■空母艦隊決戦の恐怖
では、この日の空母艦隊決戦によって、どれほどの損失が出たのか、
を具体的な数字で見ておきましょう。
まずは、日本側から。
とりあえず戦闘前の五航戦の戦力を見ると、以下の通り。
●五航戦全体 海戦開始時
97式艦攻 雷撃隊(艦攻) |
37機(+3?) |
99式艦爆 急降下爆撃隊(艦爆) |
43機 |
零式艦戦 戦闘機隊 |
37機 |
|
計117機+3? |
*雷撃機は翔鶴の数字が記録によって異なるので?を付けて付記したが、
実際に飛ばした機数からして全部で40機が正解だと思う。よって全部で120機と考えてよい。
ここから7日のUSSネオショー&薄暮攻撃の損失機数を引くと以下の通り。
●五航戦全体 7日夕方の保有機数
雷撃隊(艦攻) |
29機+3? |
急降下爆撃隊(艦爆) |
41機 |
戦闘機隊 |
37機 |
|
計107機+3? |
ただし艦爆と艦攻の内、何機かは前日の薄暮攻撃から戻っても
損傷がひどくて使用できず、8日朝の稼働機はこれより少なくなってました。
その結果、8日朝の段階で使用可能な稼働機数は以下の状態まで減少します。
●五航戦全体 8日朝の稼働機数
雷撃隊(艦攻) |
26機(-6機) |
急降下爆撃隊(艦爆) |
33機(-8機) |
戦闘機隊 |
37機 |
|
計96機 |
マイナスの数字が、作戦行動ができない故障機です。
使用不可能機の一部は単なる発動機不調などが原因なのかもしれませんが、
それでも多くが薄暮攻撃による損失よるのは間違いありません。
実際、薄暮攻撃に参加してないゼロ戦隊は、全く稼働機数を減らしてないのです。
これをみても、前日の薄暮攻撃がいかに愚かな作戦だったか、というのが見て取れるでしょう。
それに加えて7機の雷撃機(艦攻)が朝の索敵に投入されたため、
実際の攻撃に投入できた97式艦攻はさらに少なく、後で見るようにたったの18機でした。
(ただしこれだと合計25機で1機足りないが、その理由は不明)
そして、8日の戦闘が行われた後、その戦力は、さらに以下のように激減します。
●五航戦全体
雷撃隊(艦攻) |
6機+8機 |
急降下爆撃隊(艦爆) |
9機+8機 |
戦闘機隊 |
24機+1機 |
|
計39機+17機 |
数字が二つあるのは、左が作戦運用に耐える稼働機数、
右が修理次第で、数日内に使えるようになる、と思われる機体数です。
とりあず、攻撃終了後、戦闘に耐える状態だったのは39機だけで、
これは当初の120機の32.5%に過ぎず、航空部隊は事実上壊滅した、と言っていいでしょう。
要修理で復帰できた機体を合わせても56機、当初の46.7%でしかなく、
その損失は極めて大きいものだったのです。
(ただし翔鶴が被弾後、全機が瑞鶴へ着艦したため、
着艦後、格納庫に入れずに海に投棄した機体が他に12機あったとされる。
ほとんどが使用不可能な損傷機だったと思われるが、
一部には修理して使えた機体があった可能性もある)
その搭乗員に関しては不時着水後、周囲の艦に救助されたものもあり、
機体の損失ほど被害は多くはありませんが、
それでも作戦戦開始前からすると半数以上が帰ってきませんでした。
海戦終了時に出撃可能だった搭乗員は
戦闘機部隊 28名 艦爆17組(2人組×17) 艦攻 15組(3人組×15)となります。
こちらは最初の員数がわからいなのですが、
当初の搭載機数からして、戦闘機部隊以外は
全て半数以下に減ってしまってるのは間違いありません。
その戦闘機部隊でも、少なくとも9人、全体の1/4が失われてます。
(ただし負傷したまま帰還してる場合もあり、全員が戦死とは限らない。
それでも、もはや戦闘行動は不可能だから、事実上の損失ではある)
この戦いによって、開戦以来の強力な打撃力を持った
