■五航戦の攻撃

さて、前回見たように、五航戦の攻撃隊は、
アメリカの迎撃戦闘機&急降下爆撃機の壁を軽微な損害で突破しました。
その後、敵艦隊の輪陣形の対空砲火防御の中に突っ込み、
それなりの損害を出したと見られますが、それでも大部分の機体が、
攻撃に入れた、と見ていいでしょう。

アメリカ側の護衛艦による対空砲火が11:12〜13ごろ開始された、との事なので、
おそらくこの段階で護衛機の壁を越えて、輪陣形に接近したと思われます。
ちなみに日本側がUSSレキシントンに雷撃を開始するのは11:15からとなってるので、
アメリカ側は、わずか2分前後の迎撃時間しかなかったわけです。
この辺りも初めての経験で、アメリカ側の護衛艦の記録を見ると、
かなり驚いてる様子が見て取れます。

ただし、攻撃終了後にも再度、この隣陣形を突破する必要があるので、
そこで散々にまた対空攻撃が行われる事になります。
特に急降下爆撃機は離脱時は高度が一気に下がりますから、
その危険度も跳ね上がる事になるのです。

ここで再度、前回見た図を。
アメリカの場合、その輪陣形の中にいる2隻の空母には、
1隻ずつ護衛艦が近接して張り付いてました。
図中でC、Bの記号があるのがそれで、Cは巡洋艦、Bは戦艦を意味しますが、
当然、この艦隊に戦艦は居ませんから、Bは巡洋艦の誤認でしょうね。


 ■引用元:
JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030742800、
昭和17年5月4日〜昭和17年5月10日 軍艦瑞鶴戦闘詳報 
(珊瑚海海戦に於ける作戦) (防衛省防衛研究所)

*上記の資料から汚れを除き、情報を追記。




アメリカ側の空母二隻は、輪陣形の中心に居て、午前11時の太陽方向、
北から(南半球なのだ)見て一直線にならないように位置してるのがわかります。
ちなみに前回説明したように、図中のサラトガはUSSレキシントンの誤認です。

日本側の攻撃を受けたアメリカ側空母が、
USSレキシントンは左に、USSヨークタウンは右に、それぞれ逆方向に
退避運動に入ってるのも見ておいてください。
おそらく日本側の雷撃の方向が異なり、これを避けるために
こうなったと思われますが、結果的には日本側の攻撃を分散させる事になります。

ついでに、USSヨークタウンは右に回頭した結果、
瑞鶴の艦爆隊から逃げる形になり、これが同艦に対する
雷撃&爆撃の同時攻撃を妨げた可能性もあります。

で、見ればわかるように、攻撃に入った日本側から見て、
手前に位置していたのがUSSレキシントンでした。
このため、自然と攻撃はここに集中する事になって行きます。
それぞれの空母へ攻撃を掛けた機体を確認しておくと、

■対USSレキシントン 計31機
翔鶴 艦爆隊全機 19機 雷撃隊全機 10機
瑞鶴雷撃隊の内2機

■対USSヨークタウン 計20機
瑞鶴艦爆隊 全機 14機 瑞鶴雷撃隊の内6機

(ただし対空砲火で攻撃前に失われた機体もあるはずだが機数は判らない。
さらに瑞鶴雷撃隊は二艦に分かれて攻撃したが、その内訳の記録が無く、
アメリカ側の目撃証言に基づいてUSSヨークタウン攻撃側を6機とした)

とりあえず、この状態で日本側はアメリカの空母に攻撃を仕掛ける事になります。
数の差が付いたのが雷撃機で、USSレキシントンに対して12機に対し、
USSヨークタウンに対しては半分の6機となってます。
これがUSSレキシントンに対する魚雷命中2発に対し、USSヨークタウンに対しては
命中0発という、戦果の差につながってるのでしょう。
さらに、そもそも全体の数が少ない瑞鶴隊がUSSヨークタウンに向かったため、
艦爆も5機少ない、という状況でした。

