■アメリカ側の事情
ちょっとだけ最初に断っておくと、なぜかTF17は、この日の17:00に
作戦時間の基準をニューカレドニアのアメリカ基地時間から、
純粋な現地時間に切り替えてます。
理由は全く不明。さらに行動記録の記録時間も同時に切り替えたのか、
一部はっきりしないのですが、おそらく正しいだろう、という時間でこの記事は書いてます。
さて、アメリカ側、すなわちTF17の動きに関しては、先に書いた通りですが、
念のため、再度確認しておきましょう。
とりあえずスコール海域を通過中は何もできなかった上に、
その後もフレッチャーが索敵機を出さない事にしたため、
午後になってからは日没直前まで、特に何の動きもありませんでした。
この時までに既に何度も日本の索敵機に接触されていたため、
フレッチャーはTF17の位置は日本側に正確に把握されてる、と考えてました。
(半分だけ正解だった、というところだが)
このため、北西に居ると彼が考えていた日本の五航戦から
一時的に逃げるため(攻撃隊収容後から再装備完了までは無防備となる)、
彼らは南下を開始します。
ちなみに日本側、MO機動部隊は、USSネオショーを攻撃したことで、
自分たちが東側の海域に居るとバレた、と考えていた可能性が高いのですが、
実際は、USSネオショーのチョンボによってバレてなかったのは既に書いた通り。
その後、陸軍の索敵機からは何の連絡もなく、
このためフレッチャーは日没後、すなわち
北西にいる(と思ってた)敵からの航空攻撃の危険性が去った後、
西に向かおう、と考えていたはずです。
この結果、日没直前まで、TF17は南下し続けていました。
(五航戦の居場所は未だわからない。よって一方的にやられる事になる可能性が高い。
が、敵の索敵機の接触が困難になる夜間に入れば両者の条件は互角にできる。
さらに五航戦が西側に居るならば、
ジョマード水道以外に通り道は無いので、そこで待ち伏せればいいだけだ。
だったら日没になるまで、とりあえず南に避難すれば
明日の朝にはこちらも確実にジョマード水道周辺で敵を発見できるのだろう)
ちなみに、この南下をアメリカ人の皆さんはフレッチャーが慎重すぎる、
あるいは消極的とまで言って非難することがありますが、それは空母決戦を知らな過ぎるか、
この時のTF17が置かれていた状況を正しく把握できてないか、どちらかです。
この彼の行動は、上で説明したように、完全に理にかなってます。
ただスコール地帯を抜けた後も索敵機を出さなかったのが唯一の失策でしょう。
これによって日本のMO機動部隊が東に居る、と気が付けば、
その後の展開も大きく変わっていた可能性は高いのです。
とりあえず実際の五航戦、MO機動部隊は東に居たわけで、
この点において、フレッチャーは完全に裏をかかれました。
が、日本側はさらに上を行く失策のプロ集団だったので(涙)、
この日の彼は救われる事になるのです。
結局、この日17:30ごろ、フレッチャーは、予想外の事態に驚くことになりました。
USSレキシントンのレーダーが日本の攻撃機部隊の接近を発見、
しかもそれは東(南東)から飛んできたのです。
彼はこの瞬間初めて日本の空母機動部隊は、はるか彼方の北西方向ではなく、
以外に近距離に居た、それどこか東に居る可能性がある、という事を知るのです。
というわけで、もう一度、ここで同じ地図を。
何度か書いてるように、USSレキシントンの航跡図と、日本側の航空部隊の航路図が
揃っていい加減なため(涙)、正確な位置が断定できないので、
あくまで大筋のものと思ってください。
まず15:00前後にスコール海域を抜けたと思われるTF17は15:20に上空警戒機を8機、
おそらくUSSレキシントンから発艦させています。
ただし、わずか35分後の15:55にはその内4機を着艦収容してしまいました。
この辺りの理由がよくわかりませんが、まだ悪天候で飛行に向かなかったのかもしれません。
この辺りの時間帯の航跡が東に向かって蛇行してるのは、このためです。
その後、再び南南西に針路を取るのですが、
16:30ごろに日本の水上機が艦隊に接近して来るのがレーダーで捉えられました。
その迎撃に、上空哨戒中のF4F戦闘機を向かわせましたが、
雲が多くて見失ってしまい、撃墜に失敗してます。
最終的には17:00ごろにレーダーから反応が消え、接触は失われた、と見てるようです。
これは4発エンジンの機体だったとされるので、おそらくツラギの基地から飛んできた
97式飛行艇だと思われますが、日本側の記録には敵艦隊発見の報告記録が無く、
どうもこの機体はTF17の存在に気が付かないまま飛び去ってしまった可能性があります。
が、フレッチャーはこれでまた日本側にF17の位置が知れた、と判断したようです。
ちなみに、この前後の報告書を見ると、USSヨークタウンの側でも
レーダーによる追尾をやってるようすがあります。
どう見てもレーダーアンテナ、積んでないんですけど…ホンマかいな。
周辺の巡洋艦から情報もらってたのでは、という気もしますが、
この辺りは謎としておきます。
もしかすると、遠距離用の索敵レーダーではなく、