五航戦の航空戦力は、ほぼ失われたと言っていいでしょう。
この日まで10カ月近く、猛訓練と実戦の洗礼によって鍛え上げられて来た戦力が、
わずか24時間の間の戦闘で、一気に半減してしまったのです。
これが空母艦隊決戦の恐ろしい現実でした。
こうなると、日本海軍に残った一線級の実力を持つ艦上航空機部隊は
赤城、加賀の一航戦、飛龍、蒼龍の二航戦だけですが、
こちらも一か月後のミッドウェイで壊滅に近い打撃を受けます。
当時世界最強、といっていい打撃力を持っていた日本空母機動部隊の
航空戦力は、このたった一カ月の間に半減し、ほぼ壊滅するのです。
以後、その力が開戦時に匹敵するまでに回復する事は二度とありませんでした。
特に艦攻隊、艦爆隊の優秀な搭乗員がこれだけ大量に一気に失われたのは
この珊瑚海海戦が初めてのことであり、空母艦隊決戦の
損耗率の高さに日本海軍は驚く事になります。
それが持つ意味を海軍上層部がキチンと理解してたかは、
かなり疑問なんですけどね…
ただし、この点はアメリカ側も事情は似ていて、
やはり、その大きな損失に驚愕する事になりました。
こちらも確認しておきましょう。
まず、アメリカ側の当初の戦力は以前も見たように以下の通り。
●USSヨークタウン
雷撃隊(艦攻)/VT-5 |
12機(+予備1機) |
急降下爆撃隊(艦爆)/VB-5 |
15機(+予備3機) |
索敵爆撃隊(艦爆)/VS-5 |
15機(+予備2機) |
戦闘機隊/VF-42 |
17機(+予備2機) |
|
計67機 |
●USSレキシントン
雷撃隊(艦攻)/VT-2 |
12機 |
急降下爆撃隊(艦爆)/VB-2 |
18機 |
索敵爆撃隊(艦爆)/VS-2 |
18機 |
戦闘機隊/VF-2 |
17機 |
|
計65機 |
とりあえず、両艦で132機となってます。
これが、8日朝の段階だと以下の通り。
まずはUSSヨークタウンから。
USSヨークタウンの航空隊は7日の戦闘の損失に加えて、
4日のツラギ空襲で艦戦(VF)2機と雷撃機(VT)1機を損失、
さらに戦闘が無かったはずの5〜6日の間に、
理由不明ながら1機の雷撃機を損失してました。
当然、予備機は既に全て投入済みだったと思われます。
その結果が以下の8日の朝の機体数で、全部で8機ほど数が減ってます。
●USSヨークタウン
雷撃隊(艦攻)/VT-5 |
11機 |
急降下爆撃隊(艦爆)/VB-5 |
17機 |
索敵爆撃隊(艦爆)/VS-5 |
17機 |
戦闘機隊/VF-42 |
14機 |
|
計59機 |
ただし、USSヨークタウンも8日の朝の段階で、艦攻と艦爆に
使用不可能機が出ており、これを別にすると、攻撃に使える稼働機は以下の通り。
マイナス表記になってるのが修理等で使えない機体の数です。
●USSヨークタウン
雷撃隊(艦攻)/VT-5 |
9機(-2機) |
急降下爆撃隊(艦爆)/VB-5 |
17機 |
索敵爆撃隊(艦爆)/VS-5 |
15機(-2機) |
戦闘機隊/VF-42 |
14機 |
|
計55機 |
雷撃隊(艦攻)/VT-2 |
12機 |
急降下爆撃隊(艦爆)/VB-2 |
18機 |
索敵爆撃隊(艦爆)/VS-2 |
16機 |
戦闘機隊/VF-2 |
18機 |
|
計64機 |
●USSヨークタウン
雷撃隊(艦攻)/VT-5 |
8機+1機 |
急降下爆撃隊(艦爆)/VB-5 |
10機+1機 |
索敵爆撃隊(艦爆)/VS-5 |
5機+3機 |
戦闘機隊/VF-42 |
7機+2機 |
|
計30機+7機 |
雷撃隊(艦攻)/VT-2 |
0機 |
急降下爆撃隊(艦爆)/VB-2 |
5機 |
索敵爆撃隊(艦爆)/VS-2 |
7機 |
戦闘機隊/VF-2 |
5機 |
|
計17機 |