■日本側の攻撃
アメリカ側のレーダー記録によると、日本の攻撃隊は
120q以上先からまっすぐ艦隊に向かって来てますから、
菅野機の誘導が有意義だったのかもしれません。
ちなみにレーダー誘導の適当さから、
艦隊から20海里の位置で低高度で日本の編隊とすれ違うハメになった
例のアメリカ側の戦闘機パイロットの証言によると、
日本の攻撃隊は13000フィート(約3962m)前後の高度で
4層に分かれる編隊を組んでいたとされます。
一番下の層が艦攻(雷撃機)、次がその護衛の戦闘機、
その上に艦爆とその護衛戦闘機という順に並んでいたようです。
艦攻が下、艦爆が上で、それぞれの上に護衛の戦闘機が居る、という形ですね。
艦爆は敵艦隊付近から一気に降下して海面付近まで行く必要がありますから、
一団で移動するときは、一番下に居たのだと思われます。
ただし後で見るように、実際の戦闘に入ると、
ゼロ戦は全て雷撃機の護衛に回ってしまいますが…。
このF4Fのパイロットは敵編隊の1/3は戦闘機だった、と驚いて報告してますが、
アメリカ側では、攻撃隊にそんなに戦闘機を付けるものなのか、
という意外感があったのかもしれません。
(ただし実際は19機で全体の約1/ 3.8
ほどだったが)
もっとも、このパイロットの場合、
たった3機で70機近い大編隊に向かわされた事への言外の抗議、
といった意味もあるかもしれませんが…
参考までにアメリカ側が攻撃隊に着けた護衛戦闘機は15機で、
全体の1/5に過ぎませんでした。
(実際はバラバラに目標に到着したうえ、一部はたどり着けなかったので、
さらに護衛戦闘機の存在感は薄い)
そして先に書いたように10:55のレーダー探知後、
アメリカ側空母機動部隊、TF17は北側に針路を転じていたのですが、
11:11、敵が視認できる距離(15海里/27.8q)に来た段階で、
今度は120度(東南東)方向へと、再度針路変更をしてます。
この理由はよくわかりませぬ。
もはや発艦させる機体もないので、風上に向かう必要はないはずなんですが…。
とりあえず日本の攻撃部隊はその120度(東南東)方向へと向かうTF17に対し、
20度(北北東)方向から空襲を開始する事になりました。
その状況を瑞鶴の戦闘詳報の図で確認してみましょう。
■引用元:
JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030742800、
昭和17年5月4日〜昭和17年5月10日 軍艦瑞鶴戦闘詳報
(珊瑚海海戦に於ける作戦) (防衛省防衛研究所)
*上記の資料から汚れを除き、情報を追記。
とりあえず右上が日本の攻撃隊、左下がアメリカの空母機動部隊。
図の右下の矢印と数字は風向きですから、現地は110度(東南東)の風10mという事です。
これはそこそこ強風で、急降下爆撃では爆弾が流されるため、
それなりの修正が必要だった可能性があります。
アメリカ側は空母2隻を護衛艦でグルリと取り囲む輪陣形で
東南東、すなわち図の右下方向に向けて進行中となってます。
空母の名前がレキシントンではなく、姉妹艦のサラトガになってるのはご愛敬で(笑)、
日本は1月の潜水艦による雷撃で
既にUSSレキシントンを沈めてると思ってたからです。
(実際はこれはUSSサラトガで、さらに大破であっても沈んでは無かった)
その艦隊の右横に点線で描かれてるのが敵戦闘機の配置位置なんですが、
よく見ると、真ん中には敵急降下爆撃機(fb)の記述があるので、例のSBDも含みますね。
日本側は図の右上、北北東からの襲撃となり、
艦攻隊が左回り(艦隊の真横)、艦爆隊が右回り(艦隊進行方向をさえぎる)に
それぞれ敵艦隊をとり囲むように移動してるのがわかります。
既に説明したように、両者で相手の針路を限定し、動きを封じた上で
これを攻撃するのが理想なので、こういった別方向からの
挟み撃ちの形に持ち込むわけです。
ただし、日本側もこれだけの大艦隊相手に攻撃を仕掛けたのは初めてで、
この攻撃展開、あらかじめどの程度まで打ち合わせで決めたのか、
どうもよくわかりません。
後で見るように完全に思った通りに進んだわけではないほうですが…。
日本側の攻撃開始時間は、この図だと11:10(9:10+2時間の時差)に
突撃命令が出たと書かれてますが、戦闘詳報や行動調書では11:15となってます。
今となっては、どちらが正しいのか、確認の術はありませぬ。
これに対して、アメリカ側は、攻撃隊がその射程距離に入って来た
11:12〜13ごろから、猛烈な対空射撃を開始してます。
ここで、再度、同じ図を。
図中で左側を進む雷撃の艦攻隊は
突撃命令直後に二分割されてますが、これは瑞鶴と翔鶴の
それぞれ艦攻隊に分かれたためで、左側が瑞鶴、右側が翔鶴の部隊です。
さらに図中にはその分岐地点が書かれてませんが、艦爆も途中で両者に分かれており、
図中に突然出現して来るUSSヨークタウンに向かった一番下の線が瑞鶴の艦爆隊、
スタート地点からまっすぐUSSレキシントン(図中ではサラトガ)に
向かってるのが翔鶴の艦爆隊です。
それぞれの攻撃時間は、艦攻隊が11:15開始、艦爆隊が11:25開始と書かれており、
同時攻撃開始には失敗した数字となってます。
ただし、これは瑞鶴隊が主に攻撃を担当したUSSヨークタウンに対する時刻で、
USSレキシントンに向かった攻撃隊は11:15から、同時攻撃に成功したようです。
この時間差、つまり艦爆、艦攻が同時攻撃を掛けられなかったどうかが
アメリカの空母の運命を分けたのかもしれません。
同時攻撃を受けたUSSレキシントンは魚雷、爆弾ともに2発の命中を受け、
大破したのに対し、USSヨークタウンは爆弾1発の命中だけで済んでるのです。
ちなみに図の中のfc というのが戦闘機隊を意味し、日本側はゼロ戦隊、
アメリカ側はF4F隊のこと、fb
の記号が艦爆隊を意味し、日本は99艦爆、
アメリカ側は例の艦隊護衛に引っ張り出されたSBDを意味します。
なぜかこの図には艦攻隊の表記、fk が無いのですが、左側のfc表記の
日本戦闘機隊の動きを示す矢印に、
共に行動していた97式艦攻隊が含まれてると考えてください。
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