小さなアンテナの高周波射撃管制用のレーダーが既にあって、
それで至近距離の索敵だけやってた、という可能性もありますが、
この辺りは資料が見つからないので、なんとも言えません。
そしてその約50分後、17:47にUSSレキシントンのレーダーが
方位144度(南南東)、48海里(88.9q)の位置に
TF17方向に向かってくる航空機の二つの編隊を捉えます。
(ただしUSSヨークタウンの報告だと18海里(33.3km)となってるが、
先に書いたようにUSSヨークタウンのレーダーは怪しく、
レーダーの情報に関してはUSSレキシントンの方が正しいと思われる。
実際、この距離はいくらなんでも近すぎる)
これが五航戦の薄暮攻撃隊だったのですが、
TF17の司令部はこれを先の飛行艇の報告でやってきた攻撃隊と考えたようです。
編隊が二つに分かれてたのは、艦爆と艦攻隊でしょう。
そして何とびっくり、敵は東から飛んできたのでした。
この五航戦の薄暮攻撃隊がTF17に向かっていたのは全くの偶然だったのですが、
アメリカ側がそんな事情、知るはずありませんから、大慌てで戦闘配備が整えられ、
その迎撃が上空で哨戒中の戦闘機部隊に命じられます。
上空の援護も航空作戦ですから、その指揮もUSSレキシントン側で行ってました。
敵の接近に気が付いたUSSレキシントンの戦闘指揮官(Fighter
Director)は、
まず上空に居たUSSヨークタウンの機体を呼び戻して着艦させます。
これは残りの燃料が少なく、さらに例によって敵味方識別装置(IFF)を積んでいない事から、
敵と混じってしまうと識別が困難だったためです
この時は敵の攻撃隊は艦隊に向かってると思われてましたから、
艦隊上空に侵入してきたのが敵機か、友軍機かを識別するのは死活問題だったのです。
このため、IFFを積んで居たUSSレキシントンの4機の編隊を最初にそちらに向かわせます。
これらは20〜25海里、USSレキシントンから約40q前後西の地点で
これに追いつき、攻撃に入ったとされています。
(おそらく、その間に薄暮攻撃隊は、TF17の南を素通りしてしまったと思われる)
同時に、艦上で待機していた戦闘機を発艦させるため18:00ごろに
艦隊は風上の東に向けて回頭し、両艦から11機のF4Fを次々に発艦させました。
この内、USSレキシントンの部隊が艦隊上空の護衛に残り(5機だと思われる)、
USSヨークタウンから上がった6機が、日本の攻撃隊の迎撃に向かいます。
おそらくこの段階では十分な距離が離れていたため、
敵味方識別装置(IFF)なしでも問題は無い、と判断されたのでしょう。
よって先に派遣された4機と合わせ、10機が日本の攻撃隊を潰しに行ったわけです。
戦闘機の居ない日本の攻撃隊の運命は、これで決まった事になります。
ちなみに、先にも書いたように、最初に日本の攻撃隊に接触した
USSレキシントン隊の4機は97式艦攻をゼロ戦と勘違いしてしまいましたが。
ただし最初に向かったUSSレキシントン隊も燃料は十分でなかったようで、
この4機は一撃を加えた後、機動部隊から40海里(74q)も離れてしまったため、
それ以上の追撃を諦め、空母へと帰還してます。
その後は、USSヨークタウン隊の6機が主に攻撃を行ったようです。
ちなみに、このUSSヨークタウン隊のF4Fが日本の攻撃隊を襲った時、
日本機の内1機が、大きな火球を生じさせる、一種の榴弾のようなものを
撃ちだしてきて来た、という報告があります。
この点については日本側に記録がなく、なんでしょうね、これ。
漏れたガソリンが空中で引火した、とかかなあ。
空中戦の結果についてはすでに説明したので、ここでは省略します。
最終的に18:25にUSSレキシントン隊は全機帰還、
ただし先に書いたように、おそらく空中衝突で1機損失。
後から出たUSSヨークタウン隊も18:52に帰還していますが、
日没後となったため、先に書いたように、
1機が母艦を発見できず、行方不明になりました。
さらにもう1機が日本側によって撃墜されたと見られ、2機の損失。
さらに帰還した内の1機が大破しており、破棄されて計3機が失われます。
とりあえず、この最後の空中戦で、
日米ともに錯誤と混乱の中に7日の戦闘は終わった、
やれやれヒドイ一日だった、と考えていたと思われます。
なにせもう日没ですから、これ以上の空母艦隊決戦は不可能なのです。
ところがF4F戦闘機隊の母艦への帰還時、
まさにこの日戦闘の最後の最後の瞬間に、近代海戦史上、
唯一無二といえる前代未聞の大錯乱が待っていたのでした。
その異変に最初に気が付いたのは、USSヨークタウンの護衛艦だったと言われてます。
この時、母艦に帰還しつつある友軍機が旋回してる上空を見上げると、
最初に発艦した機体よりも、ずっと多い数の飛行灯が暗い空の中に点滅し、
それらが緩やかに着艦体制に入りつつあったのです。
というわけで、人類史上まれに見る7日最後の大混乱は、次回見てゆきましょう。
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