■戦いの始まり

さて、お次は作戦開始から6日目、X-7日の5月3日の状況でございます。

とりあえず、この日までに日本軍がツラギ一帯の占領を完了します。
敵は撤退済みですから、きわめて順調に作戦は進みました。

では、例によってまずは北側から見て行きますよ。



まずMO機動部隊は、この日再び、午前中早くからゼロ戦のラバウル空輸を試み、
またも悪天候にさえぎられて失敗に終わります。
さらに翔鶴の輸送用ゼロ戦の1機が着艦に失敗、
失われてしまっており、まあ、散々な状況ですね。

とりあえず既に丸1日以上の時間の浪費となっており、
さすがに一度予定進路に戻って南東に向かう事にするのですが、
この段階ではまだ空輸をあきらめておらず、
ブーゲンビル島北東沖で補給後、反転して再度空輸を試みるつもりでした。
(速度の遅い補給艦は別行動の上、無線封鎖中なので会合地点まで行かねば補給できない)
どうも、北からの接近をあきらめ、アメリカ側の哨戒機に発見される覚悟で、
ブーゲンビル島とラバウルの間の海峡から、空輸をやるつもりだったようです。

たった9機のゼロ戦の空輸のために、
空母機動部隊をここまでこの海域に貼り付ける、
というのはいくら考えても理解に苦しむんですが、機動部隊の動きを見てると、
どうも南洋艦隊司令部から強い要請があったようにも見えます。

とりあえず後世の我々は空母艦隊同士の決戦は凄惨な殴り合いになる、
と知ってるので、ノンキだなあ、と呆れますが、
この段階では人類の誰一人として空母決戦というものを知らないので、
それゆえの緊張感の無さなのかも知れません。

ちなみに上の地図でツラギの北あたりにつけた×印が本来の到達予定地点です。
それまでの移動距離から、もし余計な寄り道無しで、MO機動部隊が航海してた場合、
この日の夜までに到達してだであろう、という場所ですね。
これがツラギのすぐ北側なのを見て置いてください。
(1日無駄に移動して燃料を浪費してないので、補給も先送りされるのに注意)
この時、この場所に空母機動部隊がいれば、後で見るように、この段階で
珊瑚海海戦は、日本側の戦術的、戦略的、両面での
勝利となった可能性は低くないのです。
ラバウルへのゼロ戦空輸は、この作戦全体における致命的な遅れを
日本海軍にもたらしたと言えるでしょう。

一方、前日の夜までにソロモン海に入った護衛艦隊の主力、MO主隊は一度、
ツラギ付近まで南下しますが、上陸作戦中、特に敵の抵抗が無かったため、
その援護には向かわず反転、北上してしまいます。
これはポートモレスビー攻略部隊がラバウルから出撃(翌日4日出航)するのを
待ちながら、先に補給を行う予定だったからです。
ただし、全く何もしなかったわけではなく、
朝の内に祥鳳から艦戦3機(機種不明。ゼロ戦だと思うが)、
艦攻3機が出撃し、ツラギ上空の警戒を行っています。

で、この3日から戦闘に参加していた祥鳳の戦闘詳報の記述が始まります。
MO機動部隊に居た瑞鶴の戦闘詳報は翌日4日からなので、
単独で護衛部隊に配備された祥鳳の方が1日早く戦闘行動に入った、と認識していたようです。
(ちなみに翔鶴の戦闘詳報は私の知る限りでは現存しない)

はい、ここでもう一度同じ地図を。



でもって、この日、もう一つの大きな動きがアメリカ側に生じてました。
フレッチャー率いるUSSヨークタウンを中心とした空母機動部隊、TF17の北上です。
補給終了後、当初は日本軍の予想進撃ルート、デボイネ方面に向かって
そこで待ち伏せする予定だったのですが、
3日の朝にツラギに日本海軍が上陸を開始した、
という情報がオーストラリア軍からフレッチャーにらもたらされます。

このためフレッチャーは急遽、これを空襲する事にして北上を開始しました。
この人も、血の気が多い人ですからね(笑)。
先に書いたように、USSレキシントンを中心とするTF11はまだ補給中で動けず、
よってUSSホーネットだけで単独攻撃に向かったわけです。

彼はガダルカナル島に隠れて南からツラギに接近、
島を盾にして空襲部隊を飛ばす気でした。
これは3月10日のラエ・サラモア空襲に良く似た作戦で、
フレッチャーの得意技、といえるかもしれません。
ちなみに、このラエ・サラモア空襲も、今回と全く同じTF17、TF11、TF44による合同部隊で、
そういった意味では直前まで打ち合わせもやってない寄せ集め世帯だった日本海軍より
アメリカ側の統制は取れていたと思われます。

ただし、今の日の行動はUSSヨークタウンの単独行動であり、
正規空母2隻で来る、とわかってる日本海軍の機動部隊に対し、
各個撃破のチャンスを与えてしまう可能性がありました。
冒険的、と言っていい行動です。

この段階では、アメリカ側も日本の空母機動部隊の所在は全くつかめておらず、
彼の決断は完全にギャンブルであり、ほめられたものではないでしょう。
しかも、この段階では全く敵に知られてなかった
アメリカ空母機動部隊の存在をわざわざ日本に知らせてしまう事になります。

そして、実際、予定通りに日本側の機動部隊が航海してたなら、
翌日の朝までに、翔鶴、瑞鶴の2隻の正規空母は
これを攻撃圏内に捉えられる地点まで到達していたはずでした。
次回の地図で確認しますが、ソロモン諸島の東端を回って、
ツラギ攻撃中のTF17を側面から強襲できたはずなのです。
普通にやって、負ける要素はなかったでしょう。

が、勝利の女神は持てる戦力の全てを速やかに投入してきた
アメリカの空母機動部隊に味方し、このフレッチャーの大冒険は
日本側に十分な打撃と混乱を生じさせ、
彼のTF17は無事逃げ切ってしまう事になります。
悔しいけど、見事というほかありませぬ。
OODAループは、それを早く回す者に勝利を呼び込むわけです。

…この辺りから、日米の海戦って調べるだけで、
日本人にはすごいストレス、という時代に入って行きますな(笑)…。

という感じで、今回はここまで。


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