■神聖ローマ帝国における大量生産前夜

と、いうわけで、予告どおり、今回はちょっと脱線。

1974年2月、アメリカ上院司法委員会の
下部組織である反トラスト及び独占の補助委員会に提出された
「アメリカの陸上輸送(American Ground transport)」
という、それなりに有名なレポートがある。
執筆者はアメリカの自動車産業の専門家のブラッドフォード C.スネル(Bradford C. Snell)。

これは「アメリカの自動車業界がその市場寡占状態を悪用してるでー」
という内容で、具体的には戦前から戦後にかけ、
アメリカ西部の近郊鉄道各社を自動車会社が買収、
これを全て強制的に廃線としてしまい、その結果、
鉄道の発達しなかった合衆国は、車社会になったのよ、という内容だ。
結構衝撃的なレポートで、実はバス会社についても
同様の事を行った、とのことのだが、今回の主題とは無関係なのでパス。
まあオイルショック時に「なんでアメリカはこんな不経済な車社会になったねん」
という点を追求したものである。



アメリカの車社会は、決して自然に出来上がったものではない。
自動車産業の持つ「強大な力」が社会をゆがめた結果である。
この点は今回の原稿に無関係なようで、最後にもう一回登場する。

日本は道路関係の利権に群がる連中のおかげで
高速道路が狂ったような高額使用料となったため、
その自動車社会化はかなり抑えられる結果となった。
(首都高700円はロンドンでさえビックリの高額だ)
世の中、何が幸いするかわかったもんじゃない。



が、このレポートでは、その本題とは別に注目されるべきポイントがあった。
レポート冒頭、「アメリカ自動車業界の悪質さ」を強調する中に
「連中はナチス ドイツの元で、ガンガンにトラックとか造ってたんだよ」
という話が登場するのである。

元々は戦争直後に対ドイツ爆撃の成果をアメリカ側から調査した
「アメリカ戦略爆撃調査報告書(US Strategic Bombing Survey)」レポートの
「ヨーロッパ編 軍需産業の章」の中で、
「なんていうかードイツの軍需工場って、アメリカの会社のが結構あるんですけどー?」
という衝撃的な報告がなされていたのである。

ただ、これはさほど注目されずに埋もれてしまっていた。
この忘れられた報告を、再発見して発表したのが、
1974年の「アメリカの陸上輸送」レポートだった、ということになる。

が、このレポートの本題、テーマは
「今こそ自動車社会を捨て、アメリカにも公共交通機関を!」
というものだったので「ナチスドイツ」うんぬん部分は、
一部の人を驚かしただけで終わる。
ちなみに、サンフランシスコやロサンゼルス近郊に80年代以降、
次々に公共鉄道、交通機関が造られたのは、
このレポートによるところが大きい。

で、次に、そして初めて本格的にこの問題を取り上げたのが、
1983年にイギリスで出版されたチャールス ハイマン(Charles Higham)による
"Trading With the Enemy:
 An Expos of The Nazi-American Money-Plot 1933-1949"
だったと思われる。
「敵との貿易」というタイトルのこの本は、やや通俗的な内容で(学術的とは言い難い)、
データの信憑性をどこまで信じるか、という問題は残るが、
基本的には非常に興味深い内容となっている。
余談ながら作者のハイマンはいわゆる「ベストセラー」を
いくつか持っている作家なのだが、
ハワード ヒューズを描いた航空機出まくり映画、「アビエーター」の原作者でもある。

と、いうわけで、英語圏ではそれなりに知られている
「アメリカ企業とナチスの幸福な関係」というのが、ここからのお話のテーマだ。
ナチスと商売したアメリカ企業としては、今回の主賓「GM」「フォード」「エッソ」の他に、
巨大通信企業「ITT」、かつてのアメリカの最新電子機器屋「RCA」(RCAプラグのアレ)、
さらには「IBM」、「コカコーラ」などまでもが含まれる。

が、今回のテーマはあくまで「兵器生産」なので、
それに関係しない企業は取り上げない。
興味のある方は、各自調査していただけると、それなりに面白い話がいろいろある。
ただ、上に挙げた2つの資料では「IBM」「コカコーラ」は登場しない。

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