■これにておしまい

というわけで、このお話は一旦、ここでオシマイとします。
ヘンリーが産み出した大量生産システムがどれほど大きな力であったか、
をテーマに延々と続けてきたのがこの原稿でした。

もし彼の産み出した大量生産システムが存在せず、
さらには彼が人格者で(笑)「チーム大量生産」から一人の脱落者も出さず、
それがアメリカの自動車産業に広がらなかったらどうなったか。

そして彼の積極的な海外展開がなければ、どうだったか…。
まあ、とにかく第二次世界大戦は、全く異なった戦争になったろうなあ、
というのはなんとなく理解していただけたでしょうか。

この「ヘンリーがいなかった世界の戦争」こそが
当時の日本が夢想していた戦争であったんだなあ、
とかも思ったりするわけですが、この点はまたの機会に。
いつかこの話の続きを書くかもしれませんが、
とりあえず、今回はここまで。




最後にちょっとだけ。

戦争中、アメリカの生産を支えたビル ヌードセンが、
ルーズベルト大統領に引き抜かれ、デトロイトを去ろうとした時、
GMの経営責任者(CEO)だったスローンはこれに反対し、引きとめにかかります。

彼はヌードセンに国防委員になるなら、給料の支払いを拒否する、と宣言。
国防委員は、民間企業からの派遣が前提だったので、実は無給の職でした。
だから、これはアメリカどころか世界でもトップクラスの給料をもらっている
GMの社長(CEOではない)が、いきなり無収入に転落する、ということを意味します。
「よく考えてみろ、ビル。国中が君を笑いものにするぞ」
スローンの言葉は正しい。
きわめて、正しいのです。

ヌードセンという男は大企業のトップとしては、
いろいろな意味で異質でした。
結局、ヘンリーもスローンも最後まで、彼を理解できてなかったでしょう。
だからそれに応えたヌードセンの言葉は、スローンの度肝を抜きます。

「私は移民で無一文でこの国に来ました。昔に戻るだけの話ですよ」

その言葉を残してヌードセンはデトロイトを去り、
後にルーズベルトがあわてて給料を設定するまで、
全くの無給で、何も言わずに働いてたのです。

日本は、こういう男のいる国と戦争したのでした。

フォードとその思想を引き継いだ男達によって
あらゆるものが生産されまくったのが第二次大戦でした。

そして、それが終わって、その巨大な生産能力を持て余した結果、
アメリカがどうなって行くのかが、この連載の
ゴールだったのですが、現状はそこまで行けそうにありません。
いつか、その全ての準備が整ったら、この連載を再開したいと思いますが、
とりあえず、一度ここで中断とさせてください。


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