■逃げ場を無くすのであるヨ

さて、ではそんな急降下爆撃と、雷撃を組み合わせた
理想の戦法はどんなものなのか、
その点を最後に確認しておきましょう。

最初に目標艦に対する接触の仕方は、艦攻(雷撃)と艦爆では
当たり前ながら全然違うのだ、というのを見て置きます。
極めておおざっぱに言ってしまえば、下の図のような感じですね。
ちなみに急降下爆撃も雷撃も実際はもっと遠距離から投下しますが、
それじゃ画像が大きくなりすぎるので、この点はご容赦。



高高度から急降下して爆弾を投下する急降下爆撃は、当然、上から来ます。
ちなみに対空砲火が狙いにくいよう、太陽を背にして降下する、
というのをアメリカ側は意識してたらしいのですが、
日本側はそういのはやってないと思われます。
安全確保のため、投下後に飛び去る方向が帰還方向と
一致するようにするのが普通だったようです。
(敵戦闘機の迎撃を全速で振り切って後は逃げるだけ、という状態にする)

ちなみに迎撃側の戦闘機が艦爆を追いかけて一緒に降下してしまうと、
そう簡単に高度は取り返せないので、
次の編隊の高高度からの急降下爆撃を防ぐことができません。
さらに言うなら艦隊上空は友軍の対空砲火でスゴイ事になってますから、
そこで敵の攻撃隊を迎え撃つのは自殺行為となります。

なので、これを防ぐには急降下体勢に入る前
つまり艦隊上空に到達する前に叩き落さないとなりませぬ。
なので一度艦隊への接近を許してしまうと、迎撃戦闘機としては対応が難しく、
このため、日米ともに爆弾を落として艦隊上空から離脱した機体が狙われる
という状況が多く見られました。
これを振り切ろう、というのが、上で見た日本の艦爆の降下方法です。

でもそれじゃ戦闘機は艦隊の護衛になってないじゃん、と思いますが、
少なくとも機数を減らせば第二波攻撃、さらには今後の作戦行動を
妨害する事になるので、無駄ではないのでしょう。

それに対して低空から突っ込んで来るのが雷撃機でした。
その上、デリケートな魚雷を水面に落とすため、高速は出せず、
低速、低速度、という二重苦を抱えての攻撃でした。
この部隊で戦うのは、よほどの勇気が必要だったと思います。

ただし、こちらも一度接近を許してしまうと、
猛烈な対空砲火を放つ友軍艦に近づくのは不可能で、
迎撃戦闘機としては、なるべく艦隊から遠くで捉える必要がありました。
ちなみに上の図で目標艦を飛び越える飛行経路は日本式のものです。
先にも書いたようにアメリカの場合は高度40m以下での雷撃のため、
目標艦に衝突する恐れがあり、このため手前で旋回して逃れてました。
(対空砲火が手薄になる敵艦の真正面か真後ろ方向に出たはず)

でもって戦闘機は攻撃側、防御側、
どちらも艦攻、艦爆の両者に対応せねばならず、
このため空母艦隊決戦では常に戦闘機はいくらあっても足りぬ、
という事になるわけです。

この両者の攻撃はまっすぐ突っ走る魚雷は線の攻撃、
上から投下する爆弾を落とす急降下爆撃は面の攻撃になる、
というのも知っておいてください。

魚雷が直線攻撃、というのはなんとなくわかると思いますが、
急降下爆撃が面の攻撃になる、というのは
通常、小隊(3機前後)から中隊(6〜9機前後)規模で
同一の目標を狙うため、その着弾が一定の面積内に散布するからです。

勘のいい人は気が付いたと思いますが、戦艦などの主砲の
散布界と同じもので、この面の広がりを可能な限り小さくして、
その中に敵艦を収めて命中弾を出すようにするわけです。
散布界については、こちらで解説してますので、
よくわからぬ、という方は読んでおいてくださいませ。

ちなみに日本側の資料では、角度50度、高度450mでの爆弾投下が
最も理想的な小さな円の散布界となるとされ、この結果、
アメリカよりずっと浅い角度の55度が採用されたようです。
これ以上角度を上げると、前後方向の散布界は狭くなるものの、
弾着の散布が横に広がってしまうのだそうな。
この辺り、アメリカ側の資料が無いので、彼らがなぜ
より急角度を採用したのかはよくわかりません。

そして、もう一つの特徴として、魚雷は長い間水中を走るため、
その攻撃は比較的長時間、相手を拘束します。
対して艦爆の爆弾は落ちてしまえば一瞬で終わりです。

で、これらの適性を踏まえて理想の対艦攻撃を考えると、以下のようになるのです。



まず、魚雷攻撃から考えましょう。

上段1.は、普通に魚雷を横から投下した場合。
魚雷は敵艦の未来位置を予測して投下され、まっすぐ進めば当たるように投下されます。
が、これなら避けるのは比較的簡単でして、
2.のように魚雷が来た方向に曲がって、魚雷と魚雷の間をすり抜けてしまえばいいのです。
日本の酸素魚雷やアメリカが利用した電気式魚雷は航跡を残しませんが、
高い位置からなら水中に見えたようですし、艦攻からの雷撃なら、
機体の投下位置から、その進行位置を知るのは困難ではありません。

魚雷は到達まで結構な時間がかかる上、当時は誘導装置なんてなく、
直進するだけのため、このように操舵する事は、問題なく可能でした。

次は下段の1.ように、斜め後ろから撃つとどうなるか。
こうすると、上で見たように隙間を通過してすり抜けるには大きく回頭する必要があり、
大型艦の場合、その操舵が間に合わなくなります。
その場合、回頭中に見せた横腹に直撃を食らう事になってしまうので、
これを避けるためには、2.のように魚雷と同方向に
平行して航行するように避けるしかありませぬ。

この場合、魚雷は30〜40ノット前後、避けた艦も30ノット前後は出てますから、
両者はしばらく、並行して走る事になってしまいます。
左右に舵を切ると、ドカン、なのです。
となると、この間しばらくは回避運動が取れず
魚雷と並んで直進しかできません。
はい、チャンス到来。

この状態に追い込む前に、反対側からも斜め方向に魚雷が放たれていると、
この直進状態に入った艦はその横腹に直撃を食らうのを避ける術がありませぬ。
あるいは上空から急降下爆撃が出来れば、
直進してるだけの大型艦相手なら、これも一気に命中確率が上がるのです。

こうして複数の攻撃が連携することで、なかなか当たらない、
回避行動中の敵艦に、より命中しやすい状況を作り出すことが可能になります。

ちなみに、これらはあくまで一例で、逆に急降下爆撃を避けるために
相手が回頭する方向に向けて魚雷を発射する、といった戦法もあります。
とりあえず、

●複数方向からの攻撃で、目標の針路を限定する

●そうして回避運動が取れなくなったらタコ殴り


というのが、艦爆、艦攻の連携攻撃の基本となります。
そして、逆に言えば、これらの連携なしで、それぞれの単独攻撃だけでは、
そう簡単に目標に命中弾を与える事はできないのです。

といった辺りで、今回の脱線はこれまで。


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