!ウワっ!結構な勢いで飛び出すな!」
まだ終ってません、サー。
「ぬア!マタ来た!…ヌオ!もう一発あったか!」
とりあえず3発、それぞれ2度の角度をつけて扇状に撃ち出しました、サー。
「一度に複数撃つのは、命中率を上げるため?」
そうです、サー。なにせ不確定要素が多い兵器なので、
ある程度数の数を撃ち、それらに発射角度をつけて扇状に広がるようにし、
空間の広がりを持たせて命中の確率を上げます。
「へー、当たるかな、ドカン!と」
演習の模擬弾頭ですから、爆発はしないのです、サー。
判定を待ちましょう……
…あ、命中です!
目標艦上の判定犬が尻尾を振ってます!当たりました!
「判定犬?」
では第一段階、終了です。
「なーんだ、当たるもんだね。オレもちょっとやるじゃん」
演習ですから。
相手は低速で直進のみ、しかも近距離、これなら当たりますよ、サー。
「…まあ、それでも初めてにしちゃスゴクない?」
測的盤からの指示が的確でしたから。
「なに、オレがいきなり命中させちゃったから、面白くないの?
当ててんだからさ、普通に誉めてもいいとこじゃん」
いや、魚雷発射で難しいのは照準なんですよ、サー。
今回のような条件で照準が正確なら、
言われた通りに撃つだけで、ほぼ確実に当たります、サー。
「えー、そんじゃオレの射撃の技術じゃない、と?」
多少は影響はあります、サー。が、何より照準が見事でした。
「うーん、そこまで言うなら、照準、オレにもやらせてよ。
それでキチンと指示が出せれば、オレの魚雷射撃は一流、ってことでしょう」
その通りです、サー。ではさっそく上に行きましょう。
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