ちなみに、瑞鶴の雷撃隊の内、USSヨークタウンに向かった1機が空母以外の目標、
護衛に付いていた重巡USS アストリア(Astoria)に対して雷撃を行ってますが、
当然、たった一発では回避は容易で、あっさり外れてます。
ついでに日本側の雷撃戦果報告では軽巡1隻大破、としてますが、これも誤認です。

また、同艦は急降下爆撃機2機の攻撃も受けたとされるので、
もしかすると、これがUSSヨークタウンの間近で護衛していた巡洋艦かもしれません。
残念ながら、こちらも命中弾はありませんでしたが…。
(ただし、日本側には艦爆が空母以外に爆弾を投弾した記録はない。
よってUSSヨークタウンに投下されたのが流れ落ちた、と考えるのが適当か)

さらについでながら他の護衛艦でも雷撃を受けた、と申告してるものがありますが、
いろいろな記録を見る限り、雷撃機はほぼ空母に集中してるので、
実際は空母に接近する途中に側を通りかかっただけ、
というものがほとんどだと思われます。


■Image credits:Official U.S. Navy Photograph, now in the collections of the National Archives.
Catalog #: 80-G-7414


日本側の攻撃を受けるUSSレキシントン。アメリカ側の撮影。
急降下爆撃の命中による火災がまだ見えない事、
魚雷の爆発による水柱も立ってない事から、この写真は
11:20以前、雷撃隊の攻撃隊が始まった直後に撮影されたものと思われます。

周辺に見えてる黒い綿雲のようなものは対空砲弾の炸裂したもの。
すなわち5インチ(127mm)高射砲を水平撃ちしてる、というのが見て取れます。
(8インチ砲は既に撤去されていた)

一見すると飛行甲板の直上にも砲弾の炸裂があるように見えますが、
あれは手前の海上にあるものです。
一定距離で船体を中心に半円状の弾幕を張っており、
さらに周辺の護衛艦に当たるのを避けるためか、
かなりの至近距離で炸裂するように信管を切ってるようです。
(艦の全長が270m前後だから、そこから見ても600〜800m前後と
5インチ砲の射程を考えると極めて至近距離で炸裂してる)

ここで、もう少し拡大して見ましょう。



USSレキシントンに対する3.の矢印の位置に見える派手な煙から、
一見すると炎上してるように見えますが、
よく見れば煙突の先から煙が出てるので、高速運転によって大量に煙が出てるだけです。
煙突付近の火災なら、2発目の爆弾を煙突の根元付近に受けた後に発生してますから、
煙はこんな位置からは発生しません。

とりあえず、ざっと見て置くと、矢印 1.の水面上の不思議な水柱は、
28o(1.1 inch)機関砲の着弾によるもの。
USSレキシントンは、アメリカ海軍おなじみの40mm機関砲は最後まで搭載せず、
やや非力な28o(1.1 inch)機関砲で頑張ってました。
(ただしこの時は、護衛艦の多くもこの28o(1.1 inch)機関砲装備だった)

その水柱を立ててる射撃の目標が矢印 2. の先に居る日本の97式艦攻で、
この角度から攻撃してるのは翔鶴隊の雷撃機でしょう。
あの距離だと、すでに魚雷は投下済みだと思われます。

ちなみに、本来は単機で雷撃機が突入する、というのはあり得ないはずで、
僚機は既に撃墜されてしまったか、あるいは最初の雷撃に失敗、
魚雷を投下できなかったので、再度単機で突入した機体だと思われます。
(黒煙の中に隠れて他の機体が見えてない可能性もあるが)

とりあず、正面方向からバンバン飛んでくる
あの弾幕の中を突き抜けて、USSレキシントンに接近してる
雷撃機の搭乗員の勇気は恐るべきものがあります。
正直、私には絶対無理です…。

ついでに矢印 4.の先に見えてるのが、先に説明した
5インチ砲の炸裂した煙の一つで、左の1の黒煙から画面いっぱい、
かなり広い範囲で弾幕が張られてるのが見て取れます。


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