■戦争はアタマでやるものらしい
はい、さっそく迷走し始めているこの連載。
とりあえず、現在は書いてる本人も忘れがちですが(泣)、
「水平線の向こう側まで弾が届く主砲の有効性」
を考えてます。
特に42kmクラスの射程を持ってた日本海軍の主砲は、
これを活用できる可能性はあったのか、と。
まあ、そこに行くまでの準備が結構あるわけで、
面倒でも少々お付き合いくださいませ。
最初に長距離砲の「射撃技術の優劣」、
つまり「射撃がうまいかヘタか」は、何で決まるのかを考えてみます。
どうすれば、キチンと目標に弾を当てられるか、という問題ですね。
「射撃技術が高い」というのは、つまりどういう事なのか。
水平線の向こうも含めて、とかく当たらないといわれる
長距離射撃、その原因は射撃技術の優劣によるのか、
それとも他に原因があるのか、を考えるのが目的でありんす。
地球が丸い話なんて、もうどうでもよくなってきたな(涙)…。
まず火砲の照準方法、狙いのつけ方は、タイプによって大きく二つに分かれます。
一つは、真っ直ぐ弾が飛んで行くタイプの砲。
これは目で見て狙いをつける直接照準です。
もう一つは放物線状に弾が飛んでゆく砲。
こちらは、測量で必要な数値(距離、方角等)を出し、
それをもとに砲のパラメーターを調整して撃つ間接照準です。
今回、問題になるのはこちらです。
直線で弾が飛んでいくなら(厳密には地球の引力の影響で斜め下方向)、
射線と視線がどこかで重なるように照準をつけ、
そこに相手を捕らえてぶっ放せば命中します。
見たぜ、撃ったぜ、やったぜ当たったぜ!というリズムで単純明快ですね。
だがしかし!
長距離砲では話が違います。
弾丸が長時間にわたり地面に落下&衝突しないように、
上方向にドカンと撃ちあげて、山なりな弾道で撃ちこむ必要があるからです。
この場合、目で見て照準をつけるのは不可能で、相手までの距離と方向を計測し、
砲の仰角(上に向ける角度)炸薬の量(力の大きさ)、砲弾の種類(重量)などで調整、
相手のいる位置にうまく砲弾が落下するように調整して撃つしかありません。
でもって、この「計測」「射撃」ともに専用の装置と訓練、
さらに加えてそれなりに面倒な算数の計算が必要です。
やな兵器ですね。
ついでに、その弾道は理屈ではキレイな放物線になりますが、
実際は空気抵抗のため、上のように後半は勢いを失って急角度で落下します。
図では少々オーバーに描いてますが。
ついでに、この「落下して当たる」という弾道のため、
直線で飛んでゆく火砲より照準がシビアで、
特に距離の計測を誤ると、未来永劫命中しない、という特徴があります。
直線方向に飛んでゆく弾なら、相手の位置が、多少前後しても、
(距離の目測を誤っても)
その射線上にいれば、かならず当たります。
命中範囲は「線」なんですね。
まあ、距離測定の失敗は致命傷にはなりにくい。
方位さえ気をつければ大丈夫。
一方、上から落ちてくる弾道の場合、その命中範囲は完全に「点」となります。
ちょっとでもその着弾点が前後すると、もう当たりません。
距離測定のミスは致命傷となるのです。
つまり正確な距離の把握と、そこに確実に弾を撃ち込む、
という二つ全く異なるの技術の融合が重要となります。
方位の重要性は直線弾道と変わらないので、
ある意味、射撃時にゆるされる誤差の許容量は、はるかに厳しいわけです。
なので戦艦や巡洋艦クラスの主砲の場合、確実に敵に砲弾を命中させるには、
■相手までの距離、方位を誤差なく測定する
つまり照準技術
■その指示された位置に確実に砲弾を送り込む
つまり射撃技術
この全く異なる二つの要素が高いレベルで維持されてる必要があります。
二番目の正確な射撃技術については、
訓練と「必要なデータ収集」の繰り返しで、フォローが効きます。
必要なデータというのは、緯度、気温、気圧、水蒸気圧、
さらには銃身内の損耗度などで弾道は変わってしまうため、
それぞれの状況下で実射してそのデータを集めておく必要があったわけです。
ラジオゾンデをアチコチで飛ばすのは気象予測のためだけではないんですね。
同じ条件での資料がないので、断言は出来ませんが、
日米などで比べても、指示された位置に確実に砲弾を送り込む、
この「射撃技術」についてはそれほどの差はないと思います。
では、その前段階。
距離と方位の測定はどうなのか。
ようやく本題です(笑)。
日本海軍が、目視に頼っていたことは書きました。
それがどんな事を意味するのか。
まずは、前回少しだけ説明した測距儀から見て行きます。
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